RX Japanは、12月2日~4日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で、建築・土木・不動産の先端技術展「JAPAN BUILD TOKYO」を開催した。同イベントに日本マイクロソフト 業務執行役員 エバンジェリストの西脇資哲氏が登壇し、「AI/生成AIテクノロジーの現在地と建築・建設・土木分野における活用例」をテーマに講演を行った。

同講演では、生成AIの社会的背景から、業界に即した具体的な業務活用までが、数多くのデモを交えて紹介され、来場者の高い関心を集めた。

  • 「JAPAN BUILD TOKYO」で講演する日本マイクロソフト 業務執行役員エバンジェリスト 西脇資哲氏

    「JAPAN BUILD TOKYO」で講演する日本マイクロソフト 業務執行役員エバンジェリスト 西脇資哲氏

生成AIの社会的背景と日本の課題

冒頭、西脇氏は総務省の情報通信白書のアンケート調査を引用し、日本における生成AI活用が世界と比べて大きく遅れている現状を指摘した。2023年時点で世界の生成AI利用率が50%を超える一方、日本は1桁台にとどまり、翌年の調査でも世界が80%近くに達する中、日本は50%未満という結果が示されている。

  • 日本の生成AIの利用率(情報通信白書より)

    日本の生成AIの利用率(情報通信白書より)

生成AIは書籍、論文、Web、SNSなど膨大な情報を学習し、自然言語による指示で文章作成・分析・要約・翻訳、画像生成までをこなす技術だ。従来は専門知識やプログラミングが必要だった知的作業を、誰もが日常的な日本語で扱える点が、産業構造そのものを変えつつある。

「プロンプト」ではなく「メッセージ」という考え方

生成AI活用のポイントとして、西脇氏は「プロンプト」という言葉に対する捉え方を転換する必要性を説いた。「難しい指示を書く」のではなく、「AIにメッセージや指示を投げる」と考えることで、心理的なハードルは大きく下がるという。

実際、MicrosoftやChatGPT、Googleなども「メッセージ」という表現を採用しており、重要なのは形式ではなく意図を伝える力だと同氏は強調した。

現在の生成AIは、MBA合格レベルや国家資格試験合格レベルの知識処理能力を持つともいわれる。しかし、そのような高度人材を企業が個別に採用することは現実的ではないため、「特定の人が使う」のではなく、「全員が使う」ことが、生成AI時代の前提条件となると同氏は訴えた。

経営判断としての生成AIを導入すべき

続いて、生成AIの導入はIT部門の話ではなく、経営判断そのものだと西脇氏は指摘した。人間がAIに歩み寄る必要はなく、自然な言葉で指示すればAIが理解する時代において、経営者が取るべき判断は「従業員に生成AIを使わせること」だと同氏は語った。

また、同氏は「若手社員やデジタル人材だけに任せる考え方は誤り」とも指摘。製品やサービス、顧客、現場を理解している既存社員こそが生成AIを使うことで、業務効率と品質の両立が可能になるからだとその理由を説明した。

検索と生成AIの違い

一見すると、検索と生成AIは似ているように見えるが、西脇氏は、検索は情報の所在を示す手段であるのに対し、生成AIは「仕事を依頼する相手」だと説明した。生成AIは情報を集めて整理し、考えや成果物としてまとめるところまでを担う点が本質的な違いだという。

Microsoft Copilotが注目される理由として、同氏は、Word、Excel、PowerPoint、Outlookといった日常業務ツールとの直接連携を挙げた。見積書、積算資料、入札書類、報告書、プレゼン資料など、建設・不動産業界で日常的に使われるツールの画面上で、そのままAIを活用できる点が、導入障壁を大きく下げているとアピールした。また、社内データがAIの学習に使われない設計となっており、企業利用におけるセキュリティ面でも安心だという。

建設・建築・不動産分野における具体的活用例

後半では、業界に即した具体的な活用例が多数紹介された。初めに挙げられたのが文書作成・修正業務だ。報告書、設計検討資料、施工手順書、作業マニュアル、クライアント提出資料など、文書作成が中心となる業務は生成AIの得意分野で、過去の文書を基に「法令に沿って修正」「顧客向けに分かりやすく書き直す」と指示するだけで、高品質な成果物を短時間で作成できる。

  • 生成AIに社内規定を作らせる(出典:日本マイクロソフト)

    生成AIに社内規定を作らせる(出典:日本マイクロソフト)

規定やマニュアル整備の活用も紹介された。既存の労務規定・安全規定に対し、熱中症対策やSNS利用規定を追加する際、生成AIは文体や構成を理解した上で、WBGTなど業界特有の指標を盛り込んだ実務的な文章を作成できる。さらに、作成した規定を英語やベトナム語、中国語などに翻訳することで、外国人作業員が多い現場でも安全ルールを正確に共有できるという。

  • 作成した社内規定を生成AIでタイ語に変換して、外国人従業員に徹底(出典:日本マイクロソフト)

    作成した社内規定を生成AIでタイ語に変換して、外国人従業員に徹底(出典:日本マイクロソフト)

アンケート分析も有効な活用例として挙げられた。住宅展示場などで集めた来場者コメントをAIに渡すことで、「良い点」「悪い点」「すぐに対応すべき点」を客観的に整理できる。さらに、人手では拾いきれない少数意見も可視化され、改善活動の質が向上するという副次効果もあるそうだ。

  • アンケート調査を生成AIにまとめさせる(出典:日本マイクロソフト)

    アンケート調査を生成AIにまとめさせる(出典:日本マイクロソフト)

さらに、Excelデータをもとにしたグラフ作成や分析のデモも行われた。都道府県別の公共工事請負額データをAIに渡すだけで、適切なグラフ形式を提案・作成でき、高度なExcel操作の負担を軽減する。

  • 都道府県別の公共工事請負額データを生成AIでグラフ化(出典:日本マイクロソフト),A都道府県別の公共工事請負額データを生成AIでグラフ化(出典:日本マイクロソフト)

    都道府県別の公共工事請負額データを生成AIでグラフ化(出典:日本マイクロソフト),A都道府県別の公共工事請負額データを生成AIでグラフ化(出典:日本マイクロソフト)

マニュアルの活用としては、建設機械の分厚いカタログや取扱説明書をAIに読み込ませ、専用の「AIエージェント」を作成する例が紹介された。現場で「ブレードのサイズは?」「標準装備は?」と質問すれば、AIが即座に回答するため、問い合わせ対応や情報探しの時間を大幅に削減できるという。

  • 機器のマニュアルや操作説明書をアップロードすれば、疑問点を生成AIが回答してくれる(出典:日本マイクロソフト)

    機器のマニュアルや操作説明書をアップロードすれば、疑問点を生成AIが回答してくれる(出典:日本マイクロソフト)

また、建設進捗管理に応用することも可能だ。建築図面、工程表、現場写真をAIに読み込ませることで、進捗率の算出や完了工程の把握できるようになるという。撮影した写真を追加するだけで進捗が更新され、レポートとして自動生成・共有できる。今後は巡回ロボットと組み合わせ、AIが現場を「見る」ことで、進捗管理や品質管理の高度化が期待される。

  • AIに建築図面、工程表、現場写真などを読み込ませると・・・(出典:日本マイクロソフト)

    AIに建築図面、工程表、現場写真などを読み込ませると・・・(出典:日本マイクロソフト)

  • 進捗率の算出や完了工程の把握が可能に(出典:日本マイクロソフト)

    進捗率の算出や完了工程の把握が可能に(出典:日本マイクロソフト)

人間とAIの役割分担と今後の展望

西脇氏は最後に、AIの限界についても言及した。売上拡大や経営方針といった大きな目標設定は人間の役割であり、AIはその目標を具体的なタスクに落とし込んだ段階で力を発揮すると指摘。人間が「考え、決める」、AIが「調べ、まとめ、形にする」という役割分担が、今後の基本となるという。

生成AIの活用は、単なるIT導入ではなく、人材と経営の問題だ。建設・建築・不動産業界においても、AIを使いこなす側に立てるかどうかが、今後の競争力を左右する重要な分岐点となりそうだ。