
ロシアとプーチン大統領を理解する上でまたとない一冊
ロシアという国とその指導者であるプーチン大統領を理解する上でまたとない一冊である。
著者は在任期間が8年の長期に及んだ前駐ロシア大使。上月氏は外務省の官房長もつとめ、長年にわたり、我が国の外交を支えてきた元外交官である。私も長きにわたって交流の機会を頂いている畏友だが、ロシアと言う国について、とりわけプーチン大統領という人物に関する見識において右に出る人物はいないと思う。実際、権力の階段を上がっていくプーチンと長期にわたり何度も会っている著者のような人物は世界でも珍しいのではないか。
本書は現在のウクライナ戦争に至るプーチンの思考や行動原理とその歴史認識の関係と、認識対象であるロシアとその周辺地域の歴史を分かりやすく解き明かしてくれる。
ロシアの起源が9世紀にバイキングの一部が南下して、キエフ周辺に建国したとされるキエフルーシにあること。13世紀から長らくモンゴルの宗主権の下にあった「タタールのくびき」の後、南からオスマン帝国、西からポーランド・リトアニア大公国に圧迫され、16世紀から17世紀には現在のウクライナ地域の大半は両者の支配下となり、ロシアもモスクワを一時期ポーランド・リトアニアに占領されるなど「帝国」からは程遠かったことなど、驚くべき史実が展開される。
さらには東ローマ帝国から続くキリスト教「正教会」の関わりなど、読み進むにつれて現在のロシアとウクライナの複雑な関係に関する謎が解けていく上質な推理小説の趣さえある。
歴史は、地政学的なマクロの変転を縦糸に、そこに現れるリーダーのミクロの個性を横糸に、両者が相互に作用しながら動いていく。高校までの世界史教育において、西欧史、米国史、中国史は比較的詳しく教わるが、ロシア史、東欧史はほぼ空白である。
今、世界で起きていることを歴史的観点から理解するための大きな欠損部分を補う必読の書である。