災害現場を支えるサイボウズの取り組み

サイボウズは2020年に「サイボウズ 災害支援プログラム」を開始し、さまざまなパートナーと連携しながら災害対策のIT化を支援している。災害支援プログラムは、災害が発生した被災地をITで支援する取り組みで、これまで熊本、静岡、福島などで活動を行ってきたほか、2024年1月の能登半島地震でも支援を実施している。

このプログラムは、サイボウズのクラウドサービスを半年間無償で利用できる「災害支援ライセンス」、約20社のパートナーが各社のサービスを無償または優待で提供する「災害支援パートナー」、そしてサイボウズ社員がICTを活用したシステム構築を手がける「災害支援チーム」の3つで構成される。

災害支援チームは、社内の有志が被災地に赴いてIT支援を行うだけでなく、リモートで情報収集やアプリ作成、データ入力、サイト制作などの後方支援にも取り組んでいる。現地でPCやプリンタ、ケーブル類などが緊急に必要になった場合には、可能な範囲で調達し、無償で提供することもあるという。

この災害支援チームを率いているのが、サイボウズ ソーシャルデザインラボ 災害支援チームリーダーの柴田哲史氏だ。柴田氏は2011年の東日本大震災以降、ほぼすべての被災地で災害ボランティアセンターのIT支援を行ってきた。

  • サイボウズ ソーシャルデザインラボ 災害支援チームリーダー柴田哲史氏

    サイボウズ ソーシャルデザインラボ 災害支援チームリーダー柴田哲史氏

  • 柴田氏が支援してきた被災地の例

    柴田氏が支援してきた被災地の例

なぜ、サイボウズは現場で災害支援を続けるのか

柴田氏はもともとマイクロソフトでWordの開発を行っており、2011年の東日本大震災の際には、味の素スタジアム(東京都 調布市)が福島第一原発事故の避難者を受け入れる緊急避難所として利用された場面で支援に携わった経験を持つ。それ以来、災害支援ボランティアとして現場に入り続けている。

柴田氏は当時の活動について、「味の素スタジアムではホームページを作ったり、ボランティアの登録の仕組みを作ったりしました。災害発生時には被災者からの電話が殺到するので、何とかしてほしいという相談がありました。ホームページやボランティア受付の仕組みを作ったところ、電話が半減しました。以降の他の災害でも同じことをしてほしいと各地の社会福祉協議会から相談されるため、毎回現場に入っています」と振り返っている。

柴田氏は2015年にマイクロソフトからサイボウズへ転職したが、その際の入社条件は災害支援を行うことだったという。現場に入った柴田氏が必要な支援を判断し、データ入力が必要になれば対応できる人を社内で募ると、多くの社員が手を挙げて協力してくれるそうだ。

能登半島地震の際にはパートナー企業も協力し、現地の関係者とオンラインでコンサルティングを行いながら支援を進めた。

  • サイボウズ ソーシャルデザインラボ 災害支援チームリーダー柴田哲史氏

kintoneで進む災害ボランティアセンターのIT化

サイボウズが災害支援で主に取り組んでいるのは、社会福祉協議会が運営する災害ボランティアセンターのIT化だ。主にkintoneを用いて、事前登録、活動予約、当日受付、ニーズ管理という4つの業務アプリを提供している。

  • 多くの災害現場で使われているボランティアセンター向けのkintoneアプリ

    多くの災害現場で使われているボランティアセンター向けのkintoneアプリ

事前登録は、災害ボランティアを行いたい人をあらかじめ登録する仕組みだ。ここにはボランティアの住所も登録されるため、被災地と同じ都道府県に在住する人のみを対象とした募集など、条件に合致する人だけに支援要請のメールを送ることができる。メールのテンプレートも用意されているという。

活動予約は、ボランティアが活動できる日を予約する仕組みで、これによりボランティアセンター側は当日の活動人数を予測できるようになる。そのため、人数に合わせた資機材の調整が可能になる。

「災害が発生して最初の週末や連休にはボランティアが増えるのですが、活動予約アプリがあることで当日の参加者の規模感がわかります。それに合わせて機材や送迎車、駐車場を準備します」(柴田氏)

  • kintoneで日別の参加予定人数をグラフ化

    kintoneで日別の参加予定人数をグラフ化

当日受付は、ボランティアが当日にQRコードで受付できる仕組みだ。従来は受付登録のために行列ができていたが、この仕組みによって行列が解消されたという。また、活動人数の集計を自動化できる点も大きな利点となっている。

ニーズ管理は4つの機能の中でも最も重要なものとされており、被災者から電話で受けた困りごと、つまりボランティアに手伝ってほしい内容をkintone上で共有する仕組みだ。困りごとは地図上にプロットでき、進捗状況も可視化されるため、対応漏れを防ぐことにもつながるという。

「被災後は被災者から困りごとの電話がかかってきますが、それをスタッフ5~6人で対応していても、電話が鳴りっぱなしの状況です。電話で受けた内容は紙でメモしますが、それが何百枚にもなります。これをkintoneに入力することで、みんなで地図を見ながらどこから手を付けるのかを話しあって決めています」(柴田氏)

データ入力については、東京にいるサイボウズ社員がリモートで行う場合もある。また、地図データは自治体のハザードマップと重ね合わせて閲覧可能、日本の水害は基本的にハザードマップ通りに被災するため、ハザードマップで危険度が高い地域でニーズが上がってきていない場合には、状況を疑い、現地での調査を行うかといった判断材料にもなるという。

  • 困りごとの登録状況をハザードマップと合わせて地図上にプロットすることもできる

    困りごとの登録状況をハザードマップと合わせて地図上にプロットすることもできる(赤色がハザードマップ、緑色のプロットは困りごとの報告)

熊本地震で広がったkintone活用の原点

サイボウズはこれら4つの機能を基本パッケージとして用意しており、学習用の講習会テキストも1部500円で提供している。社会福祉協議会の職員は平時からテキストを使って学習し、被災地支援に備えている。このパッケージはすでに43都道府県の社会福祉協議会に導入されているため、他の都道府県に職員が支援に入る場合でも、システムをすぐに使いこなせる。

「この(基本パッケージの)仕組みは2021年の熱海市の土砂災害のときに確立し、以降の被災地でも活用されており。去年の鹿児島や秋田、静岡、八丈島も同じようなやり方で進められました」(柴田氏)

kintoneの災害支援における活用は、2016年の熊本地震の際に始まった。熊本地震では南阿蘇村の支援に入ったが、大橋が壊れて熊本側からは現地へ向かえない状況だったため、大分県竹田市にベースキャンプを作り、そこでボランティアを集めて大型バスに乗り換え、山を越えて支援に入ったという。

当時、社会福祉協議会側から相談されたのは、ボランティアが何人来るか分からずバスの手配ができないという課題だった。そこで作ったのがボランティア予約の仕組みで、これがkintoneを活用した災害支援の初期の取り組みとなった。この取り組みが口コミで広まり、広島や千葉、長野でも同様に活用されるようになった。

現場で求められるのは「すぐ作れる・使える」IT

柴田氏は、「災害現場では柔軟に状況に合わせて対応できることが重要」だと強調する。また、迅速に仕組みを作れることも欠かせない要素だという。

「災害現場のIT活用は、現場の状況に合わせて柔軟に対応できることが重要です。また、すぐに作れることも大事です。現場はすごいスピードで動いているので、『仕組みをつくるのに1週間かかります』『300万円かかります』では使えません。kintoneは項目追加も職員がご自身でできるので、すごく重宝されています」(柴田氏)

また、最近では社会福祉協議会だけでなく、自治体が運営する災害対策本部でもkintoneが活用されるようになってきたという。自治体では避難所の受付をkintoneで行ったり、避難者がどこに避難したかを記録したりする取り組みが進んでいる。また、被災者情報を集約する「被災者台帳システム」をkintoneで整備する事例もある。

  • 東京都調布市の被災者台帳のシステム

    東京都調布市の被災者台帳のシステム

被災者台帳には被災した方の情報が蓄積されるが、そこに相談記録や医療・福祉に関する情報などを追加し、複数の団体が情報を共有できる仕組みが求められている。従来は情報共有ができず、各団体が同じことを被災者に繰り返し聞き取っていたため、被災者が途中で怒ってしまうケースもあったという。

  • サイボウズが考える被災者台帳の運用イメージ

    サイボウズが考える被災者台帳の運用イメージ

柴田氏は今後の被災地の課題として、自治体の事前準備の遅れを次のように指摘する。

「われわれは被災者台帳のプロトタイプを作って公開していますが、各自治体が被災した後に職員さんが勉強して作り始めるので、対応が後手後手になります。災害前から被災者台帳とは何か、どういう項目があるかなどを勉強したり、普段から障害者や高齢者をデータベース化してすぐに救出できる仕組みを準備したりしておいてほしいです」

「災害支援の知見を世界に広げたい」

サイボウズは今年1月、災害時に自治体や関係団体がスムーズに情報を共有できるデジタル連携モデルを提案した。このモデルは、被災者が孤立しないように被災者・自治体・医療福祉機関などをつなぎ、必要な支援を受けられる仕組みを構築することを目的としている。kintoneを活用して、オンラインで情報を共有できる環境を整備する構想だ。

さらには、内閣府が発行した「被災者台帳の作成等に関する簡単手引き」を踏まえ、発災直後から生活再建までの支援情報を一元管理する「被災者台帳システム」をkintoneで整備するという。

現在でも柴田氏は、過去の被災地の教訓を各地の自治体職員に伝えるため全国を飛び回っている。そして今後は、災害現場で培ったノウハウを世界に広げていきたいと、夢を語る。

「次はこの仕組みを、海外に持っていきたいと思っています。今度、台湾に行きますが、台湾は避難所の仕組みが進んでいます。そうした台湾のやり方を学びつつ、日本の方が進んでいるやり方もありますので、それを伝えていきたいと思っています。将来的には、世界全体でレベルが上がればいいと思っています」と述べ、国境を越えた災害支援の可能性に意欲を示した。