エージェントAIにより個人の生産性が20倍になり、チームは不要となり、業務は完全に1人でこなす時代が来る

このように衝撃的な提言をしているのは、地方公共団体の企業DXや生成AIの業務活用を推進する企業であるグラファーの代表取締役 石井大地氏だ。10月27日と28日に幕張メッセで開催されたサイボウズの年次イベント「Cybozu Days 2025」において、同氏が語ったAIによる業務革命はインパクトがあった。同氏の講演から、これから企業はAIとどのように付き合っていけばいいのかを明らかにしてみたい。

  • 「Cybozu Days 2025」のセッション「AI×データ活用の現在と未来」の模様

    「Cybozu Days 2025」のセッション「AI×データ活用の現在と未来」の模様

業界の異端児、グラファー石井氏のAI活用による業務革命

「Cybozu Days 2025」では、同社のkintoneやGaroonなどを提供するパートナー企業の製品やサービスがブースとして展示された他、多くの著名人、関係者によるセミナーが開催された。そうした中、「AI×データ活用の現在と未来」というタイトルの下、グラファーの代表取締役社長 石井大地氏とサイボウズのテクニカルエバンジェリスト 山下竜氏がトークセッションを行った。

  • グラファー 代表取締役 石井大地 氏

    グラファー 代表取締役 石井大地 氏

トークセッションの狙いは、「チーム業務にAI活用をなじませていくためには?」と「プロジェクトの複雑化・大規模化を抑えて、スピーディに進める方法」の2点について、現在の業務を踏まえた上で提言を行うというものだった。

  • 司会進行役を務めたサイボウズのテクニカルエバンジェリストの山下竜氏

    司会進行役を務めたサイボウズのテクニカルエバンジェリストの山下竜氏

石井氏は、東京大学医学部から文学部に転部、第48回文藝賞を受賞し小説家デビュー。その後、スタートアップ企業での事業立ち上げに関わる中、リクルートホールディングス関連企業でテック企業への開発投資を担当し、その後ベンチャー企業グラファーを創立した、業界の異端児的存在だ。同氏が2017年創業したグラファーは「プロダクトを活用した社会変革」を標榜し、主に行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)に関わるサービスを展開、AIに関しても「Graffer Al Solution」を提供するなど、勢いのあるベンチャー企業だ。

  • グラファーのプロダクト「Graffer Al Solution」(報道資料より)

    グラファーのプロダクト「Graffer Al Solution」(報道資料より)

まず石井氏は、今回のテーマの前提となるAIの能力が2025年に大きく進化したことに言及した。今までの生成AIは要約やテキスト生成、翻訳から画像生成、データ整形などを行う個人レベルで便利なツール的な存在だった。特に2023年に登場した「GitHub Copilot」はAIによるプログラミング支援ツールでコード入力を補完する機能は便利であり、その機能に感嘆したという。

そして、2025年にAIベンダーの推論モデルが大幅に進化し、自分でロジックを立てて深く考えることができるようになり、同氏は「AI革命の第二幕」に突入したと述べた。結果、AIの使い方も大きく変革し、仕事全般を任せられる「エージェントAI」に変わっていくと、同氏は明言した。

  • AIエージェントの年と言われている2025年(講演資料より)

    AIエージェントの年と言われている2025年(講演資料より)

石井氏は、プログラミングの現場でAIコーディングツール「Cursor(カーソル)」を利用している。「たった2、3行のプロンプトで指示するだけで、勝手にAIがプログラムを作成してくれる」と、同氏はCursorを賞賛。その使用感は、完全にAIが仕事を代行するといったもので、1人の社員を追加で雇うのと同じような感覚だという。

このような状況について、石井氏は「AI業務効率化ではなく、AI業務革命レベルになっている」と主張した。グラファーはエージェントAIを導入し、個人で20倍の生産性向上に成功しており、極少数チームによるソフトウェア開発スタイル「AI×フルサイクル開発」を提唱している。「AI×フルサイクル開発」とはどのようなものか、その詳細を見ていきたい。

知的労働含め、あらゆる仕事をAIに任せることは可能

急速に進化していくAIだが、企業はどのように利用していけばよいのか。

石井氏はデータの準備不要でよりシンプルな作業を数多くこなす業務においてAIを導入することを勧める。同氏は、顧客からの問い合わせを「通常」「緊急」「返信必須」など対応に合わせて分類し、担当部門に転送する業務を例に挙げた。運用面では、AIによる判定後にその分類や判断、理由をレビューし、最終担当者が顧客対応に活用し精度を上げていくというフローを構築する。AIとの情報すり合わせを通して一緒に仕事をする感覚をリアルに体験しやすいという。

  • AI活用システムのシナリオ事例(講演資料より)

    AI活用システムのシナリオ事例(講演資料より)

次いで、石井氏がAIの活用先として勧めるのはソフトウェア開発だ。現在のAIは自分でソフトウェアを書いて問題を解決する能力が上がっているので、プロジェクトとしては面白いそうだ。グラファーでは、非エンジニアでもPDFなどで送られてきたファイルをExcelデータに変換するプログラムをAIで普通に作成しており、「AIを活用すれば、どんな業種の人間でもプログラムを作成できる」と同氏は語っていた。

  • 非エンジニアが高度なプログラミムを作成できる。世界は「AI革命の第二幕」に(講演資料より)

    非エンジニアが高度なプログラミムを作成できる。世界は「AI革命の第二幕」に(講演資料より)

こうした現状について、石井氏からは「プログラム作成にとどまらず、知的労働全般をAIにやらせる。割といけるんじゃないかという気がします」という発言まで飛び出した。

AIによる業務革命「生産性+2,000%の世界へ」、人間は業務主体から設計業務へ

加えて、石井氏はAIに対して高い信頼を置いている。同氏によれば各種ベンチマークテストの結果から、AIのソフトウェア開発の性能は時間とともに急速に進歩しており、2025年時点で多くのソフトウェア開発者を超えるレベルまで到達、今後さらに発展していくのは確実だという。

  • AIによるソフトウェア開発の能力は向上し続けている(講演資料より)

    AIによるソフトウェア開発の能力は向上し続けている(講演資料より)

そんな石井氏が唱えるのが、「生産性+2,000%」を実現するAIをフル活用した新しい業務形態だ。同氏は、AI活用で生産性2、3割向上させたいといった要望が多いが、便利なAIツールを使えば、誰でも生産性を20%程度高めることは簡単であると主張。将来的に生産性の向上ペースを100倍に出来るという見通しから生産性を2,000%向上させることも可能だと理論を展開した。

  • 生産性+2,000%の世界へ(講演資料より)

    生産性+2,000%の世界へ(講演資料より)

石井氏によれば、AIのソフトウェア開発力向上によりツールやクラウドサービスの利用が不要になり、年間50万から100万円削減可能になるという。また、担当者が1、2営業日でシステムを作ってしまえば人件費が数万円程度で済み、エンジニアの費用を削減できる。先の発言の裏付けにはこうした計算がある。実際、「講演の待ち時間を利用して、AIコーディングツールを活用し十分に製品となるものを作成できた」と同氏は語った。

  • AIの進歩は格段に進み業務のタスクレベルから業務や組織変革へと向かうレベルになっている(講演資料より)

    AIの進歩は格段に進み業務のタスクレベルから業務や組織変革へと向かうレベルになっている(講演資料より)

石井氏は、このようなAIの高い生産性に着目して、発想を転換し「今行っている業務をAIで効率化する」のではなく、「AI前提の業務設計」をする必要があると指摘。その発想のカギは「スキルギャップ解消」と「リソース代替」の2つだという。

「スキルギャップ解消」とは、自分以外の専門家のスキルや知識を頼っていた部分を、AIを活用することで自分が担うこと。これにより、専門家に発注するコストやコミュニケーションコストを大幅に削減可能だという。

  • AI活用前提のリソース設計。コミュニケーションによるタイムロスはAIで補える(同社資料より)

    AI活用前提のリソース設計。コミュニケーションによるタイムロスはAIで補える(同社資料より)

「リソース代替」とは、自分以外の人間の工数(=リソース)を頼っていた部分をAIに代替させることで人間を不要にすることだ。これにより、人間に発注するコストやコミュニケーションコストを大幅に削減することが可能となる。これは、担当者がAIを活用してすべての処理を行うという、人不在のかなり過激な考えだ。実際にそんなことが可能なのだろうか。

開発はマネージャー1人ですべて実行、サポート人員1人の2名体制が理想

石井氏は、自身の経験によりAIをアシスタントとして活用すれば、10人ぐらいのチームを率いる程度の生産量を確保できると述べた。今後、「1人チームで部下はAIとなり、人間は業務の遂行主体でなくなる」とまで断言。では、人の役割はどうなるのか。石井氏は、「人は新たな業務の探索と定義や業務の設計・管理を行い、仕事はAIが遂行するようになる」と語った。それに伴い、人は、業務遂行を担う人材をAI前提の業務管理を担う人材へシフトしていく必要があるという。これが、石井氏が考えるAIとの役割分担だ。

  • 「ひとりチームで部下はAIとなり、人間は業務の遂行主体でなくなる」時代に。人は企画立案、設計、管理業務へシフト(講演資料より)

    「ひとりチームで部下はAIとなり、人間は業務の遂行主体でなくなる」時代に。人は企画立案、設計、管理業務へシフト(講演資料より)

また、今回のテーマである「プロジェクトの複雑化·大規模化を抑えてスピーディに進める方法」についても、プロジェクトの大規模化複雑化を抑える方法として、石井氏はAIを使うことを前提にプロジェクトチームの規模を極限まで小さくしていくことを提唱。これは最終的に開発者1人、部下はAIというほぼ個人営業に近いスタイルだ。これが、同氏の主張する「AI活用×フルサイクル開発」だ。

  • AI活用前提のリソース設計(同社資料より)

    AI活用前提のリソース設計(同社資料より)

通常、システム開発する場合、プロダクトマネージャーがまず要件定義をして、フロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニアなどの役割分担をして開発を進め、最後に品質保証をQAが行い、後は運用担当に引き渡す流で分業する。この場合、工程の一部で作業に遅れが生じた時、即全体に影響が出ることになる。また、一部の工程が早かったとしても他の部分で停止するのでスピード感が出せない。一方「AI活用×フルサイクル開発」は、フロント、バックエンドも運用もインフラも全部、1人で行い、サポートのためにもう1人つける体制で仕事を行う。

  • マネージャーがすべてを担当する「AI活用×フルサイクル開発」(同社資料より)

    マネージャーがすべてを担当する「AI活用×フルサイクル開発」(同社資料より)

同社は既にこの体制を実践しており、プロダクトマネージャー(PDM)が一人で顧客訪問を行い、ニーズを発見し課題を整理しプロダクトの企画をする所から、実装、運用まで、全部一人で行っているという。石井氏は、この体制を理想的と語った。担当者はClaude Codeを用いて1カ月半程度でリリースし、10億トークンくらいAIを活用していたという。

AIは基本無責任、責任ある仕事は人が行う

しかし、AIをそこまで信頼していいのかという懸念もある。石井氏は、代替できないものはある、特にセキュリティやコンプライアンス問題など責任ある仕事は、AIに任せられないと語った。AIが作成したプログラムは機能的には十分だが、ライセンスの侵害や著作権の侵害などの面では信頼は低いという。

  • AIは責任の主体にはなりえない。コンプライアンス問題についてよく聞かれるが明確に問題があると断言できる、必ず自分で確認する必要がある。(講演資料より)

    AIは責任の主体にはなりえない。コンプライアンス問題についてよく聞かれるが明確に問題があると断言できる、必ず自分で確認する必要がある。(講演資料より)

AIはあくまでソフトウェアであり、責任の主体ではない。人のようにふるまっているが人ではない。「AIは損害賠償してくれない」と石井氏。AIは責任を負っていない、使う人間が全面的に責任を負わなくてはならないということだ。これが今、AI関連でよく語られる「Human in the Loop」の原則だ。同氏も自身の手によるチェックは欠かさないという。

AI-Readyなデータの準備とkintone、もうやらない言い訳はできない

では、AI活用におけるデータの扱いはどうだろうか。AIネイティブでいく場合、データもあらかじめAIで扱いやすいものを用意したいところだ。これについては、データ収集の段階でデータ型含めた構造化をしておくのが最適解だ。具体的には、入力フォームなどを用いて入口からデータの構造化を図っていけばよい。この入力フォームの作成について、強みを持つのがサイボウズのkintoneだ。

  • 情報生成・入力の最適化により、データを構造化(講演資料より)

    情報生成・入力の最適化により、データを構造化(講演資料より)

石井氏も自身の地方公共団体の手続きオンライン申請システム開発の経験から、入力フォームによるデータ化は、ただ便利なだけでなく、データ不備を抑止する大きな効果もると語った。窓口で紙に書いて手続きをすると、書き込欄にイレギュラーなことが記入される。オンライン申請では、イレギュラーな入力に対しバリデーションをかけることができる。そのほか、自動計算によるミスの軽減、後工程の簡易化、集まるデータの正規化など、多くのメリットがあるという。

石井氏は、日本企業はデータ化の部分で行き詰まっているケースが多く、それが原因でAIの本格導入が進まないという側面もあるという。この問題を解決する鍵も「AIにある」と同氏。AIは画像からの文字抽出やPDF・Excelを読み込んでのデータ化などmp機能が強力だ。AIを活用すれば効率よくデータ化できる。

  • 非構造化データを構造化する方法(講演資料より)

    非構造化データを構造化する方法(講演資料より)

最後に山下氏は、「今まで、現場のDX担当者はデータが対応していないからという言い訳ができた。AIの登場でそれができなくなる。また、AIを使えば人が行う場合に比べて低コストでできる。しかも個人レベルでもそうした作業ができるようになった」と語り、今後、あらゆる業種においてAIの活用は不可避となるとの見方を示した。

石井氏の意見をそのまま取り入れる企業は多くはないだろう。しかし、エージェントAIによる業務革命への対応は必須となる。AIによる生産性向上は、業種によってその効果の違いはあるが、同氏が20倍と語ったのは、それぐらいの効果を実感できたからだ。この状況をそのまま座視することは大きな機会損失につながりかねない。今後企業は、どのような形でエージェントAIと付き合っていくのか決断していかなければならなくなる。今回のセッションはその一助となることを期待したい。