AIエージェントの活用が広がる一方で、「期待した成果が出ない」という声も少なくない。その背景にあるのが、業務やデータの文脈不足だ。Quollio Technologies(クオリオテクノロジーズ)は、AIが理解できる「コンテキストレイヤー」を軸に、データカタログの再定義とROI(Return On Investment:投資利益率)の創出を目指している。

米国の世界的なVC(ベンチャーキャピタル)のa16z(Andreessen Horowitz)は「AIエージェントは正しいコンテキスト(文脈)なしには本質的に使い物にならない。曖昧な質問を解きほぐすことも、ビジネス定義を解読することも、散在するデータを横断的に推論することもできない」と断言している。

Quollio Technologies 代表取締役社長 CEOの松元亮太氏は「われわれの課題認識は以前から一貫しており、AIエージェントに業務を任せようとしても、文脈が欠けていると単純な質問、例えば売上データの収集などに対しても答えることができないことがあります。回答できるためにはコンテキストが必要であり、文脈を補完するレイヤーとしてコンテキストレイヤーが重要です」と話す。

  • Quollio Technologies 代表取締役社長 CEOの松元亮太氏

    Quollio Technologies 代表取締役社長 CEOの松元亮太氏

AIエージェント活用の鍵を握る「コンテキストレイヤー」とは

同社は2021年に設立したスタートアップで、データインテリジェンス、ビジネスメターデータの専門企業だ。KDDIやENEOS、中国電力、ヤンマーなどのユーザーを抱えている。

松元氏は「データカタログは、本来データサイエンティストを補助するための仕組みです。これは彼らがデータを理解・解釈するための情報として、テクニカルメタデータ(システム起点のメタデータ)や業務の文脈で使うビジネスメタデータなどがあり、当社はビジネスメタデータに注力してきました。しかし、昨今では業務部門で用いるAIエージェントがデータにアクセスするため“コンテキストレイヤー”と呼称が変化しつつあります。AIが業務とデータを理解するためには、コンテキストレイヤーが鍵を握ります」と念を押す。

Quollioは「データ&アナリティクスコンテキスト」「ビジネス&インスティテューショナルコンテキスト」「ガバナンス&トレーサビリティコンテキスト」と、大きく3つのコンテキストレイヤーを定義している。

データ&アナリティクスコンテキストはデータの意味・定義、いわゆるセマンティックレイヤーであり、ビジネス&インスティテューショナルコンテキストは業務や経営の文脈、ガバナンス&トレーサビリティコンテキストは、AIがデータを利用する際の事前のガードレールとして機能するほか、事後調査時の説明責任を果たすために用いられる。

  • コンテキストレイヤーの概要

    コンテキストレイヤーの概要

同社は、こうした定義をベースにデータインテリジェンスプラットフォーム「Quollio Data Intelligence Cloud(QDIC)」を軸に、横断データカタログ「Quollio Data Catalog」や、AI用コンテキストレイヤーのユースケースに沿ったソリューションを提供している。

メタデータ管理をパイプライン化する新機能「Metadata Lifecycle Manager」

2026年3月末にはQDICの新機能としてメタデータをパイプラインで一括管理する「Metadata Lifecycle Manager(MLCM)」を発表。新機能のローンチに至った経緯として、データが作成されてから全社で利用可能になるまでのプロセスが、必ずしも整理されていないなどの課題を挙げている。

従来は、スキーマ定義やメタデータ入力、証跡作成といった作業において「誰が担うのか」「どこまで責任を持つのか」といった調整に多くのコストがかかっていた。これに対して、MLCMはデータソースごとにメタデータ管理のパイプラインを定義し、工程(ステージ)と担当者をあらかじめ割り当てる。

  • 「Metadata Lifecycle Manager」の概要

    「Metadata Lifecycle Manager」の概要

これにより、担当者は自分が処理すべきデータに集中でき、進捗状況も可視化され、個別の確認作業を繰り返す必要がなくなるというわけだ。松元氏は「新しいメタデータが作成されてから全社で利用し、廃棄するまでメタデータの品質管理業務を行うことができます」と説明する。

また「セマンティックアノテーション」と呼ぶ、AIが使いやすいようにグラフ構造でビジネスロジックを構築する機能開発を進めている。さらに、顧客が利用しているLLM(大規模言語モデル)を使いながらMCP経由で、業界ごとのメタデータの設計・分類などのAIループを構築していくことにも取り組む考えだ。

松元氏は「品質管理の業務かとAI用グラフ化、独自データ化に取り組みます」と述べている。今後、APIとMCP(Model Context Protocol)サーバを通じて、AIエージェントがビジネスメタデータを読み書きすることを前提とした世界観を描いている。

ROI創出までを支援するプロフェッショナルサービス「Quollio INTEGRAL」

一方、松元氏はQuollioがプロフェッショナルサービス「Quollio INTEGRAL」を提供する理由にも言及した。背景にあるのは、製品を導入しただけでは、顧客組織内で価値創出まで到達しないケースが少なくないという問題意識からくるものだという。ここ数年、特に課題として浮上している、AI活用におけるROIだ。

具体的には、組織や役割、プロセス、ルール設計が整っていない、AI活用やデータ分析のユースケース選定や価値算定が難しい、メタデータ管理フローをどう設計すべきか分からない、といった課題が企業では挙げられている。さらに、ITやDXの部門がLOB(業務部門)へ展開する際のコミュニケーション設計に悩むケースも多い。

加えて、AIエージェントに十分なコンテキストを与えるための裏側の仕組み、例えばMCPサーバの運用なども、ツール提供だけでは自走しにくい。こうしたギャップを埋めるため、同社はINTEGRALを通じて「Δ1(デルタワン)」~「Δ4(デルタフォー)」の4つのフェーズで、上流から下流までを支援する体制を構築している。

  • 「Quollio INTEGRAL」の概要

    「Quollio INTEGRAL」の概要

支援範囲を段階的に整理しており、その中で最も需要が高いとされるのがΔ4(AIインパクトPoC)とのことだ。ここでは、AIエージェントにどのようにメタデータを与え、どのように成果を可視化するかがテーマとなる。

従来のデータカタログは、数年単位でメタデータの整備を進め、完成した頃には利用者の関心が薄れているといったケースも少なくなかった。ROIを実感できるまでに時間がかかり過ぎていた。

同氏は「Δ4ではAIエージェントがメタデータを実際に使っている状態を早期に作り出すことを重視します。その結果、価値を短期間で示せるためROIを説明しやすくなります」と説く。

AIとの対話から始まる「自律的なメタデータ整備」

もう1つ、同社が重視するのが“自律的な整備”という考え方である。数年かけて準備してから公開するのではなく、AIとの日常的な対話の中で暗黙知が生まれることを前提とする。

「このデータは別用途でも使えそうだ」「この用語の定義は実態とズレているのではないか」「この資料は実はこう使いたい」といった会話の中から、メタデータやコンテキストになり得る情報を抽出し、登録。

裏側ではデータ管理者がレビューし、全社で利用可能な知識として承認する。松元氏によれば、使う側から整備する発想により、ROIを実感しやすくなることに加え、初月レベルから整備が回り始める点が特徴だという。

  • 「Quollio INTEGRAL」のΔ4で「ROIの実感」と「自律整備」が実践できるという

    「Quollio INTEGRAL」のΔ4で「ROIの実感」と「自律整備」が実践できるという

AIエージェントを中心に据えた「コンテキストレイヤー」

当面の間、Quollioが目指すのは説明するまでもなく、企業におけるコンテキストレイヤーの構築だ。従来のメタデータ管理は「データを作り、渡す」という一方向の発想で語られることが多かったが、現実には作る人と使う人が同じケースも少なくない。

AIエージェントと業務部門を中心に再整理すると、メタデータを整備することと活用することが自然に一体化していく。その裏側で、AIが読み取りやすい形でコンテキストを管理し、Human-in-the-loopによって品質とライフサイクルを統制する構造を描いている。

  • AIとコンテキストレイヤーの好循環が理想の形だ

    AIとコンテキストレイヤーの好循環が理想の形だ

市場ポジショニングについて、松元氏はSaaS市場が今後、プラットフォーマーとソリューション提供者へと二極化していくと想定。OpenAIやAnthropic、GAFAM、IBMなど多様な基盤が登場する中で、日本市場では「それらをどう業務に適用するか」が一段と重要になるとの見立てだ。

同社は、自社プラットフォームの拡張性を高めつつ、メタデータ管理、データガバナンス、コンテキストレイヤー構築といった領域で専門性を磨く方針だ。あわせて、顧客側で吸収しきれない部分については、Integralを通じたコソリューションとして提供していく。

将来的には、コンテキスト監査やAIガバナンスといった新たな分野の立ち上がりも視野に入れており、そこに対応できる知見を蓄積していく考えを示していた。