ファインディ(Findy)は11月20日・21日の2日間、アーキテクチャの構想・判断・構築に関する実践的な知見を共有し、多角的な視点から設計判断への理解を深めることを目的とした「アーキテクチャConference 2025」を都内で開催した。
同イベントでは、急成長している米FigmaのCPO(Chief Product Officer)であるYuhki Yamashita氏に、市場創出の初期から現在までの意思決定と仕組みを聞くという興味深いセッション「アイデアを爆速でプロダクトに落とし込むには」が行われた。本稿では、同セッションのポイントを紹介する。
米Figmaは、ブラウザ上で動くUI/UXデザイン・プロトタイピングツールを提供しており、2025年3月時点で月間アクティブ ユーザー数は1300万人に達し、Fortune 500企業の約95%がワークフローにFigmaを活用しているという。Figmaの収益は2024年に7億4900万ドルに達し、2023年から48%増加している。
このような成長を遂げられた要因は何なのか、ファインディ CTOの佐藤将高氏とプロダクトマネジメント室 室長の稲葉将一氏が、Yamashita氏に尋ねた。なお、Yamashita氏は米国からオンラインで参加した。
Figmaの成長をけん引している要因、製品開発の工夫とは
――Figmaの成長要因をどのように考えていますか?
Yamashita氏:私はFigmaで6年半ほど働いていますが、入社した当時、多くの人はまだFigmaを使っていませんでした。人々はたくさんのツールを使っており、またツール間で標準化がされていなかったと思います。私たちの成長の要因として、コミュニティがあります。コミュニティの人たちは、デザインを変える意欲に満ちていました。
2番目の理由は駆動力で、われわれは変化の中心にいました。パンデミックのため、みんながコラボレーションツールに投資しました。急に自宅勤務が始まり、それでも互いに協力しなければなりませんでした。
企業はパンデミックにおいて有効なツールを探しており、そうした中、Figmaは良い位置につけたと思います。私たちは、最初からコラボレーションというものを製品で意識していたからです。
また、ブラウザも非常に重要であったと思います。ブラウザに入った時、みなさんはリンクをシェアしなければなりません。それによって、会社の中で広げることができました。また、Slackなどでも広がることが加速されたわけです。
――CPOとして、顧客の気づきやインサイトをどのように製品に落とし込もうとしていますか?
Yamashita氏:製品において大切なことは、ユーザーを理解しなければいけないということです。そのやり方の一つは、製品を深く理解することです。私がFigmaに来た時、Figmaのデモをやってほしい、そして毎日使ってほしいと言いました。
毎日使うことによってFigmaを学習し、この製品のどこがうまくいって、どこがうまくいかないのかを理解できます。お客さまに話をしながら、分かってくることもあります。
2番目は、お客さまに話をしたときに「Why?」を何回も繰り返さなければなりません。どういった課題があるのか、なぜ、その機能が必要なのか、なぜそういう要求をするのか、とにかく「Why?」を繰り返すわけです。
それによって、お客さまを深く理解できます。「Why?」と聞くことで、問題をよく理解できるため、機能も良くなるわけです。そして、問題を解決することによって自信もつくわけです。そのため、ユーザーを調査することが非常に重要になります。
――Figmaが急成長、急拡大するにあたり、アーキテクチャやテクノロジースタック(プログラミング言語、フレームワーク、データベース、サーバなど、技術要素の組み合わせ)をどのように選択していますか?
Yamashita氏:われわれの製品は、より複雑になってきたと思います。私たちが多くの機能を提供することで、より多くの人がプロセスの中にそれを組み込んでいます。そのため、スケールしていかないといけない。より大きなファイルを扱わないといけないし、多くの人がそれを扱わなきゃいけない。
そして、海外でも使えるようにしていかなければいけない。これは、どの会社も直面する問題だと思っています。そのため、われわれは常にパフォーマンスが重要だと考えています。
CEOのディランも、フレームレートが1秒あたり60コマから30コマになった時には、それをちゃんと見分けることができ、クレームを出します。パフォーマンスが重要だということが分かっているからです。
パフォーマンスは、エンジニアリングの問題だと考えがちですが、実はデザインの問題でもあります。
――パフォーマンスと製品の質はトレードオフの関係にあると思いますが、そのバランスをどうやって決めているのでしょうか?
Yamashita氏:われわれはさまざまな方法でクオリティについてテストしています。オフィスの中で常にテストをしています。毎回、パフォーマンスが落ちていないか、あるいはロードの時間やフレームレートが劣化していないかを確認しています。
最終的に閾値(期待値)を超えない限り、その変更は受け入れないと私は常に言っています。最初から閾値を設定しています。
もしみなさんが家の中に入って、家がぐちゃぐちゃだったら、そのままにしておくのがとても楽だと思います。しかし、きれいな状態に保つ、そしてみんながきれいさを保つように努力することがとても重要です。私たちのコードベースでも、それが行われています。
例えば、期待値としてこれが良いというレベルを設定しておくと、みんながそれに合わせようとします。しかし、そんなに簡単にはいきません。トレードオフは、もちろんあります。トレードオフがある場合には、テストをやってみることを心がけています。
そしてどんなインパクトが出るのかを確認し、クオリティを満たしていないのであれば、ロールアウトしないという選択を取っています。
生成AIの登場で人間の存在意義はどう変わるのか
――プロダクトチームでは、どのようにAIを使っていますか?
Yamashita氏:Figmaでは、自分たちのAI製品を使うように奨励しています。Figma Makeはプロトタイプを作れるAI搭載のデザインツールですが、プロダクトマネージャーやエンジニアがアイデアを持っている場合、アイデアを書くだけではなく、プロトタイプをつくると、それが完璧ではなくてもアイデアがよく分かるようになります。このプロトタイプを作るためにAIを使っています。
また、大きな会社では、十分にナレッジが共有されていないという問題があると思います。例えば、ある製品についてよく知っている人がいれば、通常、その人に質問しますが、私たちはGPTに質問するようにしています。
そのために、AIにいろいろなドキュメントを学習させて、製品の知りたい機能がどういったものかを聞けるようにしています。そうすることで、新入社員でも、専門家に質問することなく、GPTに聞けば情報が得られるようになります。
――生成AIの登場によってエンジニア、プロジェクトマネージャー、デザイナーの役割は変わると思いますか?
Yamashita氏:時間の経過とともに、それぞれの役割が一緒になっていくと思います。すでに、その傾向は現れています。例えば、デザイナーがコーディングする、エンジニアがデザインすることがあります。それはAIの登場によって、自然に起きています。
だからといって、スペシャリストがいらなくなるということではないと思います。重要なのは、たとえこういった役割の境界が分からなくなったとしても、いろいろな視点を持つことです。
デザイナーは、どうやってユーザーにとってより良く使ってもらうのかという視点を常に持っています。この軸を追求していくことによって、他の人を説得できます。すごくクリエイティブなソリューションになっていくこともあると思います。そして、こういったところを、私たちは常に追い求めることが重要です。
エンジニアは実現可能性というアングルから物事を見ています。そういった軸をちゃんと持ち続けることは、とても重要だと思っています。
――生成AIは、多くの仕事に組み込まれて来ていますが、その場合の人間の価値は何だと思いますか?
Yamashita氏:AIとは平均だと思います。AIに何か頼むと、何かを返してきます。「平均の答えはこうでしょう」といって返してくるわけです。ただ、平均をどんどん改良しなければなりません。AIも良くする必要があります。それは人間です。
製品開発のプロセスにおいては、人間にとって2つの重要なタッチポイントがあると思います。1つは意思決定です。調整して整合性を取り、どっちの方向に行くのかというのが決定するのは人間です。
それに向けて、たくさんのディスカッションがあると思います。どうしてそっちに行かないのか、どうしてこっちに行くのか。AIにはそれはできないと思います。人間がやらないといけない。AIはその助けになります。
AIはアイデアを構築する助けになりますが、結局のところ、人間が介入しなければいけないのは見直しです。これでいいのかどうかを確認します。どうしたらもっと良くなるのか、計画と見直し。これも人間の仕事として残ると思います。
熾烈な市場競争において、Figmaの個性をどう守るか
――AIパワーをつけた競合がどんどん台頭すると思いますが、その時、Figmaはどうやって革新的な特徴を守り続けますか?
Yamashita氏:結局のところ、お客さまの望むものをつくらなければなりません。それにフォーカスすることによって、いろいろなやり方を考えるわけです。
アイデアを製品にということす。今まで考えてきたことではない、より良いやり方があるかもしれません。だから、問題にフォーカスするわけです。非常に重要なのは、問題の解決法や工程表は変わることがあるということです。明日は新しいモデルが出てくるかもしれない。あるいは、私たちのモデルが拒否されるかもしれない。
だから、世界で起こっていることに、耳を澄ましていなければなりません。そして、心を開いてプロトタイプの作成や改良の道をいつも考えて、認識していなければなりません。
世界をより良く変えるのは、新しい筋肉です。人々の変化が早いので、企業は、いつも筋肉をつけておかなければなりません。
――Figmaの中にあるどのような文化、能力が、画期的な製品を作り出せていると思いますか?
Yamashita氏:誰が何を設計しているのか、いつもはっきりしているわけではありません。エンジニアがデザイナーにアイデアを持っていくこともあります。Figmaには、そういう非常にオープンな文化があります。
他の人のアイデアがより良いのであれば、それでいいわけです。Figmaには私のアイデア、あなたのアイデアではなく、私たちのアイデアという文化があると思います。製品もそうです。
何を言っても、その人のエゴを傷つける心配はしなくても良い。私のオーナーシップだとか、あるいは領土感というテリトリー感がないということでしょう。そういう文化があるからこそ、成功できたのだと思います。


