大阪大学 先導的学際研究機構 教授 榮藤稔氏は、2026年をインターネット登場以来の転換点、「The Great Divergence(大分岐)」の年だと断言する。一方、クロスリバー 代表取締役社長 越川慎司氏は、生成AIを導入した企業500社に対して匿名でアンケートを取ったところ、活用の成功率はわずか12.5%であるという衝撃的なデータを突き付けた。
なぜ多くの企業はAI活用で足踏みをするのか。トップ5%の成果を出す人材は、AIに何を任せ、何に時間を使っているのか。そして、業務の相棒となるAI PCは、私たちの働き方をどう変えるのか。
1月23日に開催されたWebセミナー「TECH+セミナー AI PC Integration 2026 Jan. AI PCが業務の“思考”を変える 業務とITの新しい関係性」の基調対談では、テクノロジーの最前線とビジネスの現場を知り尽くした両氏が、AI時代の生存戦略を語り合った。
インターネット以来のイノベーションが到来
対談の冒頭、榮藤氏は、現在のAIを「インターネット以来、あるいはそれを超えるイノベーション」と位置付けたうえで、2026年が企業の運命を分ける重要な年になると予測し、「The Great Divergence」というキーワードを提示した。
「かつてインターネットが登場した際、『それで儲かるのか』と懐疑的だった企業と、いち早く取り入れた企業のあいだで大きな差が生まれました。今、GAFAMと呼ばれる企業の多くはインターネット企業です。同様に、AIを使いこなしワークスタイルを変革する企業と、そうでない企業の分岐点が今年訪れます」(榮藤氏)
榮藤氏は、ここ数年でAIが、便利な自動化ツールからバディへと進化したと指摘する。エージェンティックAIの台頭により、AIが業務フローに組み込まれ、共に働く存在になったことで、システム開発、法務、経理、営業などあらゆる職種で劇的な変化が起きつつあるという。
とくにソフトウェア開発の現場では、AIの支援を受けてコードを書くVibe Codingが注目されており、かつて現場を離れた50代、60代の元エンジニアが再び開発の最前線で活躍する現象も起きていると榮藤氏は語る。
AIに雑務を任せ、人間は共感に集中する
AIの進化は、営業職の在り方も根本から変えようとしている。越川氏は、自身が支援する企業に対する調査データを基に、営業職の時間の使い方のいびつさを指摘した。
「営業職の稼働時間の内訳を調査すると、顧客対応以外の時間、つまり社内会議(39%)、資料作成(14%)、メール・チャット(12%)が大半を占めています。顧客との対話という本来の価値発揮に時間が使えていないのが現状です」(越川氏)
榮藤氏はこれを受け、「見積もり作成やレポート作成といった面倒な事務作業はAIが代行できるようになる。そうなれば、人間は人間にしかできないこと、つまり『相手の要望を聞くこと』『腹を割って話すこと』に集中できる」と説く。
越川氏もこれに強く同意し、トップ5%の優秀なセールスの特徴として「共感と共創」を挙げた。
「コロナ禍を経て『感情の潜伏化』が進み、相手の本音が掴みにくくなっています。だからこそ、対面で信頼関係を築き、感情を共有することが重要になります。事務作業はAIに任せ、人間は信頼構築や感情共有といった業務にリソースを集中させる。これが2026年の勝ちパターンです」(越川氏)
生成AI活用成功の鍵は「引き算」と「実験」
AIの有用性が語られる一方で、現場への定着には課題も多い。越川氏の調査によると、生成AIを利用している企業のうち、「うまくいっている」と回答したのはわずか12.5%に過ぎないという。
失敗する企業の共通点として、越川氏は「To-Beが決まっていないこと」と「AI導入自体が目的化していること」を挙げた。対して、成功している企業はアプローチが異なる。
「成功企業の87%が実践しているのは、足し算ではなく引き算です。現場はすでに忙殺されています。そこに『AIを勉強しろ』と足し算をしても無理があります。まずは過剰な会議や資料作成をやめる。業務をダイエットして時間を生み出し、その時間でAIを学ぶという順序が重要です」(越川氏)
また、組織内での導入障壁として中間管理職の存在が話題に上った。榮藤氏が示したスライドでは、経営層と若手社員はAI活用に意欲的だが、中間層が「AIを使うのはズルいのではないか」という心理的抵抗や、従来の評価制度の板挟みになっている現状が示唆された。
これに対し越川氏は、「AI活用を『挑戦』ではなく『実験』と捉えるべき」と提言する。「失敗が怖いから動けないのではなく、試しに使ってみて、良ければ続け、ダメなら戻せばいい。また、管理職には『AIを使えば残業が減り、コンプライアンス遵守(労務管理)が楽になる』というメリットを提示することで、意識変革を促せる」と語った。
なぜ今、NPU搭載のAI PCを選定すべきなのか?
対談の終盤、話題はAI活用のためのハードウェア、すなわちAI PCへと移った。
榮藤氏は、クラウドベースのAIだけでなく、ローカル環境で動作するAIの重要性を強調した。
「現在のクラウドAIは、高度な処理を行わせると回答までに数分から数十分かかることもあります。私はその待ち時間に運動したりしていますが(笑)、業務効率を考えるなら、ワンクリックで即座にレスポンスが返ってくるスピード感が不可欠です」(榮藤氏)
越川氏もこれに呼応し、セキュリティの観点からも、機密情報を外部に出さずに処理できるローカルAIのメリットを指摘。そのうえで、PCの買い替えサイクルを見据えたアドバイスを送った。
「PCの平均使用年数は約3.5〜5年です。NPUなどのAI処理専用プロセッサは、後から追加することができません。3〜4年後の未来、AIがパートナーとして不可欠になっている世界を想像すれば、今、AI PCを選択しておくことは、投資として非常に合理的です」(越川氏)
AIが仕事を奪うというネガティブな議論を超え、AIによって人間がより人間らしい創造的な活動に注力できる未来――。その実現には、AI PCをはじめとする最新のテクノロジーと、人間の意識変革の両輪が必要となる。


