【 AI活用の先にあるのは・・・ 】第一生命経済研究所首席エコノミスト・熊野英生

成長戦略の一丁目一番地は、AI等を活用して企業が生産性向上を目指すことだろう。海外では、話題の中心はAIであるし、日本でも筆者がAI活用について講演するとほぼ全員の参加者が耳を傾けてくれる。ビジネスマンの関心は、AIの進化に集中している。

 実は、AIを使って何ができるのかは、今のところ定説はない。単純に調べものを検索エンジンの代わりに使っている人もいれば、電子メールの返信をAIに下書きしてもらったり、請求書作成・AIを利用して行っている人もいる。

 米国では、新型AIのクロード・コワークを使えば、多くの業務用ソフトが不要になると騒がれている。新型AIの供給元であるアンソロピック社の名前を冠して「アンソロピック・ショック」と呼ばれている。日本の株式市場でも業務用ソフトに関連した銘柄が、2月初から下落したまま回復してこない。これは、ソフトウェア分野で劇的な世代交代が進もうとする機運なのだと言える。

 おそらく、日本では業務用ソフトを利用しなくなるだけではなく、その業務に従事している事務職の人の仕事も消滅することになるかもしれない。米国に比べて雇用確保の義務が強く課されている日本企業では、人減らしをしてまで生産性を高めようとする変化が米国に比べて緩やかにしか起きない可能性が高い。それでも、人手不足がより深刻化する未来に、このAI進化は歓迎できるものだと筆者は考えている。

 このAIブームは、2022年11月末のChatGPTの登場に端を発するものである。しかし、その手前の2020年頃から、日本企業ではソフトウェアの導入が活発化していたという前史がある。例えば、モノのインターネットと呼ばれるIoT(アイオーティ)や、無人化・ロボット化である。自動車、鉄鋼、窯業でソフトウェア投資が急増した。非製造業でも、飲食店、スーパーのセルフオーダー、セルフレジの普及である。そうしたソフトウェアの進化の延長線上にAIがある。つまり、ソフトウェア投資を拡充して、省力化・生産性向上を企業が図ろうとする取り組みは、AI登場によってさらに加速するという未来図が描ける。

 企業財務を分析すると、21年頃からまず労働生産性(名目値)が上昇して、それを後追いするように賃金上昇が進んだ。だから、AI活用の先にあるのは、雇用削減よりも、賃上げだと予想される。

 もしも、中小企業が賃上げしようとするのならば、AI活用で人員を節約して、人手不足を緩和して、同時に生産性を上昇させる。実際、大企業は、ソフトウェア投資を過去5年間で1.5倍に増やして生産性上昇を実現している。それが22年以降の継続的な賃上げを実現する影の要因になっている。同じ作用を中小企業もAI活用をてこに実現するのである。