住友生命保険社長・高田幸徳、健康増進型保険「バイタリティ」の新たな展開とは?

「今回の商品は『進取不屈の商品だ』とみんなで誓い合って、世に出すことができる」─住友生命社長の高田氏はこう話す。コロナ禍以降、全世界的に健康増進への意識が高まった。その中で住友生命が展開してきた健康増進型保険 「Vitality」が好評。そして今回、その保険に「貯蓄」の機能を追加した新商品を発売する。世界初、業界初だけに、その開発には難しさも伴った。人口減、市場縮小が続く中、新たな需要を掘り起こす取り組みが続く。

 「安心」の価値をどう広げていくか

 ─ 国内外の政治・経済情勢が混沌としている中ですが、今後をどう見通しますか。

 高田 まず2025年を振り返ると、トランプ大統領の2期目が始まり、相互関税の問題が起きました。また、日本も新政権になるなど内外ともに大きな環境変化があった年です。

 また、我々金融機関にとっては「金利ある世界」が戻り、日本経済も1つの大きな山を越えました。日経平均株価も5万円を上回るなど、少し前までは信じられない水準まで上昇しており、ファンダメンタルズは堅調だと言えます。

 これから先を見ると、2026年は「団塊の世代」の皆さんが75歳を超えて後期高齢者になられますし、人口減少、労働者不足の問題が本格化してきます。

 我々生命保険業界が、今まで提供してきた「安心」の価値をどのように広げていくか、あるいはさらに増していくかという1つの大きなターニングポイントを迎えているのではないかと考えています。

 ─ 2025年7月に生命保険協会会長に就任しましたね。どう取り組んでいきますか。

 高田 今回は3つの柱を掲げています。

 第一に「顧客本位の業務運営の推進」です。昨今、営業職員チャネルの不祥事や、大規模代理店の顧客本位を逸脱したような営業といった問題がありました。今般の保険業法改正に合わせ、業界としての信頼を得られるよう各販売チャネル、お客様としっかり向き合っていきたいと思っています。

 第二に「持続可能な社会とよりよい未来への貢献」です。国民の未来を考えた時に、経済的な問題に加え心の問題、社会とのつながりといった問題の解決が重要になってきます。そこで「ウェルビーイング」をキーワードとして、生命保険業界として「ウェルビーイング」への貢献に取り組んでいきます。

 生命保険は元々、万が一の時に経済的負担を担保するものでしたが、それに加えてファイナンシャル・ウェルビーイングとして資産形成に寄与していきます。

 また、生命保険会社は機関投資家としての側面もあり、資産運用を通じて資産運用立国の実現にも貢献していきます。これらの取り組みが、持続可能な社会の実現に向けて重要であると考えており、業界を挙げてしっかりと取り組んでいきます。

 また、生保業界は比較的女性の従業員が多い業態ですから、女性が働きやすい職場づくりが重要です。

 女性の活躍をより一層推進していくためには、「アンコンシャス・バイアス」といって、無意識のうちに持つ価値観で「女性は(あるいは男性は)こうあるべき」という考えになっていないかを見直す必要があります。協会としても会員各社にアンケート調査するなどして、事例の収集や共有を行います。

 また、女性リーダーのネットワークづくりにも取り組みます。

 ─ 自分たちが当たり前と思っていることも見直していくということですね。

 高田 ええ。そして第三に「業界の健全な発展に資する情報発信」です。生命保険協会には情報発信という役割もあります。

 生命保険募集人の8割以上は女性なのですが「生保レディ」と言われることもありますし、逆に外資系生保の募集人は男性が多く「外資系営業マン」と呼ばれることもあり、男女が固定されるような呼び方をされることがあります。

 近年では年齢・性別問わず、多様な生命保険募集人が活躍しており、また生命保険の提供に留まらず、様々なサービスを提供するなど、活躍の範囲は拡がりを見せています。

 そこで生命保険募集人の役割が適切にわかりやすく表現され、かつ未来志向な職業を想起できるような、親しみやすい新たな呼称が望まれると考え、幅広く一般公募したところ、9000件を超える応募がありました。26年2月までに決定して、発表したいと考えています。

 健康と貯蓄を組み合わせた世界初の商品

 ─ 高田さんは社長に就任して5年近くになりますね。コロナ禍などもあり、大変な時期でしたが、今後に向けてどう考えていますか。

 高田 当社は2030年にありたい姿を描いた「Vision2030」を掲げています。「ウェルビーイングに貢献する『なくてはならない保険会社グループ』」を目指していますが、これを実現させることが目標です。

 ウェルビーイングという言葉の持つ意味は、なかなか伝わりきらないところもありますが、その具体的な形として、私が社長に就任する前に発売した「健康増進型保険 住友生命Vitality」が大変好評をいただいており、累計販売件数は約240万件となっています。

 2030年までに会員数500万名を目標としており、もう一段増やしていくために、今回新商品を開発しました。

 ─ どういったコンセプトの新商品ですか。

 高田 元々、健康増進の取り組みをすることで保険料を下げていく仕組みで、死亡や病気などに備える商品でしたが、資産形成もできる商品を作れないかと、当初から構想してきました。

 そして今回、約3年の歳月を経て、2026年1月から健康と貯蓄を組み合わせた世界初、業界初の商品「ドルつみVitality」の発売を開始します。

 ─ 開発も難しかったのではないかと思いますが、突破できた要因は?

 高田 この「Vitality」は南アフリカのディスカバリー社のライセンスですが、彼らが提携する世界各国のサービスを見ると、健康増進の取り組みをしている方はローン金利が低くなるというものがありました。

 ただ、日本は残念ながらローン金利が低すぎて差がつけられませんでした。

 世界各国の商品を調べると同時に、私どもが行ったお客様のアンケートで健康と資産形成の両方に興味がある方がどれくらいいるかを調べると約6割という結果が出ました。そこで健康と貯蓄を組み合わせた商品にはニーズがあると確信を得ました。

 ただ、保険の数理計算上は、健康になると寿命が延び、満期保険金などの支払いが増えるため、個人ごとの満期保険金を増やすことが難しくなるということになります。

 この矛盾をどう解決するかが非常に難しかったのです。加えて、保険商品には金融庁の認可が必要で、商品コンセプトなどを理解をいただかなくてはならず、ここにも時間がかかりました。

 今回、開発に成功したのは6年間取り組んできた「Vitality」の中にヒントを見出だせたからです。

 保険料を下げることに加え、健康増進の取り組みをすることで様々な「小さなご褒美」を提供し、一定のハードルを超えると「Vitalityコイン」という、様々なポイント、例えばPayPayポイントなどに交換できる専用コインを差し上げていました。

 このコインを積み立て部分に充当できないか?と考えました。

 さらに、円よりも利回りのいい米ドルで回そうと。ただ、ドル建てだと為替リスクがあるので、ドルコスト平均法によって為替リスクを逓減できる積立型としました。5年間の積み立て後、5年間据え置いていただくことで、高い利回りを確保できます。

 ─ 開発に向けて、様々なハードルを越えてきたと。

 高田 そうです。システム対応、コインを積立部分に充当するといった技術的な課題を乗り越えてきました。  当社には1952年(昭和27年)に明文化した経営の根本精神「経営の要旨」があります。当時社長の芦田泰三がつくったものです。

 その中に「我社の事業は時勢の変遷事態の緩急を計り弛張興替するも冷静克く進取不屈の精神を堅持し大局を誤ることなきを期する」があります。

 この「進取不屈」は様々なことにチャレンジして失敗しても、不屈の闘志で立ち上がってやっていこうという意味ですが、今回の商品は「進取不屈の商品だ」とみんなで誓い合って、世に出すことができます。

 「生老病死」から保険が生まれる

 ─ 人々の資産形成への関心が高まっている今ですから、若年層を含めて注目されるのではないでしょうか?

 高田 そう期待しています。生命保険も徐々に変化してきています。仏教に「生老病死」の四大苦がありますが、生命保険は、その逆から開発が進んできました。

 「死」は万が一、ご家族が亡くなった時のご遺族のための死亡保険、「病」は病気になった時に経済的に困らないための医療保険、「老」は国の社会保障である年金を補完する年金保険、「生」は生きていくための保険である健康増進型保険です。

 そこに今回、資産寿命を延ばしていくために資産形成機能を組み合わせて、新商品ができました。

 ─ 人口減少、少子高齢化が日本の大きな流れですが、保険で貢献できることは?

 高田 少子化そのものを解決するのは難しいですが、例えば当社の非保険サービスの中に「仕事と不妊治療の両立」を応援するというものがあります。治療そのものは医療行為なのでできませんが、不妊治療を取り巻く様々な環境を整えるサービスになります。

 不妊治療は誰にとっても初めてのことですから、なかなか言い出しにくかったり、治療にお金も時間もかかります。こうした課題に対して、当社が企業に提供するパッケージ「Whodo整場」をつくりました。

 不妊治療をして、お子さんを産んでいただいて大丈夫ですよという「企業風土」をつくるといった意味合いを込めています。お陰様で多くの企業とお取引することができています。

 ─ 子どもを産む、生きることへの安心につながりますね。

 高田 そう思っています。企業の中で人事部や総務部が単独でそういう取り組みをしようとすると、かなり大変ですから、当社がサポートさせていただいています。

 それ以外の取り組みとして、「金融経済教育」があります。国も金融経済教育推進機構(J-FLEC)を設立して取り組んでいますが、我々も民間として取り組もうということで、学校の出前授業を行っています。

 小学校、中学校でお金の知識、がん予防などを学んでもらっていますが、人手が足りなくなるくらいの人気です。

 ─ いい取り組みですが、人もお金もかかりますね。

 高田 ただ、我々はそれぞれの地域で、地元の人間が働いています。その人たちが、地元貢献として取り組んでいますから、教える側も大変生き生きとしているんです。

 AIは必要だが最後に残るのは「人」

 ─ 全産業的にAI(人工知能)の活用が叫ばれていますが、どう取り組みますか。

 高田 AI活用は避けて通れない流れだと思っています。当社の営業職員の活動の中では様々な機器を活用していますが、その中にAIを入れています。例えば、お客様のところを訪問する前に「AIロープレ」といって、お客様との対話の練習を行い、その内容を判定するという機能があります。

 また、お客様の様々な情報がデータとして保管されていますから、現在の興味関心や、いつ以来の訪問なのかといった情報を出したりしているんです。今ではお客様の側もAIを使っていますから、そのAIにも選ばれるようにならなければいけないと考えています。

 ─ これからの人とAIの関係をどう考えますか。

 高田 最後に残るのは「人」だと思っています。AIが何かを作っても、最後には人のジャッジメントがあります。では人は何でジャッジメントするかというと、やはり経験です。

 成功した、失敗したといった経験値をどれだけ積むことができるかが、企業で仕事をする人にとってもますます重要になるのではないかと思っています。

 ですから、顧客との信頼関係を構築する場面などにおいては、AIが人を上回ることは決してないと思うんです。ただ、便利にはなりますから、それに対して企業の行動を合わせていかないと、お客様から選ばれることはできません。

 ─ 社長としての約5年を振り返って思うことは?

 高田 コロナ禍以降、普段からの健康増進に取り組む人が増えるなど健康意識が全世界的に高まりました。その流れの中「Vitality」への注目度も高まってきたと感じています。

 そして、様々なリスクに対して、それをどのように予見して備えていくかということが、保険会社、保険業界にとって、ますます重要になってくるのではないかと考えています。