「AIを使わないこと自体が、もはやリスクである」――。そう警鐘を鳴らすのは、日本マイクロソフト 業務執行役員 エバンジェリスト 西脇資哲氏だ。
生成AIが世界中で爆発的に普及するなか、なぜ日本だけが取り残されているのか。そして、その閉塞感を打ち破り、私たちの働き方を劇的に変えるAI PCとは、一体何ができるデバイスなのか。
1月23日に開催されたWebセミナー「TECH+セミナー AI PC Integration 2026 Jan. AI PCが業務の“思考”を変える 業務とITの新しい関係性」の基調講演に同氏が登壇。そこで披露されたのは、キーボードを叩くことなくPCと人間が言葉と視覚で通じ合う、新しい日常だった。
データで見るAI活用の現在地
講演の冒頭、西脇氏は総務省が公表する「情報通信白書」を基に、生成AIの利用状況に関するデータを示した。2023年に爆発的に普及した生成AIだが、世界の利用率が50%を超える国も珍しくないなか、日本の利用率は1桁台にとどまっていたという。2024年に入り、諸外国が70〜80%へと利用率を伸ばすなか、日本は依然として50%以下という状況だ。
同氏は、2025年9月に内閣府が発表した「人工知能基本計画」の一節を引用し、こう警鐘を鳴らす。
「資料には明確に『AIを使わないことがリスク』と記されています。生産性や効率性の向上、そして国際競争力を維持するために、AIの活用はもはや選択肢ではなく必須事項なのです」(西脇氏)
生成AIがもたらした最大の功績は、人とコンピューターの関係性の変化にあると同氏は説く。これまでは人間がプログラミング言語やコマンドを覚え、コンピューター側に歩み寄る必要があった。しかし生成AIの登場により、人間が普段話す自然言語をコンピューターが理解できるようになった。これにより、リスキリングを経た一部の人だけでなく、誰もが高度なテクノロジーを扱える土壌が整ったのだ。
キーボード不要! 秘書のように振る舞う「Copilot Voice & Vision」
では、AI PCによって具体的に何が変わるのか。西脇氏は、Windows 11に搭載される最新機能「Copilot Voice」と「Copilot Vision」のデモンストレーションを通じてその実力を示した。
Copilot Voiceは、チャット画面でのテキスト入力すら不要にする。デモでは、同氏が「今度チームビルディングをやるんだけど、最適なアクティビティを教えて」と話しかけると、AIが即座に音声で提案を返す様子が実演された。「準備がいらなくて盛り上がるものがいい」といった追加の要望にも、まるで人間の秘書と会話しているかのようにスムーズに応答する。
さらに視聴者を驚かせたのが「Copilot Vision」だ。これは、ユーザーが見ているPC画面をAIも同時に見る機能だ。Wordで文書作成中、「送付状の部分にアンダーラインを引きたい」と口頭で指示すると、AIは画面上の「送付状」と書かれた位置を認識し、操作手順をハイライト付きで教示した。また、画面上の手書き計算式を読み取らせて解答を導き出すデモも披露された。
「音声で指示し、同じ画面を見ながらサポートを受ける。この体験こそが、AI PCが可能にする新しい日常」と同氏は強調する。
デバイスAIとクラウドAI、それぞれの適材適所
続いて西脇氏は、AI処理の“場所”に関する変化について解説した。これまでの生成AIは、インターネット経由で処理を行うクラウドAIが主流だった。しかし、これからの時代はPC本体内部で処理を行うデバイスAIとの併用が鍵になるという。
同氏によれば、デバイスAIにはクラウドにはない独自の強みがある。
まず、インターネット通信を介さないためレイテンシがなく、リアルタイムに処理が実行される点だ。ユーザーの思考を止めないスピード感は、日常業務において大きな武器となる。
さらに、データがPCの外に出ないため、セキュリティとプライバシーが完全に守られる点も見逃せない。機密情報を扱う金融機関や官公庁、研究機関であっても、デバイスAIであれば情報漏えいのリスクを気にすることなくAIの支援を受けられる。
加えて、通信環境に依存しないためコストを抑制できるうえ、飛行機内のようなオフライン環境でもAIの機能がフル活用できる点は、場所を選ばない現代の働き方に適していると言えるだろう。
「NPU搭載」がこれからのPCの絶対基準
デバイス上で高度なAI処理を行うためには、PCのハードウェアにも進化が求められる。マイクロソフトが提唱する「Copilot+ PC」には、明確な要件が定義されている。
メモリ16GB以上、SSD 256GB以上に加え、最も重要なのがNPUの搭載だ。従来、PCの処理はCPUとGPUが担っていたが、AI処理は負荷が高い。そこでAI専用の頭脳であるNPUを搭載することで、CPUやGPUの負荷を下げつつ、高速かつ低消費電力でのAI処理が可能になる。
「40 TOPS(1秒間に40兆回)以上の演算性能を持つNPUを搭載することが、Copilot+ PCの証です。これからのPC選びにおいて、NPUの有無は決定的な差となり得る」と西脇氏は語る。
記憶を呼び覚ます「リコール (プレビュー)」と進化した検索
NPUを搭載したCopilot+ PCで利用可能になる機能にはさまざまなものがある。
なかでも、西脇氏は「リコール (プレビュー)」と「セマンティックインデックス」を紹介した。従来のファイル検索はファイル名や日時が頼りだったが、新しい検索では記憶やイメージで探すことができる。
例えば、「黄色い傘のプレゼン資料」と入力すれば、ファイル名に「黄色」も「傘」も含まれていなくても、AIがスライドの中身を理解して該当ファイルを見つけ出す。また、「あのとき見ていた黒い靴」と話しかければ、過去の操作履歴から、当時閲覧していたWebサイトを呼び出し、そのまま購入画面へ遷移するといった連携も可能だ。
仕事のパートナーにAI PCを選ぶべき理由
講演の最後、西脇氏は「PCは進化するデバイスになった」と締めくくった。ハードウェアのスペックは購入時で固定されるが、Windows 11とAI機能はOSアップデートを通じて日々進化し続ける。
「将来、OSに画期的なAI機能が追加されたとき、それを動かせるハードウェア、つまりNPUを持っていなければ、その恩恵を受けることはできません。だからこそ今、Copilot+ PCを選ぶ意味があるのです」(西澤氏)
クラウドのAIとデバイスのAI、その両方を最大限に活用し、常にAIがそばにいて仕事を助けてくれる環境こそが、マイクロソフトが提示するAI PCの在るべき姿だ。西脇氏の言葉どおり、AI PCの導入は業務プロセスそのものを変革する投資と言えるだろう。



