スマートキャンプは11月13日、「SaaS業界レポート2025」の解説と、AI時代における新たなセキュリティリスクと課題に関する説明会を行った。

現状のSaaS市場と生成AIの影響

同レポートは、SaaS(Software as a Service)活用の促進やビジネスの発展を目的に国内外のSaaS業界の概況についてまとめており、今年で9年目を迎えた。SaaSの市場動向に加え、生成AIやAIエージェントの動向について説明された。

スマートキャンプ 取締役執行役員COO(執行役員責任者)の阿部慎平氏は「“SaaS is Dead(SaaSは死んだ)”と言われているが、国内におけるSaaS市場は2029年度に3兆4000億円が見込まれており、今後もAIを活用して企業は成長していく」と述べた。

  • スマートキャンプ 取締役執行役員COO(執行役員責任者)の阿部慎平氏

    スマートキャンプ 取締役執行役員COO(執行役員責任者)の阿部慎平氏

調査対象としたSaaSの中央値はARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)が128億円、成長率は27%となり、トップ企業ではARRが450億円を超えるものもあり、全体として高い成長率を実現しているという。

  • SaaS企業のARRとARR成長率

    SaaS企業のARRとARR成長率

1社あたりのSaaS利用数では67%が10個以下と回答し、21~30個が10.5%、31~50個が7.7%、51個以上が7.2%となっているが、阿部氏は「従業員規模が大きい企業はさまざまなSaaSを利用し、中小企業では集約されつつあり、統廃合が進んでいる」と話す。

  • 従業員規模別のSaaS利用数率

    従業員規模別のSaaS利用数

SaaSの種類は特定の部門・機能に特化した「ホリゾンタルSaaS」と、特定の業界に特化した「バーティカルSaaS」に大別され、2025年におけるカオスマップの掲載数は1800を超え、成熟市場では淘汰進む半面、製品群の拡張や新しいカテゴリの成長などから全体として増加傾向にある。

  • SaaSカオスマップ掲載数の推移

    SaaSカオスマップ掲載数の推移

2025年カオスマップの特徴と新設カテゴリ

2025年のカオスマップは生成AIカテゴリを新設し、バックオフィス関連カテゴリ、HR(Human Resource)関連カテゴリ、コラボレーション関連カテゴリをそれぞれ拡張した。

生成AIカテゴリにはマルチモーダルAIや画像・動画生成、文章生成、コード生成・開発、音楽生成などのSaaSを掲載。バックオフィス関連ではAI-OCR、HR関連ではAI面接、コラボレーション関連ではAI議事録作成のSaaSが掲載されている。

  • SaaSカオスマップに生成AIカテゴリが新設された

    SaaSカオスマップに生成AIカテゴリが新設された

阿部氏は2025年のSaaS業界について「生成AIの本格的な統合、国内の法改正対応、セキュリティリスクの増大の3つの変革に直面している。生成AIは単なる機能追加を超えて、SaaSプロダクトの根本構造を変革する新たな標準と認識され始めており、同時に法改正がSaaSの導入を必然化し、大規模インシデントがセキュリティ対策を最優先課題として位置付けている」と説く。

こうした状況をふまえ、同氏は2025年のトレンドとして「AIエージェント元年」と「マルチエージェントシステムの本格普及」の2つを挙げている。

  • 2025年のSaaS業界のトレンドは「AIエージェント元年」と「マルチエージェントシステムの本格普及

    2025年のSaaS業界のトレンドは「AIエージェント元年」と「マルチエージェントシステムの本格普及」

阿部氏はSalesforceやSAP、ServiceNowをはじめとしたグローバルの大手SaaSベンダーが生成AIを自社プロダクトに組み込む戦略を推進している点に触れつつ、国内のSaaSベンダーとして、マネーフォワードに加え、freee、ラクス、SmartHRなどがAI機能またはAIエージェント機能をリリースしている現状を示していた。

企業における生成AI活用の現状とROIの課題

続いて、マネーフォワードi 代表取締役社長の今井義人氏が企業における生成AI活用の現状、セキュリティリスクについて説明を行った。

まず、同氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)の調査結果として、企業におけるAIの導入が約40%に対して、個人利用では約90%とシャドーAIの広がりが顕著であると指摘。一方、マッキンゼーの調査では約60%の企業が評価・パイロット段階に着手しているが、本番運用の進展は限定的で収益にスケールする「真の成功」は6%とどまり、ROI(費用対効果)の明確化が進まず、特に収益寄与の定量化に難しさが残ることが浮き彫りとなっているという。

今井氏は「AIの投資はセールスやマーケティングに対しては50~70%、バックオフィスは10~20%の投資配分となっている。ただ、バックオフィスはBPO(Business Process Outsourcing)の削減や外部エージェンシー費用、リスク管理アウトソーシングなどコスト削減効果を出しやすいものの、原価部門は売り上げに直結しないため上層部への説明が課題となっている」と指摘。

  • マネーフォワードi 代表取締役社長の今井義人氏

    マネーフォワードi 代表取締役社長の今井義人氏

AIから価値を引き出している企業(全体の6%)の特徴としては、変革的な野心やワークフローの再設計、複数の目標設定、リーダーシップのコミットメント、高い投資を行うことが共通しているという。

生成AI時代のセキュリティリスクと対策ポイント

次に、今井氏はAIに関する“見えない”セキュリティリスクについて「データは毎日漏れているほか、当然のように攻撃者もAIを活用している」と警鐘を鳴らす。LayerXの調査ではデータの流出経路の第1位に生成AIがランクインしており、コピー&ペーストが盲点になっているとのことだ。

同氏は「77%のユーザーがAIにデータをペーストし、約8割が非管理アカウント(シャドーAI)を経由しており、流出する可能性は多分にある。従来のネットワーク監視ではアップロード(CSVやExcelなど)は検知可能だが、コピー&ペーストは端末内操作のため検知が困難。送信先はChatGPTやClaude、データ基盤、Slack、Teamsなど多岐にわたる」との見解を示す。

また、攻撃者がAIを活用することについては、効率化の度合いは防御側よりも攻撃側が優勢であると「State of AI Report 2025」の報告を紹介した。今井氏は「例えば、Claude Codeなどの開発支援でネットワーク侵入し、窃取した財務データの分析を行い、最適な身代金額算定したうえで、対象別フィッシング文面の自動生成などに活用している」とユースケースを挙げている。

SaaSによるセキュリティリスクが顕在化しているが、コストの重複も課題となっている。Google Workspace、Microsoft、Zoom、Slack、Dropboxなどは同じような機能を多く提供しており、コスト削減する余地があるという。

今井氏は生成AI活用において「経営陣の明確なコミットメント」「個人アカウント禁止の徹底」「AIツールの公式化」「バックオフィス領域への注力」の4つを注目すべきポイントとして提示している。

  • 企業におけるAI導入に向けた注目ポイント

    企業におけるAI導入に向けた注目ポイント

そして、同氏は最後に「組織のトップが率先して背中を見せて、自分で作れるものは作ってしまうことが大事。また、作ることのハードルが下がっているので業務課題を持っている人が作ることも重要であり、UXにこだわることもポイントだ。率先して取り組む逸材を見逃さず、最大限のサポートをしてほしい」と述べていた。