「Vtuber」という存在を知っているだろうか。Vtuberとは、「Virtual Youtuber(バーチャル ユーチューバー)」の略で、仮想のキャラクターを利用して、人間の動きをモーションキャプチャで反映させた動画や配信映像をYouTubeに投稿している人のことを指す。

近年、盛り上がりを見せるVtuber業界だが、そこに企業の名前を背負い参入する「企業公式Vtuber」が登場している。

本連載では、会社の顔としてVtuberを導入している企業の担当者に話を伺い、その誕生秘話や担当者の想いに迫る。

第6回となる今回は、日本の「お天気情報」を支える世界最大の民間気象情報会社であるウェザーニューズの公式Vtuber「ウェザーロイドAiri」。マネージャーを務めるウェザーニュースキャスターの山岸愛梨氏に話を聞いた。

  • ウェザーロイドAiri

「ウェザーロイドAiri」はどんなVtuber?

ウェザーロイドAiriは、天気の情報を伝えるために最先端の技術を用いて開発された「アンドロイド系お天気お姉さん」。正式名称は、「WEATHEROID Typy A Airi(ウェザーロイド・タイプエー・アイリ)」で、2012年4月というVtuberとしての最初期に2Dキャラクターとしてデビューし、それ以降はYouTubeのみならず、毎週木曜日22:00から1時間ウェザーニュースLiveに登場するなどさまざまな活躍を見せている。

「ウェザーロイドAiriは、お天気をライブの楽しさで届けたいという想いからデビューしたキャラクターで、見た目はイラストコンテスト形式の公募で決定しました」(山岸氏)

  • 今回話を聞いた担当者の山岸氏

名前からも分かる通り、ウェザーロイドAiriはマネージャーである山岸愛梨氏をモデルにしたキャラクターで、Vtuberという概念すらない時代にニコニコ静画の企画内で誕生した。

見た目に関して、災害情報などの真剣な情報を伝えることも少なくないウェザーニュースとしては、「人の形をしていること」が情報を伝えることの前提だと考えていたそうで、人型で山岸氏の雰囲気に合っているものが最終候補として残っていたという。

  • ウェザーロイドAiriの全身画像

「お天気予報への信頼度とは不思議なもので、家族や友人から聞く『今日はこの後、雨が降るらしいよ』という言葉が、専門家の言葉と同じくらい信頼度が高くなることがあります。そのため最終候補の中から、『身近なお姉さん』という雰囲気のある見た目が採用されました」(山岸氏)

Vtuberのレジェンド的存在なのに実態は「ポンコツ」?

筆者は本連載を始めるにあたってさまざまな企業のVtuberの担当者に話を聞いてきたが、多くの担当者がウェザーロイドAiriを「Vtuberのレジェンド的存在」として挙げていた。

実際、Vtuberという名前が広く知れ渡るようになった2016年よりも前から活動しているウェザーロイドAiriは、企業公式のVtuberとしてだけでなく、「Vtuber業界」の最古参の1人として名前を挙げられることも多い存在だ。

そんなベテランVtuberの彼女だが、実はもう1つの名前がある。

「ウェザーロイドAiriは、ファンの方から通称『ポン子』と呼ばれています。この名前はかなり定着しており、YouTubeもポン子の名前を使用したチャンネル名になっています」(山岸氏)

この「ポン子」という名前の由来は「ポンコツ」から来ているといい、そこにはウェザーロイドAiriの素性に迫るさまざまな理由が隠されていた。

その第一の理由が、Vtuberらしからぬ自由な発言の数々だ。ポン子ことウェザーロイドAiriは、Vtuber業界の中ではタブーとされている「メタ発言(フィクション作品の登場人物が、自らがフィクション作品の登場人物であることを意識して行う、自己言及的な発言)」や「自由な感想」を口走ってしまうことが少なくないという。

特に彼女の自由さはウェザーニュースの早朝コーナーで始まり、現在はYouTube上でも毎週投稿されている「ウェザーロイド占い」での「かに座」いじりに見られる。かに座が最下位になった時に荒ぶったり、かに座が上位にランクインしていても1番最後に発表されたりと、ファンや周りのVtuberたちにとっては定番のネタになっているようだ。

【師走は忙しい!】ウェザーロイド占い2022年 12/5 ~ 12/11対象

また、Vtuberのシステムが発展途上の段階から活動していたゆえに、デビュー当時は放送事故に担当者たちは頭を悩ませていたと言い、停電事故やモデリングの不具合など現在の企業公式Vtuberでは考えられないスリリングな放送を乗り越えてきたという。

「本来であれば『世界観』が最も大切にされるVtuberですが、ファンの方たちも10年間このポン子のポンコツっぷりに振り回されているので、この少しポンコツな環境に慣らされてしまっている部分があると思います。放送事故など、ポン子のポンコツな部分も含めてファンの方には愛していただいているな、といつもありがたく思っています」(山岸氏)

企業の良い部分も足りない部分も応援してもらう

2022年でデビューから10年間Vtuber業界の流れを見てきた最古参Vtuberとも言えるウェザーロイドAiriだが、今後のVtuber業界についてどう考えているのだろうか?

「今後、Vtuberに限らずメタバース空間で自分のアバターを使用したコミュニケーションは増えていくと思います。おそらくそれは個人間だけの話ではなく、企業とお客様をつなぐコンテンツになっていくでしょう。そのような未来がいざやって来たタイミングで、そこから始めようと思っても遅いのではないかと弊社は考えています。失敗を含めて試しておいて、いざという時にすぐ情報を伝えられるようにしておくことが、メディアとしての責務なのではないかと思っています」(山岸氏)

今までに数多くの失敗を経験してきたウェザーロイドAiriだが、そんな失敗にめげずに10年もの間、天気や防災といった難しいテーマの話題を明るく人間とは違ったアプローチで届ける姿は、ウェザーニューズが会社の顔として目指していた姿なのだろう。

【#ポン子生放送】防災の日 企画非常食を知るために全部開けてみます 2022年9月1日 LiVE

最後に、今後社内でVtuberを導入するか検討している企業の担当者に向けて、企業系Vtuberの先輩としてアドバイスをいただいた。

「『顧客とのきっかけはどこにあるか分からない』ということをお伝えしたいです。企業のキャラクターとしてVtuberがいることで、コミュニケーションの架け橋になってくれることは私もポン子に関わっているうちに強く感じていることです。またキャラクターを通して、普段の私たちの様子や活動を知ってもらうことで、会社として何かあった時にも見捨てず応援してくださるファンの方もいらっしゃると思います。企業の良い部分も足りない部分も合わせて応援してもらえることが、企業公式Vtuberを運営する上でのメリットではないかと思います」(山岸氏)