セールスフォース・ジャパンは2月18日、AIエージェントの挙動をより精密に定義し、制御を可能にする自律型AIエージェントプラットフォーム「Agentforce」のための言語「Agent Script」と、ビルダーツールとして「Agentforce Builder」を2026年2月20日より日本市場で提供を開始した。また、UCCジャパンにおけるAgentforce、統合データ基盤「Data 360」の活用事例が紹介された。
Agentforceの最新動向と国内外の導入状況
冒頭にセールスフォース・ジャパン 専務執行役員 製品統括本部 統括本部長の三戸篤氏は、グローバルにおけるビジネス概況について触れた。同社では第3四半期の決算でAgentforceの成約件数が対前四半期50%プラスの1万8500社に達し、AgentforceのARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)は5億4000万ドル、PoC(概念実証)から本番運用に移行する顧客は同70%+になるなど、顧客企業において同製品の活用が順調に進んでいると明かした。
しかし、思うように活用が進まない企業も存在することは確かだ。三戸氏は「お客さまの中では、本番までたどり着かないという声も多く聞く。データの品質やAIエージェントの挙動が不安定、複雑な業務から取り組もうとしてしまっている。また、IT部門とビジネス部門のコミュニケーションなど組織的な問題を抱えている場合もある。そのため、当社では『テクノロジーの進化』と『プロジェクトの取り組み方』の2つの観点から課題解決を支援する」と述べた。
2つの観点のうちテクノロジーの進化では、あらゆるデータを統合し、適切な業務コンテキストをAIに供給するデータ統合基盤を提供するとともに、決定論的ロジックを組み込み、AIエージェントの制御を強化するという。また、プロジェクトの取り組みからでは小さな成功を積み重ねて高速にPDCAサイクルを回し、ビジネス部門とIT部門の緊密な連携によるプロジェクト推進を後押しするとのことだ。
新機能「Agent Script」「Agentforce Builder」
セールスフォース・ジャパン 製品統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 シニアマネージャーの王小芬氏がAgent Scriptと、Agentforce Builderを説明した。
昨年10月の年次イベント「Dreamforce」において、Agentforceの進化版として同社では「Agentforce 360 Platform」を発表。すでに社内ドキュメントや契約書、マニュアルといった読めば分かるが、AIには分かりにくかった情報をAIが理解できる形で整理・提供する「Intelligent Context」、AIエージェントの挙動などを可視化する「Observability」の機能は一般提供を開始している。
Agent ScriptとAgentforce Builderは同プラットフォームの新機能として、2月20日の提供開始を予定している。Agent Scriptは、AIエージェントを定義するための新たなスクリプト言語。LLM(大規模言語モデル)の創造性と、構造化されたビジネスロジックの確実性を併せ持つハイブリッド推論で、予測可能かつ信頼性の高いAIエージェントを実現するという。
また、Agentforce Builderは、自然言語による直感的な構築と、スクリプト言語による決定論的ロジックの実装を提供。これにより、開発者からシステム管理者まで、あらゆるチームが信頼性の高いAIエージェントを構築できるよう設計されている。
両製品の主な特徴として、Atlas推論エンジンの強化により、If/Then 条件文や遷移といったロジックをスクリプトで厳密に定義でき、ビジネスプロセスにおいてAIエージェントが指示通りに動作し、常に一貫性のある信頼できる応答を提供することが可能になるとのこと。
さらに、詳細なトレースとデバッグ機能を使用して、リアルタイムにAIエージェントの推論プロセスを可視化し、本稼働前にシミュレーションとデバッグを繰り返し、問題を即座に特定・修正することで、価値実現までの期間を短縮。
加えて、アシスタント機能により会話形式でAIエージェントを構築することが可能なため、自然言語をスクリプトに変換したり、AI駆動のアシスタント機能が構築上の改善点を提案したりすることで、専門的なスキルがなくても高度なAIエージェントの設計を可能としている。
開発者向けにはCLIコマンドやIDE(統合開発環境)内でのプレビュー、トレース機能を提供し、既存の開発ワークフローにAgent Scriptをシームレスに組み込むことができるという。
王氏は「ECサイトなどのAIエージェントは、配達日や夜間に電話がつながるのかなどさまざまな質問が突発的に発生する。ユースケースに応じて柔軟性と、決定論的な動作が必要になる。これらの機能を用いることで企業は、どこにLLMを活かすのか、あるいはどこに対して決定論的な動作を整備していくのかを自由に選択できるため、AIエージェントの安定化を図ることが可能」と話す。
UCCジャパンにおける活用事例
続いて、UCCジャパン 執行役員 ICT・デジタル担当兼情報セキュリティ担当の黒澤俊夫氏が、同社における事例を解説した。
UCCグループは、カップから農園まで一貫したコーヒー関連事業を手掛けており、缶コーヒーがイメージしやすいだろう。グループ会社のUCCコーヒープロフェッショナルでは業務用サービス事業を展開しており、ICT戦略事業はユーコット・インフォテクノなどのグループ会社が担当している。
UCCコーヒープロフェッショナルは、ホテルや街などの飲食店を主要顧客とし、顧客セグメントはロイヤルカスタマー、一般店、EC・カタログ通販の3つだ。売上比率は、それぞれロイヤルカスタマーが75%、一般店が20.6%、EC・カタログ通販が4.4%となっている。
黒澤氏は「EC・カタログ通販の比率が小さく、掘り起こしが課題になっていたが、営業の人員が500人に対して顧客データベースは10万件、アクティブでも6~7万件となっており、十分なリーチが難しい状況で売り上げを見込める重要店に集中して営業工数を割けることができていなかった」と振り返る。
AIエージェント導入による営業・顧客対応プロセスの変革
こうした状況を打開するため、同社では2025年4月に営業提案の標準化とロイヤルカスタマーへの活動集中化を狙い、AIエージェントの活用を決めた。EC・カタログ通販では、ECのみに絞り込みAIエージェントによるパーソナライズされた顧客体験へ変革し、インサイドセールスでアプローチを強化。
一般店は従来の電話・FAXからカスタマーポータルサイト、ECへの移管を推進すると同時にエージェント/カスタマーセンター化による顧客対応など、サービスレベルや満足度の低下を回避しつつセルフサービス化に舵を切った。そして、ロイヤルカスタマーに対しては、訪問・提案回数、品質向上に加え、エージェントによる付加価値商材の提案などソリューションサービスにシフトすることにした。
同社ではSalesforceを5年間利用しており、メーカー営業や新規ビジネス、店舗でも活用し、グループ内での定着度が高いという。カスタマーセンターのユースケースでは(1)顧客のスコアリングと優先順位付け、(2)パーソナライズされたおすすめの商品の選定、(3)営業未経験者でも話せる提案スクリプト、(4)架電のプロセスのうち(1)~(3)までをData 360とAIエージェントに任せ、人と共存することで早期戦略化を実現した。
黒澤氏は「Data 360に蓄積された顧客情報とスコアリング結果をベースに優先付けし、購買履歴を活用したパーソナライズ情報を生成し、AIがセールストークの元となるスクリプトを自動生成してオペレーターは読み上げや補正を行い架電を開始する。提案理由の説明も画面で表示し、オペレーターの納得感・説得力を向上させている」と説明する。
システム間のデータ連携は、売り上げや発注などのデータは基幹システムに集約し、Microsoft Azure上のマスターデータプラットフォームを経由してData 360に連携することで、顧客別のトークスクリプトやパーソナライズ情報を生成。架電結果は再度データとして戻り、循環サイクルを形成しているという。
流れとしては、発注実績からアラートを通知してMAコンテンツ(メールなど)の生成・配信し、開封先に架電するというものだ。ただ、アラートやスコアリングが膨大な量のため、MAで案内を送信し、開封者を優先して架電することで興味・関心のある顧客に対して効率的にアプローチしている。
プロジェクトの開始は4月だったが、約2カ月半後の6月にVer.1、Ver.2に至っては5週間でリリースした。オペレーターの体感では、従来は事前準備の作業時間に40分かけていたが40秒に短縮されたという。また、リーチできる顧客は2倍強となり、インサイドセールスの立ち上げに成功した。
ただ、現状でも課題はあるようだ。MAの開封率が向上しないとリーチする母数が広がらず、効果が頭打ちになる可能性があるため開封率の向上のほか、カテゴリーに誤りを正すためにマスターデータの整備は継続しているとのことだ。
フィールド営業、BtoBポータルサイトへのAgentforce展開
そして、2026年2月からはフィールド(アカウント)営業に対し、コーチングAIとしてAgentforceを展開している。
具体的には、提案内容や直近の注文履歴といった事前準備、商談中の受け答え、商談後のフォロー設計までを支援し、300人のうちまずは100人でパイロットを開始。これまでのルート営業からインサイドセールスを入口に人材を育成し、アカウント営業へステップアップするモデルに移行している。
加えて、UCCのポータルサイト「Foofs Fridge Pro」にもAgentforceを展開している。同サイトはBtoB向けのサイトであり、購買履歴やリピート発注、納品書・請求書取得などの機能を備えている。
従来は月間でおすすめ商品を案内していたが、購買履歴に紐づく新商品提案や店舗特性に見合ったカテゴリ表示にするなど、パーソナライゼーションを強化。また、AIチャットを導入し、欠品時の入荷予定確認をできるようにするという。
このように、UCCジャパンの取り組みはAIエージェントを「試す段階」から「業務を動かす存在」へと引き上げる実践例と言えるだろう。









