望月晴文・元経済産業事務次官に聞く!『揺らぐ世界秩序の中で、日本の立ち位置は?』

米国は今までにも保護主義を押し出してきた

 ─ 米トランプ政権の関税政策や米中対立、そして、長期化するロシアとウクライナの戦争など、世界が混沌としています。日本企業はこうした混沌期にどのようなスタンスで臨むべきだと考えますか。

 望月 今、世界中がトランプ米大統領の関税政策やグリーンランドなどのいろいろな発言に振り回されていて、せっかくここまでつくってきた自由貿易の原則を踏み外して、すっ飛ばすのはけしからんと。一体全体、これから何を頼りにしたらいいか分からないと言うんですが、歴史を振り返れば、米国というのは、今までにも保護主義のような姿勢を押し出してきたことは何度もありました。

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 1970年代から80年代にかけての繊維交渉や自動車摩擦など、過去の日米貿易摩擦を思い出してください。あの時は日本の製造業が強くなって、米国のモノづくりがダウンして、経済が低迷したわけです。だから、自由貿易という旗印は少し横において、自主規制をしろだとか、為替を切り上げるなどの要求を日本に突き付けてきました。

 これは管理貿易そのものですし、保護主義そのものです。そう考えたら、別に米国は建国以来、自由貿易一辺倒だったわけではない。そこを冷静に見つめるべきだと思います。

 ─ 自動車や半導体もそうでしたね。

 望月 ええ。米国の産業をもう一度立ち直らせなければならないということで保護主義に走る。だから、自由主義や自由貿易主義と保護主義というのは、実はガチンコの勝負を何回も続けてきている。そういう歴史があるんですね。

 19世紀初頭の英国の経済学者・リカードの時代から、自由貿易というのは提唱されていて、国際分業によって、比較生産費を考えながら、各国が合理的な生産をしていく。そして、それをトレードしていくことが、世界経済のためには最も効率的であり、皆が最も繫栄する手段であると。こういう理論で成り立っているわけです。

 それを戦後ずっと続けてきて、その一番の恩恵を受けたのは米国ですよ。自由貿易が大切で、経済の発展があって、貿易もものすごく増えたから、世界経済が良くなると。それが一番世界にとって良いことだと考えたから、世界中で国際分業がどんどん進んで、ここまで世界経済は発展してきた。

 それなのに、トランプ大統領は製造業も米国国内に全てなければならないと。言うことをきかない国には関税をかけるぞと言って、脅しているのですから、世界中が慌てているということだと思います。

 ─ 結局、それが自国第一主義ということですね。

 望月 そうなんです。過去にも自由貿易と保護主義はぶつかり合ってきているし、米国にとって都合の悪い時には保護貿易を持ち出して、米国経済のバランスをとっていくと。今はトランプ大統領だけが「タリフマン(関税男)」と言って批判されていますが、歴史的に見れば、そういうことを時々やるのが米国だということですね。

 ただ、現実の対応は大変だと思いますよ。米国で生産すると、生産性の悪いものを海外で生産し始めたのに、なんでそれを再度、米国にもってきて米国の産業として息を吹き返さなければならないのかと。それって、リカードの国際分業論はどこに行ってしまったの? ということです。

 ─ これは国際協調路線でいこうという世界秩序が崩れたと言っていいですか。

 望月 まだ崩れたとまでは言えないと思いますが、揺らいでいることは事実ですね。自由貿易の言い出しっぺだった米国が、それを否定しているわけですから、揺らいでいるということは言えるでしょうね。

 ─ では、現実にどう対応していけばいいと考えますか。

 望月 トランプ大統領はディール(取引)の人ですから……

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