新型コロナウイルス感染症の流行によりテレワークが急速に普及し、リモートワーク、在宅勤務も当たり前になった。現在は徐々に減少傾向にあるが、早稲田大学 商学学術院商学部 准教授の村瀬俊朗氏は、「今後のテクノロジーの進化を考えると、テレワークがなくなるわけではない」と指摘する。したがって、今後の職場ではテレワークを使いながらどのように共同体制を維持していくかを考える必要があるのだ。

11月5日に開催された「TECH+セミナー ワークプレイス改革 2025 Nov. つながりを生む、ワークプレイスの最適解」に同氏が登壇。テレワークを活用しながらチームとして組織戦を戦えるようにするにはどうすればよいのかを、行動、感情、認知の3つの側面から解説した。

在宅勤務のメリットとデメリット 

講演冒頭で村瀬氏は、在宅勤務そのものへの評価が従業員とマネージャーとで大きく異なることに注意すべきだと述べた。在宅勤務は通勤がなく、家庭の事情に合わせることができ、生産性が向上するなど従業員にとってメリットが多い。一方マネージャーにとってはコミュニケーション不足が大きなデメリットであり、どのようにチームワークをつくっていくかが懸念事項となる。

「従業員とマネージャーとでは、在宅勤務に関して見ているところが違うため、評価が大きく乖離してしまうのです」(村瀬氏)

在宅勤務の影響はデータにも表れている。例えば在宅勤務を月に1日している従業員の業績は、1.5%低下することがわかっている。1.5%の低下なら大きな影響はなさそうだが、在宅勤務では出社しているメンバーとの連携が難しくなるため、在宅率が高まると出社メンバーの業績も低下してしまう。

具体的には、平均出社率が50%になると出社しているメンバーの業績は5%低下する。また上司から見ると、メンバーの週ごとの平均在宅時間が4時間以下であれば全て出社のときとほとんど変わらないが、在宅時間が4時間以上になると、チーム業績の低下が顕著に感じられるというデータもある。

創造力にも影響がある。新たなアイデアの提案数を比べると、コロナ禍以前の全員出社、コロナ禍での全員在宅のときは変化がなかったが、アフターコロナで在宅と出社が混在するハイブリッドが浸透し始めると、新たなアイデアの提案数が激減したのだ。

とくにリモートでペアを組んでアイデアを創造する場合には、対面に比べてアイデアの数も創造力も低下するという。リモートではモニターを集中して見なければならない。そのため、創造力を駆使するのに必要な発想の拡散がしにくくなることが原因だと考えられる。

  • 提案されたアイデアの数に関する調査結果

    提案されたアイデアの数に関する調査結果

良い職場、良いチームワークのために意識すべきこと 

在宅勤務にメリットとデメリットの両面があることが明らかになった今、考えるべきなのは、在宅勤務が是か非かの二択ではなく、在宅と出社の「良いとこ取り」をすることだ。そのためには、どうしたら良い職場、良いチームワークをつくることができるかを、リーダーとメンバー全員が考えなければならない。講演後半で村瀬氏は、その際に意識すべきことを行動、感情、認知の3つの面から説明した。

行動面:ルールの明文化 

まず行動の面から見ると、連携ができ、コミュニケーションを取りながら情報や知識において協力するといった行動ができていれば、良い職場、良いチームワークと言える。それが容易なのは、全員が完全に出社、あるいは完全に在宅勤務の場合だという。対面会議やビデオカンファレンスなど全員が同じ方法でコミュニケーションをとって連携、協力ができるためだ。

またどちらか一方が圧倒的に多い状態なら、多いほうに合わせてしまうという方法がある。問題は出社と在宅がほぼ同数で混在するハイブリッドだ。それぞれがやりたいことを選べる状態になると、チームがうまく回らなくなってしまうのである。

  • 出社率、在宅率による組織運営方法の違い

    出社率、在宅率による組織運営方法の違い

その解決策は、ルールを明文化することだ。例えば週2日出社するなど出社頻度を決め、ミーティングの時間帯やチャットの活用方法も決めてコミュニケーションをとりやすくしておく。ハイブリッドではそれぞれの動きが見えにくいため、お互いの仕事のフィードバックやアドバイスの方法、休息のタイミングについても明文化する。

ルールを決めるだけではなく、例えばお互いのやっていることが理解できたか、助言を得やすかったかなどを振り返り、常に改善できるようにしておくことも必要だという。

リモートならではのメリットを活かすことも重要だ。例えばチャットは会話のログが残るため後日検索が可能なうえ、対面会議のように発言のタイミングをうかがうことなく意見を述べられる。チャットに登録している大勢の人に対して情報やメッセージを発信できるのもメリットだ。

一方で、仕事で密接なかかわりのある人にだけダイレクトメッセージを送って個別に会話してしまうと、リモートのメリットを活かしきれない場合もある。

「自分が発言していなくても、他の人が活発に情報共有しているのを見ていればパフォーマンスが上がることがわかっています。オープンで検索しやすいチャンネルを設計し、関係が薄いメンバーも含めて情報を共有するような行動様式をつくることが重要です」(村瀬氏)

感情面:信頼関係と心理的安全性 

村瀬氏は、感情面でも意識すべきことがあると指摘する。それは信頼関係と心理的安全性だ。信頼については、業績などから仕事ができる、任せられると思える認知的信頼と、助けを求めたり悩みを相談したりできるという感情的信頼の2つがあり、ここで重要なのは感情的信頼となる。困ったときに助け合える状態にあるとパフォーマンスが向上すると言われているが、リモート環境下ではこの信頼関係を築くのが難しいのだ。

一方、リモートや仮想空間での会議では情報共有や議論が難しいため、“こういう発言は馬鹿にされないか”と感じて周囲を頼れなくなることがある。メンバーの多くがそう感じていると本音が抑制され、自由な議論はできなくなってしまう。

これは心理的安全性を損なった状態だ。逆に心理的安全性が高ければ周囲を信頼でき、失敗やエラーも含め重要な情報を共有できる。そのためには、対面コミュニケーションの活用が有効だと同氏は話す。例えば業務に関連するメンバーは同じ日に出社する、重要な議論が必要な場合は全員出社して対面で会議するなど、同じ空間を活用すれば人間関係を醸成しやすくなる。

「発言しやすいように少人数制にする、会議室以外の心地の良い場所で本音を探るなど、さまざまな対面コミュニケーションによって議論を促進し、信頼や心理的安全性、そして一体感をつくりあげていくことが重要です」(村瀬氏)

認知面:トランザクティブ・メモリー 

もう1つ、認知の領域でも意識すべきことがある。それは「トランザクティブ・メモリー」、つまり“誰が何を知っているか”を把握しておくということだ。共同で作業するときには、その作業に関する重要な情報をお互いに持っていることを知っているが、相手がそれ以外にどんなことを知っているのかまでは、意外に知らないことも多い。

  • トランザクティブ・メモリーの図解

    トランザクティブ・メモリーの図解

トランザクティブ・メモリーがうまくできている職場では、それぞれの知識をお互いが信頼し合い、頼りながら作業ができるため、効率の良い組織戦ができるようになる。逆にこれがうまくいっていないと、すぐ近くに専門家がいるのに外部に相談し、時間や予算を無駄に使ってしまうことになりかねない。

その解決法として村瀬氏が薦めるのは、ゲームにしてしまうことだ。例えば他者が知らないであろう自分の業務内容や仕事には関係ない興味関心事、プライベートの趣味などを話し合い、最終的にそれが誰であるかをクイズにしてゲーム感覚で楽しむのだ。お互いを知ろうといってもなかなか話しづらいのだが、こういった試みであればリモートでもハイブリッドでもトランザクティブ・メモリーシステムを構築することができる。

「対面と在宅の良いとこ取りをするために、行動様式を明らかにしてルールを明文化し、対面の工夫によって信頼、心理的安全性、そしてトランザクティブ・メモリーシステムを構築してください。対面でもハイブリッドでも働きやすい環境を、リーダーとメンバー全員で協力してつくっていきましょう」(村瀬氏)