NTTとOptQCはこのほど、光量子コンピュータの実現に向けた連携協定を締結し、「NTT R&Dフォーラム2025」の中で記者説明会を開催した。両社は量子コンピュータの実用化に不可欠なスケーラビリティと信頼性を確保するため、光増幅技術や光多重化技術などを光量子コンピュータの開発に応用し、早期の実用化を目指す。
光量子コンピュータ開発の背景
近年の社会には、メリットが大きいにも関わらず従来のコンピュータでは計算処理能力が障壁となり解決が難しい社会課題が存在する。例として、新薬の開発や新材料の設計、金融の最適化や気候変動の予測などが挙げられる。これに対し、複雑な問題の解決に強みがあるとされる量子コンピュータの実現が期待されている。
しかし現実的には、量子コンピュータは非常に繊細で、わずかなノイズや揺らぎによって量子状態が乱れ、意図する結果が得られない場合もある。また、量子ビット数が多いほど複雑な問題の解決に寄与できるのだが、実用化に向けては100万量子ビット規模の生成と、誤り訂正技術を用いた数千の論理量子ビットの安定的な制御が必要となる。
現在は量子コンピュータの実現に向けて、超電導方式や中世原子方式、イオントラップ方式など、複数の方式が世界中で検討されている。しかし、これらの方式は極低温環境や真空を実現するための大規模な制御装置が必要だ。そのため、技術の実現とスケーラビリティにハードルが残される。
こうした中で、NTTが開発を進める「光量子コンピュータ」は、消費電力の低さに加え、常温・常圧でも動作可能であることから、新しいアプローチとして期待される。
NTTはこれまでに培った光通信技術を軸としたIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の下、量子光源としても活用可能な光増幅技術や光多重化技術、量子分野への応用が期待される誤り訂正技術の研究開発を進めてきた。
このうち、光増幅技術を活用した量子光源により、世界に先駆けて従来の1000倍以上の高速な量子の生成を実現している。
一方のOptQCは、東京大学における25年以上の光量子コンピュータの基礎研究を土台として設立されたスタートアップ企業。常温・常圧で動作する光量子コンピュータの実現や、光増幅器を用いた超広帯域量子測定、誤り訂正のための量子ビット生成など、光量子コンピュータの根幹となる技術を研究してきたメンバーを中心に立ち上がった。
両社の取り組みの概要
両社は今回の連携協定により、NTTが持つ光通信技術と、OptQCが有する光量子コンピュータ開発技術を融合し、スケーラブルで信頼性の高い実用的な光量子コンピュータの実現を目指す。
具体的には、2030年までに、量子コンピュータの実用性の指標となる100万量子ビット規模のスケーラビリティと、信頼性を担保する誤り耐性技術の確立を達成することを目標としている。
「NTT R&Dフォーラム2025」の基調講演でNTT代表取締役社長の島田明氏が話していたように、光技術を活用した量子コンピュータは常温・常圧で動作するためエネルギー効率に優れ、時間多重の特性により広い空間が不要だ。
また、光の周波数で動作するため高速で、量子コンピュータを汎用利用するために必要な量子ビット数の拡大を、他の方式と比較して10分の1~100分の1の消費電力で実現可能である。
島田氏は「2025年時点では数百~数千量子ビットがスタンダードであるが、NTTとOptQCの連携協定により、2027年に国内トップレベルの1万量子ビット、2030年には世界トップレベルの100万量子ビットの実現を目指す」と展望を示した。
1万量子ビットが実現できれば、従来のコンピュータで数日かかる大規模な通信・交通・エネルギー配信などを状況に応じて最適化する計算を数分で完了できるそうだ。同様に、100万量子ビットでは食糧問題の解決が期待される窒素固定の問題に対し、従来のコンピュータでは10兆×1兆年という途方もない時間を要する計算を、量子コンピュータはわずか4日で完了できる。
OptQC代表取締役CEOの高瀬寛氏は、「当社の強みは世界トップの研究人材。今回のNTTの連携では実機の研究開発はもちろん、社会実装やサプライチェーン構築までを視野に入れている」と語っていた。
光量子コンピュータの基本動作と技術概要
光量子コンピュータではまず、量子光源によって量子光を発生させる。このとき、光源の品質が高いほど良質かつ大量の量子光を生成できる。その後、複数の量子光により量子もつれ状態を織り込んだような量子もつれクラスタを生成。量子もつれをプログラミングし、測定器で読み込むことで結果を観測する。
NTTの執行役員で研究企画部門長の木下真吾氏は、かつての大型計算機で使われたパンチカードを用いるプログラミングに例えて、「あくまで私のイメージなので正確ではないが」と前置きしたうえで、以下のように説明した。
「光量子コンピュータで重要な技術は3つ。良質な量子光源を作り出すことは、パンチカードのもとになる良質なパルプを作り出す工程に似ている。量子もつれクラスタを大きくしていく工程は、パンチカードを大きくすると同時にパンチの密度を高めることに相当する。そして最後に、いかに高速かつ正確に読み取るのかが重要」
NTTがこれまでに培ってきた光通信技術は、良質な量子光の生成と高速な量子の観測につながっているという。具体的には、光パラメトリック増幅器に、中継増幅や波長変換の技術が応用されている。
その他にも、通信の分野で同社が蓄積してきた光の多重伝送や波長分割の技術も、光量子コンピュータの実現に寄与する可能性があるとのことだ。
他の量子技術と比較して、光量子コンピュータは時間多重に強みがある。他の方式は量子もつれ状態にある量子ビットを増やすために、装置の並列化が必要となる。対して光量子方式は時間的に連続な量子もつれ状態を作りだせるため、単一の装置で量子ビット数を増加できる。
「超電導方式などの空間多重は量子ビット数を増やせば増やすほどシステムが大きくなり、データセンターほどの広さでも場所が足りなくなる可能性がある。一方の光量子方式による時間多重は、ほとんど空間を広げることなく精度を高めることができる」(木下氏)
さらに将来的には、1つのファイバーの中に複数の光波長を混在させる波長多重を実現し、テラヘルツ級の周波数も期待できるとのことだ。













