
水道管の総延長は地球約19周
「配管工事屋だからこそ施工環境を理解している。その上で当社が開発した配管点検ロボットは、どんな配管であっても確実に点検することができる」─。こう力を込めるのは弘栄ドリームワークス会長の船橋吾一氏。
船橋吾一・弘栄ドリームワークス会長
住宅やオフィスビル、商業施設など、あらゆる建物の内部に張り巡らされ、我々の日常生活を支えている電気やガス、水道、通信関係、交通関係などの設備。これらは安全かつ快適な生活を維持する上では欠かせない社会インフラであり、その点検の重要性は増している。それらの老朽化が急速に進んでいるからだ。
中でも電気やガスなどの配管の老朽化は待ったなしの状況。高度成長期に建設された建物自体の老朽化が社会問題化されているが、それは配管も同じ。例えば水道管をとっても、全国に敷設された水道管の長さ(総延長)は約74万キロに及び、地球を約18.5周する距離に相当する。
同社はこの配管を点検するロボット「配管くん」を開発。立命館大学と共同で開発したこのロボットは複数のパーツをつなぐことで、芋虫のような動きができる。そのため、細長い配管の中を自在に動き回りながら、漏水個所や老朽箇所などを探索できる。それだけではない。
「高性能カメラで配管の様子をリアルタイムで確認することができる上に、位置センサーで配管全体の図面を作成することもできる。今まで誰もできないことをやろうとするのが当社の使命だと思っている」と船橋氏。
同社の成り立ちは山形県を拠点とする弘栄設備工業(現KOEI)から2019年に独立したことから始まる。弘栄設備工業は1946年の創業で、空調設備や給排水設備、上下水道設備などの工事を担う設備工事事業者。直近の売上高は約80億円と東北地区内ではベスト3の規模を誇る。12年に同社の3代目社長に就いた船橋氏は事業開発やM&Aを進め、グループ会社13社まで拡大させてきた。
「工場の配管から水が漏れている。解体せずに、そこだけ修理をしてもらえないだろうか」─。取引先からそんな依頼が来た。設備のことであれば、どんなことにも対応できると自負していた船橋氏だったが、「初めてYESと答えられなかった」という。
実は配管の工事は非常に効率が悪いことが背景にある。「もともと建物の見えない場所に敷設されているケースが多く、配管図面も更新されていない場合がほとんど。どこに、どんな配管があるのか分からないことが当たり前」(同)だからだ。結果、水漏れなどの被害が起きてから初めて修理に取り掛かれる。要はピンポイントで修理箇所を特定できないのだ。
また、古い建物では所有者が変わるうちに図面がなくなり、全体像を誰も分からなくなる。その結果、どこが破損しているかも分からず、一度に全ての配管を取り替えなければならないといった事態も生まれる。それに伴って配管工事の費用も膨れ上がり、「工事事業者の手間暇もかかる」(同)。ただでさえ、設備工事事業者の人手不足が深刻になっている中で、非効率な工事に人手がかかるのだ。
19年に実用化した配管くんは600以上の調査実績を持つ。配管くんの登場で「これまでアナログだった配管業に新風を吹き込んでいる」と船橋氏は強調。垂直走行が可能なため、複雑に曲がっている配管でも自由自在に駆け回る。また、前述のように破損してからでないと分からなかった故障個所を即座に見つけることができるため、費用や工事期間を半分以下に抑えることが可能だ。
加えて、配管くんが通った軌跡をマップデータで取得し、それらをAIで可視化できるため、見えない配管が専用アプリで簡単に見れるようになる。「単なるものづくりの会社やロボットベンチャーなどでは、決して気が付くことができない視点」(同)だ。
ドローンをヒントに共同開発
この配管くんの開発のヒントになったのがドローン。建設工事現場でドローンの技術を垣間見た船橋氏が「この技術を活用して設備工事でも同じことができるのではないかと閃いた」。もちろん、同社がロボットの技術を持っていたわけではない。
地元の山形大学をはじめ、立命館大学に技術協力を仰ぎながら、構想から8年の研究を経て市場投入に漕ぎつけた。「今では首都圏の鉄道会社の全駅舎の調査を依頼されるなど、唯一無二の技術であるからこそ、声がかかる」と船橋氏は強調する。
ただ、人手不足が解決するわけではない。そこで同社は業界初となる施工管理育成の教育機関「KDWアカデミー」を25年12月から開始。約100社の協力会社と連携し、学習プログラムをはじめ、現場OJTやDX技術を提供して施工管理者として成長できる環境を整える。
建設業の就業者数は1997年の685万人をピークに減少を続けており、2023年には約483万人にまで減少。「見えない個所にある配管だからこそ、経年劣化が進んでしまう。『見えない配管を見える化』し、若い人材を育てていくことで社会インフラの維持に貢献していきたい」と船橋氏は話す。
財政難の折、新たな社会インフラをゼロからつくらずに、いかに既存のインフラの改修を進めて社会活動を維持させていくかは国家的な課題。山形の設備屋がインフラ点検のソリューションカンパニーになれるかどうかが試されることになる。
