経団連常務理事・岩崎一雄の【わたしの一冊】『イノベーションの科学 創造する人・破壊される人』

イノベーションを促進し、「強い経済」を実現するために

 

 イノベーションは経済成長の源泉です。経済成長の要素は労働の投入量、資本投入量、そしてイノベーションによる全要素生産性(TFP)の三つですが、人口が減少する日本においては、とりわけイノベーションの創出が持続的成長を実現していくうえで重要だといえます。

 ところでイノベーションは「創造的破壊(Creative Destruction)」と言われます。「創造」と「破壊」の両方の側面があるのです。この点において著者は、イノベーションの創造の側面は繰り返し強調されてきたものの、破壊の側面は必ずしもきちんと考えられてきたとは言えないのではないか、と問題提起します。

 また、創造される人と破壊される人はそれぞれ別であることが多く、かつ、創造の恩恵が社会に浸透するには長い時間がかかる一方で、破壊のダメージは短期間に局所的に出るということが指摘されます。

 本書には、「アメリカ型をマネするな」という一章が設けられています。アメリカが世界随一のイノベーション大国であることは事実です。インターネット、GPS(全地球測位システム)、生成AI(人工知能)などのラディカルなイノベーションはいずれもアメリカから生まれました。

一方で、所得格差が極端に拡大し、国民皆保険制度も存在しません。イノベーションによりスキルが破壊される人をそのままにすると、社会の分断や政治的なポピュリズムを招きかねないと著者は警鐘をならします。創造する人も破壊される人も同じ社会に暮らしているのであり、お互いが包摂された社会をつくることが重要なのです。そのために、負の所得税や労働市場の柔軟化といったセーフティーネットが必要とされます。

 わが国でも、社会保障・税一体改革の一環としての給付付き税額控除や、労働市場改革が議論されていますが、これらはイノベーションを促進し、「強い経済」を実現する観点からも必要な施策と位置付けられるわけです。

【著者に聞く】フリー専務執行役員CHRO・川西 康之『freee 成長しまくる組織のつくりかた』