走っているクルマを止める時は、ブレーキペダルを踏む。すると、車輪に取り付けられたブレーキが作動して回転を止める。タイヤが地面に接しているから、車輪の回転を抑えれば(空転やスリップが起きない限りは)スピードは落ちる。今回は、飛行機の動きを止める仕組みについて考えてみよう。
空力的な制動手段が必要
飛行機でも、地上を滑走している時は車輪に取り付けたブレーキを使う。クルマと同様にディスクブレーキだが、ブレーキディスクが1つの車輪に複数枚ついている場合があるのは違うところ。
では、空中を飛んでいる時はどうするか。地面に接していないのだから、車輪の回転を止めても意味がない。そこで登場するのが、空力的な制動手段である。
まず、主翼の上面に展開するスポイラーがある。百の能書きより1枚の写真。実際に作動している様子を見ていただければ一目瞭然だ。
空気の流れの中に衝立を立てるようなものだから、当然ながら抵抗力が発生して速度が落ちる。なお、スポイラーの中には飛行中に使用するものと、着陸後に使用するものがある。同じスポイラーを飛行中と着陸後の両方で使用することもある。
制動専用のスポイラーなら左右を同時に同じ角度だけ立てるものだが、片方の主翼でのみ作動させることで横操縦に使用する事例があるのは、以前に第9回で述べた通りである。
エアブレーキとドラッグシュート
ところが、スポイラーとは別にエアブレーキというものもある。スポイラーと同様、機体外板の一部を展開して抵抗力を発生させるものだが、スポイラーが主翼の上面に取り付いているのに対して、エアブレーキが取り付けられる場所は豊富だ。
F-15イーグルの場合、背面に大きなエアブレーキを取り付けており、それを展開すると以下の写真のようになる。
F-15は専用のエアブレーキを背面に備えた一例だが、背面に付いているとは限らない。F-16ファイティングファルコンだと、水平尾翼付け根部分の胴体外板が上下に展開する。面積はあまり大きくないが、これで用が足りるということだろう。
このほか、後部胴体の左右にエアブレーキを展開させる機体は少なくない。機種によっては胴体下面にエアブレーキを展開させることもあるが、もちろん、接地しても支障がない範囲にとどめるか、接地の際に収納するという前提である。地面にエアブレーキをぶつけたら壊れてしまう。
機種によっては、全遊動式の水平尾翼を前下がりの方向に目いっぱい作動させて、エアブレーキの代わりにしている例もある。
最近の飛行機ではあまりはやらないが、昔の軍用機でおなじみだったアイテムがドラッグシュート。要するに制動用パラシュートで、着陸直後にこれを後部に展開させる。ただし機種によっては、着陸直前にドラッグシュートを展開して、行き脚を抑えたところで接地させることもある。
見るからにブレーキがよく利きそうだが、ドラッグシュートにはいくつか問題がある。
まず、着陸した後でシュートを折り畳んで機内にしまい込む手間がかかる。B-52ぐらい大きな機体になると、ドラッグシュートも大きいから大変だ。また、ドラッグシュートと機体を結ぶケーブルがからみついたり、機体に傷をつけたりする懸念がある。そして、着陸時にしか使わないドラッグシュートのために、余分なスペースと重量を必要とする。
といった理由によるのか、最近はドラッグシュートではなくエアブレーキを多用する傾向にある。ただし、寒冷地での運用を想定して「ドラッグシュートがもっとも頼りになる」とした事例もある。
F-16はもともとドラッグシュートを搭載していなかったが、寒冷地で運用するノルウェー空軍は「滑走路が氷結する場合に備えて、ドラッグシュートが要る」といって、垂直尾翼の付け根に追加装備した。これが後に他国にも広まり、航空自衛隊のF-2も同様の手法でドラッグシュートを備えた。ノルウェーでは同じデンで、F-35Aにもドラッグシュートを付けることにしている。
エアブレーキにしろドラッグシュートにしろ軍用機が主な使用事例で、民航機(軍用輸送機も含む)では、エンジンの逆噴射とスポイラーの組み合わせで済ませるのが普通だ。それはそうだろう。いちいちドラッグシュートを折り畳んで収容する手間はかけたくない。