商品選びに「こだわりない層」をいかに惹きつけるか? ライオンが打ち出す新オーラルケア戦略

オーラルケアは自己投資

 ハミガキにお金をかける時代に─。物価高で消費者の節約志向も根強い。しかし、生活消耗品のオーラルケア用品は高価格帯の商品ほど売れている。

「ここ数年、オーラルヘルスケアの入り口となるハミガキには、お金をかけて良い商品を使おうという志向が顕著に見られる」

 こう話すのは、ライオンのオーラルヘルスケア事業部・永井康介氏。現在同社はハミガキ、ハブラシメーカーとしてともにトップシェアで、その範囲は国内に留まらず海外にも及び、中国、韓国、マレーシア、タイなどアジアでもその地位を築き始めている。

 人々がオーラルケアに投資するには、健康志向と美容への関心の高まりによるところが大きい。時代とともに、オーラルケアはもはや自己投資の範囲という人々の認識の変化がある。

 昨今、歯周病が糖尿病や認知症、脳血管疾患や肺炎などのリスクを高め全身の健康に大きく影響を与えるということが研究で明らかになってきている。また、SNSの普及でルッキズム(外見至上主義)が進み、特に若い世代で歯の美白や口臭対策に気を遣うのは常識化している。

 オーラルケア市場は今年半年で1800億円(前年比102%)規模に成長している中、ハミガキの販売数量は減っているものの単価は向上している。内訳を見てみると、前年比の数量ベースで低価格帯商品は4.4%減、中価格帯商品は7.5%減。

 一方で、高価格帯商品①(470~710円)は18.4%増、高価格帯②(711~951円)は10.9%増、高価格帯③(952円以上)は12.8%増。つまり、低価格帯を選ぶ人が減り、高価格帯にシフトしている。ハブラシについても同様の傾向が見られ、低・中価格帯商品は前年比割れだが高価格帯商品は伸長している。

 ひと昔前、ハミガキは一家に一本の時代もあった。しかし現在ハミガキはパーソナルユース化。これはライオンが個人の口腔の悩み別に商品のマーケティングを行ってきた結果でもある。

 例えば3人家族で、お父さんは歯槽膿漏に特化した商品、お母さんは歯周病防止の商品、子どもは虫歯予防ができ味が子供向けの商品といった形で、症状や年代別に商品開発を主としてきた。大きく分けて、虫歯や歯周病などの「疾患ニーズ」と、歯の着色、口臭などの「対人ニーズ」に対応した提案である。

 これにより、家庭内に複数ハミガキが存在するようになり、市場全体でも商品の付加価値化が進んできている。

「こだわりない」人の需要を掘り起こす商品開発

 実際、人々は売り場にたくさん並ぶオーラルケア商品をどのように選んでいるのだろうか。

 同社が行った消費者調査によれば、オーラルケア製品を選ぶ際に重視する点が、「口腔内の悩みが比較的あり商品選びに基準がある層」が55%、「価格を重視する層」が20%で、残りの25%は「症状もなく商品選びに基準がない」ということがわかった。つまり、オーラルケア商品を選ぶ際、何を選んだらいいかわからない、あるいは特段のこだわりがないという人々が全体の1/4いるということ、そしてその層に対して新たな提案が必要だということである。

 そこで同社はこの層に対し、ライフスタイルに着目した『OCH-TUNE』という新ブランドを24年に開発。このブランドは、歯磨きタイムを効率重視で済ませたい人と、じっくり丁寧にケアしたい人がいると仮定。それぞれの人に向けて、同ブランド内で『FAST』と『SLOW』という2つの種類を用意した。

『FAST』のハミガキは時間がないことを想定し、口の中でハミガキの薬用成分が素早く広がる高分散処方で、泡立ちが早い設計にしている。忙しい朝でも、口腔内を素早くすっきりさせる使用感となっている。

 反対に『SLOW』は、ハミガキの薬用成分が口腔内に留まりやすく、低発泡で時間が経つほど発泡していくような設計。すぐに口の中が泡だらけにならないため、お風呂でリラックスしながらの歯磨きにも適する。

 この2種類を売り場でも並列。先述した商品選びに明確な基準がない消費者でも、2択であれば比較的選びやすい。こうした口腔内の 〝症状〟ではない〝ライフスタイル〟に着目した商品は、今までオーラルケアの商品選びでなかった基準だ。

「迷っている人は2つの選択肢を提示されて初めて選ぶことができる。症状以外に着目した商品開発は、当社として初めての挑戦」(永井氏)

 また、関連商品のハブラシやマウスウォッシュもコンセプトを統一。例えば『FAST』のハブラシは大きくガシガシと磨けるブラシの形状で、『SLOW』のハブラシは小ぶりでハンドルが細く重量も軽く、長く歯磨きしても疲れづらい。このようにライフスタイル別に、それぞれの商品には細かな工夫が施されている。特段こだわりがない人にとっては、言われてみて初めて認識するような仕掛けだが、実際使ってみて気に入れば新たな商品選びの基準となるだろう。

 同社は1913年からオーラルケア習慣を根付かせる活動を地道に行ってきた。50年前と比較すると、日本において1日の歯磨き2回以上の比率は約5倍となり、小学生の虫歯比率は1/3に縮小している。

「社会価値と経済価値を両立させ、今後もより良いオーラルヘルスケア習慣の浸透に貢献したい。オーラルヘルスケア1回あたりの価値向上と、人数、頻度ともに増やしていく」と永井氏。人口減というマイナス環境で需要掘り起こし策がつづく。