日立製作所は、春季労使交渉の集中回答日となった3月18日、同社労働組合より先般提出された要求書に基づく交渉の結果を発表。過去最大の要求額となった基本給のベースアップ(ベア)1万8000円に対し、5年連続での満額回答(平均昇給率:6.5%)となり、賞与要求に対する回答(6.66か月分)と共に過去最高水準の回答となったことなどを発表した。
平均昇給額は2万3690円で物価上昇を上回る昇給に
経営計画「Inspire 2027」で掲げられた持続的な成長の実現に向け、“企業価値向上の好循環”の確立を目指す日立では、この好循環に不可欠となる“総合的な人財への投資”を重視し、従業員のエンゲージメント向上や目標へ挑戦する環境の醸成を目指している。
同社は総合的な人財への投資の一環として、これまでにもさまざまな取り組みを行っている。特に春季労使交渉における報酬改善については、ここ12年連続での賃金水準改善を行っており、直近4年では日立労働組合より提出されたベア要求に対して満額回答を行ってきた。また併せて、研修制度をはじめとする教育への投資額増加や、育児・介護などとの両立やサテライトオフィス拡充など多様な働き方を実現する環境整備も進めている。
そうした中で今般行われた春季労使交渉。2月19日に日立労働組合 中央執行委員長の半沢美幸氏から提出された要求書では、賃金体系を維持した上で1万8000円の水準改善が求められると共に、賞与については6.8か月分が要求された。以降、日立 執行役常務 Deputy CHROの瀧本晋氏を筆頭とする会社側と労働組合側による交渉が行われたといい、経済動向・社会的責任・企業業績・従業員のモチベーションの4項目を主要素として意見交換が繰り広げられたとのこと。日立 執行役専務CHROのロレーナ・デッラジョヴァンナ氏によれば「労働組合とは建設的な対話を重ねることができた」という。
そして今般、交渉の結果を受けた回答内容が発表された。基本給のベースアップとしては、5年連続の満額回答となり、平均昇給額としては2万3690円、平均昇給率は6.5%と明かされた。また賞与交渉の結果については、6.66か月分となる244万5552円と回答。この結果、賃金と賞与を合わせた従業員1人あたりの平均年収増率は6.0%と発表された。今回の決定要因については、経済動向の先行きは不透明であるものの、物価の上昇傾向は継続するとみられており、また日立の2025年度通期業績は各事業の拡大によって増収増益となる見通しであることなどが列挙された。
入社初年度年収も公開、修士卒は手当込みで700万超
こうした報酬面での水準改善は、人手不足が叫ばれる現代における人財獲得にも大きく影響する。今回のベアは新卒で入社する従業員の賃金にも影響する中、瀧本氏は「各企業で報酬構成は大きく異なる中で、日立の報酬水準を正しく認知していただくため、入社初年度や将来的なキャリアにおける報酬水準を、年収トータルの形で開示していく」とコメント。同社の採用HPでは、月給と賞与からなる入社初年度理論年収と、時間外(20時間を想定)・住宅手当などを含んだ場合の初年度理論年収額が公開されている。今回の賃金水準改善により、修士卒では手当無しで約580万円・手当込みで約710万円となり、大卒では前者で約530万円・後者で約660万円とされている。
また同HPでは、今般の春季交渉結果を踏まえた2026年度の理論年収水準を、各ポジション別でも開示。賞与業績反映分や諸手当の支給額も踏まえた水準として、事業部長・本部長クラスで約1700万円~4100万円になるとされた。
株式報酬や再雇用処遇見直しの方針も明らかに
さらに瀧本氏は、今回の交渉でも議題に上がったという、2026年4月以降の人財投資に関する取り組みについても説明した。具体的には、「株式を活用した制度の強化」「60歳定年後再雇用社員の処遇制度見直し」などが挙げられた。
株式活用制度の強化策としては、経営リーダー層を対象とした譲渡制限付きの株式ユニット(RSU)を活用した株式報酬制度と、従業員持株会の奨励金強化が挙がった。前者については、勤続年数などの一定の条件を満たした場合に株式を付与する制度を構想しているといい、従業員の長期的なコミットメント促進につなげたいとする。一方の後者では、従業員持株会の株式購入において付与される定率の奨励金について、その割合を強化することで、自社株を通じた資産形成を支援し安心して働ける環境を構築する狙いがあるとのこと。同施策は、非管理職を含む幅広い従業員が対象となる。なお瀧本氏は、これらの施策について「近日中に正式な決定を経て改めて発表する予定だ」と語った。
また60歳の定年後の再雇用社員に対する処遇の見直しについては、これまで職務や異動範囲の限定などを踏まえた“個別設定”となっていた再雇用報酬について、定年前と同じ報酬制度・水準を導入するという。70歳までを対象とするジョブ型処遇を実現することで、意欲や能力に応じて年齢によらない処遇の実現が可能になるとした。
ロレーナ氏は、「日立のグローバル人財戦略は、人こそが持続的な事業成長の原動力であるという明確な考え方に基づく」とし、「特に報酬については、市場競争力の確保、職務や成果に応じた適切な処遇、そして組織全体での一貫性と透明性の確保、これらを報酬フィロソフィーとして重視している」と強調する。また瀧本氏は「従業員の待遇改善は“コスト”ではなく“投資”」と繰り返し、「今後も総合的な人財への投資を積極的に推進していきたい」と、方針を継続する姿勢を示した。






