サイボウズは7月15日、ノーコードで業務アプリを構築できる「kintone」のユーザーイベント「kintone hive 2025 tokyo」をZepp DiverCity(東京都 江東区)で開催した。本稿では、kintoneを活用してペーパーレスを実現しただけでなく、ワークフローの大胆な変革にも挑戦した地域活性化センターの事例を紹介する。

毎年3~4割の職員が入れ替わる職場、デスクは紙が山積みに

1985年に地方自治体と経済界の有志が中心となって設立された地域活性化センターは、令和7年に40周年を迎える。これまで、総務省の関係団体として地域社会の活性化やまちづくりの支援、地方創生を担う人材育成に取り組んでおり、2025年4月1日時点の会員数は1926団体。

同センターの職員を構成する人材は地方公共団体からの出向職員が中心で、任期は原則として2年。2025年4月1日時点では、全79人の職員のうち67%の53人が出向している。この制度により、毎年3割~4割ほどの職員が入れ替わる特殊な環境だ。

  • 毎年3~4割の職員が入れ替わるという

    毎年3~4割の職員が入れ替わるという

同センターの働き方としては、その業務内容から全国への出張が多く、年間約800件ほどある。また、フリーアドレスやテレワークなどを導入している。しかし、kintone導入以前のワークフローは紙による起案と決裁が必要であり、出張やテレワークとの相性が非常に悪い課題を抱えていたという。

また、フリーアドレスなので、誰がどこにいるのかも分かりづらく、決裁に関するコミュニケーションが取りづらいため決裁に時間がかかっていた。

  • 働き方とワークフローの相性が悪かったという

    働き方とワークフローの相性が悪かったという

その結果、部長など決裁者のデスクには未確認の紙資料が山積みとなっていた。その他にも、職員がオフィスに不在の際は、回覧が必要な紙資料を個人ロッカーに入れて閲覧を促していた。非常に非効率な情報共有である様子がうかがえる。

  • 決裁者のデスク上の様子

    決裁者のデスク上の様子

  • 個人ロッカーも大変なことに

    個人ロッカーも大変なことに

紙の資料を用いた情報共有や決裁の件数が多いことに加えて、毎年多くの職員が入れ替わるため、過去の業務情報の検索性の低さも課題となっていたそうだ。膨大なファイルの中から紙の書類を探す作業が常に発生し、しかも共有フォルダの中のデータはどれが決裁済みのものかが分かりにくいという状態だった。

  • 紙資料の保管ロッカー

    紙資料の保管ロッカー

こうした課題感があふれる中、地域活性化センターの総務課でひとり情シスを担当していた西田周平氏を中心に、kintoneを活用したペーパーレス化プロジェクトが立ち上がる。

西田氏は同時について、「職員だけで開発を進めるのは難しかったので、ダンクソフトに伴走支援をしてもらいながらプロジェクトを進めることにした」と、振り返った。

  • 地域活性化センター 総務課 副参事 西田周平氏

    地域活性化センター 総務課 副参事 西田周平氏

kintoneで紙を置き換えるだけでなく業務フローそのものを変革

西田氏を中心としたプロジェクトは、2022年11月に開発を開始。2023年2月に勤怠管理系アプリをリリースすると、4月にはワークフロー系アプリをリリースした。5カ月間という短期間でのアプリリリースを可能にしたのが、アジャイル型の開発手法だ。現場の意見を反映しながら開発できるため、アジャイル開発はkintone向きだといえる。

西田氏らがアプリを開発する際に意識したのは、「ユーザーファーストの徹底」と、「ペーパーレス化×既存ルールの見直し」だ。

ユーザーファーストの徹底では、毎年一定数の職員が入れ替わることから、初めてkintoneアプリを操作する人にも使いやすいインタフェースを心掛けたという。例えば、稟議の起案を実施するアプリでは、承認フローをマスタ管理し、必要事項をルックアップ選択するだけで起案書を作成できるようにしている。

「申請者は起案の種類と最終決裁者、自分の所属さえ分かれば、適切なフローを作成できる」(西田氏)ほど、簡易な承認フローを構築したという。

  • 必要事項を選択するだけで承認申請できるようにした

    必要事項を選択するだけで承認申請できるようにした

また、旅費・出張費を伴う決裁が必要な「旅行命令簿アプリ」では、宿泊数を入力するだけで、申請者の役職と宿泊地に応じた宿泊費が自動算出される。入力の不備やミスがある場合にはエラーメッセージを表示し、稟議の申請前に修正を促す仕組みだ。

至急の承認が必要な案件については、レコードに「至急フラグ」を立てられる。至急フラグのあるレコードは決裁者のレコード一覧の上位に優先的に表示される。

  • 「至急フラグ」で優先度を把握できるようになった

    「至急フラグ」で優先度を把握できるようになった

2つ目のポイントはペーパーレス化と既存ルールの見直しによる業務効率化だ。以前の同センターの決裁申請フローでは、関係する決裁者の押印を得る必要があった。この業務をkintoneに移行するだけでは、根本的な解決は見込めない。

  • 以前の申請資料の例

    以前の申請資料の例

そこで西田氏らは、ペーパーレス化に伴って承認フローをシンプルにするよう努めた。従来は最大で7階層の承認が必要だったフローを、最大5階層で済むよう変更している。これと合わせて、最終決裁権の一部を部長職から所属課長職へ委譲し、決裁完了までの時間短縮を図っている。以前は、「数千円の物品を買う際にも部長の決裁が必要だった」(西田氏)とのことだ。

このように、単に既存の業務フローをkintoneで再現するだけでなく、そのフローが本当に合理的なのかを検証することで、同センターはより根本的な業務効率化につなげている。

  • 承認フローそのものを見直した

    承認フローそのものを見直した

"ひとり情シス"を卒業し育休取得も可能に

こうした取り組みの結果、kintone導入以降は決裁者がオフィスにいなくても決裁が止まらない環境が作られた。アンケート調査の結果、86.7%の職員が「決裁までの時間が短縮された」と回答したとのことだ。

  • 8割以上の職員が決裁の時間短縮を実感している

    8割以上の職員が決裁の時間短縮を実感している

kintoneはレコードごとにスレッドを作成してコミュニケーションが取れるため、コメント欄を活用してコミュニケーションコストの削減にもつながっているという。

加えて、kintoneは過去のレコードの絞り込みや検索が可能なため、以前のように膨大なファイルの中から紙の資料を探す手間が削減された。決裁を受けたレコードはステータスが「決裁済み」と表示されるため、どのレコードが決裁を受けているものなのかが一目で分かるようになった。

西田氏は「kintoneの検索機能は添付ファイルの中も検索対象であり、目的の資料にたどり着きやすい」と紹介していた。

  • 過去の資料もすぐに見つけられるようになった

    過去の資料もすぐに見つけられるようになった

地域活性化センターではkintone導入後、紙の印刷量が41.5%削減された。これによって、以前は3台あった複合機が2台に減り、ランニングコストの削減にも寄与しているそうだ。紙が山積みだった決裁者のデスクも、綺麗に整理され見違えるようだ。

  • 現在の決裁者のデスク

    現在の決裁者のデスク

その他にも定性的な効果として、職員からkintoneを活用した業務改善の提案が増えたり、業務アプリを開発できる職員が増えたりと、内製のアプリ開発による業務効率化が加速しているという。

以前はひとり情シスとして活動していた西田氏。センター内でシステムの重要性が高まった結果、情シス担当が3人に増え、育休を取得できた。

「娘たちとかけがえのない時間を過ごせたことで、とても大きな成果を実感している」(西田氏)

さらに同氏は今後の展望として、「地域のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進のきっかけを作れる存在になりたい。地域活性化センターの挑戦は小さな組織の小さな課題を解決することから始まったが、kintoneを活用したペーパーレス化がゴールなわけではない。地域が元気になる未来のために当センターができるのは、現場の変革を後押しすることだと信じている」と述べ、講演を結んだ。

  • 育休も取得できるように

    育休も取得できるように