AIエージェントの登場により、「AIエージェント元年」とも呼ばれた2025年。ChatGPTの一般公開からわずか3年ほどで、ビジネスや私生活のさまざまな場面で生成AIを活用する事例が増えた。
AI活用の大きな転換点となった2025年だが、昨年は富士通が設立から90周年を迎えた年でもある。そこで今回、富士通の代表取締役社長 兼 CEOの時田隆仁氏を取材し、2025年の振り返りと2026年の展望を聞いた。
社長就任から時田氏が注力する「人事制度」の変革
2019年に富士通の社長に就任した時田氏。まずはこれまでの注力領域について尋ねたところ、「社長就任後は人事制度に真っ先に取り組んだ」と同氏は答えた。特に2020年より開始したジョブ型人事制度の導入や、2025年の新卒一括採用の廃止は大きな話題となった。
人事制度の変革に着手した背景について、同氏は「グローバルで12万4000人ほど(当時)の社員の能力を結集するために必要だった。その中で日本人の社員は7万人~8万人いたのだが、その社員が海外のメンバーと同じ目線で活躍できる仕組みが重要だった」と振り返る。
以前は国や地域に応じて、グローバルの富士通グループ内で複数の制度が運用されていたという。それらの制度を統一し、どこで働いていても能力を発揮できる仕組みを整えた。
近年のテクノロジーの市場動向については、「システムインテグレーションという事業そのものが変わってきた」と話していた。
従来のシステムインテグレーション事業者といえば、顧客の要望に応える形で受託開発を請け負っていた。UNIXをベースとしたメインフレームでの開発や、オンプレミス環境での実装が中心となっていた。
しかしクラウド化の推進や事業拡張性などの課題から、近年はas a Service型のモデルやデファクトスタンダード(事実上の業界標準)とされるアプリケーションが台頭している。「この傾向はまだまだ進むはず」(時田氏)とのことだ。
そうした中で、富士通が顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するために打ち出しているのが、2021年に掲げた社会課題を起点とする事業モデル「Uvance」である。Uvanceでは、同社が持つ技術基盤を活用して社会課題を解決するソリューションを業界横断的に提供する。
時田氏はこのUvanceについて、「オンクラウドのソリューション群をクロスインダストリーで提供する。従来のシステムインテグレーションではなく、富士通のコアであるHPC(High Performance Computing)やスパコン、量子コンピュータ、ネットワーク、AI、セキュリティなどをベースとして、コンサルティング能力を駆使したビジネスモデルへ転換することを宣言するコンセプト」だと説明した。
コンサルティング事業が富士通の中心になるわけではない
「AIエージェント元年」の評判にたがわず、2025年は数多くの業務現場でAIエージェントの実装が進んだ。AIエージェントとは、人間が入力したプロンプト(指示)に対して自律的にタスクを分解し、複数のツールを活用しながら業務を支援するシステム。
先進的な事例では、司令塔の役割を担うAIエージェントが、他の複数のAIエージェントに指示を出してアウトプットを生成する「マルチAIエージェント」も存在する。富士通も2024年ごろから、マルチAIエージェントの取り組みを発表してきた。
「2025年は当社の事業としても、世の中のAIエージェントに対する注目度を考慮しても、まさに第一歩となる"元年"と呼べる年だった」(時田氏)
また、同社は2025年に、コンサルティング事業ブランド「Uvance Wayfinders」を推進するコンサル専門組織を新設し、コンサル人材を拡充することを発表した。
DXの必要性を感じて変革に着手する企業が増え始める中で、富士通は従来のITベンダーとしての営業スタイルやシステムインテグレーション事業からの脱却を図っている。その際に重要なのがUvanceであり、顧客の課題に伴走するUvance Wayfindersなのだ。
ただし、その一方で時田氏は「コンサル事業が富士通の中心になるわけではない」と話す。
それもそのはず、富士通はあくまで技術やソリューションを提供する企業であり、コンサルティングファームになろうとしているわけではないからだ。
「当社はテクノロジーによって、お客様の課題や社会の課題の解決に最大限に貢献する企業でありたい。コンサルタント、そしてコンサルティング事業はそのための手段の一つで、お客様接点でありストーリーテラーの役割を担ってもらう」(時田氏)
時田氏が予測する2026年の「格差拡大」とその対策
いよいよ年が明け、動き始めた2026年。時田氏は「今年もAIを抜きにしては語れない年になる」と話す。
例えば、富士通は単なる病院のシステム構築やIT化を超えて、AIエージェントが診察や病院経営を支援するサービスを具現化してきた。このような事例が複数の領域で進むという。
そうした中で同氏は「AIに限らずではあるが、優れた技術を活用できる企業と、できない企業の二極化が進むだろうと危惧している」と指摘する。
「DXを駆動するのであれば、開発を内製化すべき。当社自身もレガシーシステムの刷新やデジタルツールの導入により、内製でDXを進めてきた。この発言は富士通の事業と矛盾するように聞こえるかもしれないが、自社の取り組みをリファレンスとして提供し、『それでも富士通が必要だ』と言われる会社になるしかない」(時田氏)
経済的な事情や人材・スキルの事情は各社によって異なるかもしれないが、内製でDXを進められる企業と、そうでない企業の格差も二極化が進む年になりそうだという。
「企業間だけでなく、地域格差も広がるだろう」と時田氏が予想する2026年。同社はコンピューティング・ネットワーク・AI・データ&セキュリティ・コンバージングテクノロジーの5つのキーテクノロジーに、これまで以上にフォーカスして事業を展開する方針だ。
同氏は「広がる格差をなんとか抑え、できればその差を縮めるためには、未来のビジョンを一緒に作りながら描けるコンサルティングケーパビリティの強化が必要。そのために必要な技術もしっかり実装していく」と語る。
取材の最後に、ビジネスとは関係なく時田氏自身の今年の目標について質問してみた。すると、「健康で過ごせたら」との返答だった。



