冨山和彦の【わたしの一冊】『社内政治の科学  経営学の研究成果』

企業組織における人間行動に関するメカニズムへの理解

 社内政治と聞くと、派閥争いやらゴマすりやらネガティブな現象を想起しがちである。しかし組織あるところに政治あり。「もともと政治とは、対立を調整し、集団として機能させるための営みを指す言葉(本書より)」であり、踏まえるべきことは政治メカニズムを理解し、それを企業の目的達成に向けて有用に使いこなすことである。

 著者はまさにそういう視点から、社内政治に関する国際的な社会科学的研究を時系列に辿りつつ、そのメカニズムについて解き明かしていく。しかも極めて平易な語り口で。

 経営学的にはこのテーマは組織行動論(Organizational Behavior、通称OB)という一大学域に含まれる。企業を外部環境との関係で合理的に機能させる問題を主題とする競争戦略論や企業財務論に対し、生身の人間で構成される組織の内部環境のダイナミクスがOBの研究対象である。

 企業価値の最大化にとって合理的な戦略案をその通りに決定し遂行することがいかに難しいか、その難しさの大半が企業の内部環境的な複雑性、非合理性に起因することは組織経営に関わった人なら誰もが実感しているはずだ。今年惜しくも亡くなった我が国が世界に誇る知の巨人である野中郁次郎先生や、両利きの経営で有名なスタンフォード大学のオライリー教授をはじめとして、実はOB分野における著名な学者は数多く、この学域の経営実践的な重要性を物語っている。

 私が講演で使うスライドの最終ページでは、経営者の最重要な能力として「決断力」と「政治力」を挙げている。前者は経済合理、競争合理に従って冷徹な意思決定をする能力。後者は合理的な決断を会社の機関決定にまで持っていき、さらには組織構成員の多くにとって痛みを伴う戦略行動を実行させる能力である。

 政治力の再現性を高めるにはまずは科学である。企業組織における人間行動に関するメカニズムへの理解である。その入り口として本書は格好の入門書である。

【著者に聞く】フリー専務執行役員CHRO・川西 康之『freee 成長しまくる組織のつくりかた』