
連立解消で政界地図を塗り替える地殻変動も
いま、日本は課題山積だ。国内外で取り巻く環境が厳しさを増している中で求められるのは力強い日本の経済再生。そんな中での高市早苗政権の発足だ。
「日本社会が多極化している。所得の高い層は自助、中間層は共助、低所得層は公助といった形で人にやさしい社会を目指さなければならない」─。某経済人は注文をつける。
高市政権は日本維新の会との連立で発足したが、衆参両院で過半数に達しておらず、予算案も法案も他の野党の協力がなければ実現しない。とはいえ、「公明党の連立からの離脱、維新との連立は高市氏らしい政策を進める上では好都合となりうる」(関係者)との分析もある。
連立合意書には憲法9条改正案や緊急事態条項の条文化、スパイ防止法の制定、適正な外国人政策、旧姓の通称使用拡大の法制化と、高市氏が主張してきた内容が盛り込まれた。自公連立では合意できなかったはず。
だが、自公間の選挙協力が解消された影響は大きい。自民が小選挙区に擁立した候補を公明が支援し、見返りに比例代表で自民が支持者に公明への投票を呼び掛けてきた。しかし、昨年の衆院選の結果で自公協力の関係解消後を試算すると、自民が選挙区で得た132席は2~4割減ることになる。
公明離脱を評価する自民支持者もいるので一概に言えないが、各選挙区1万~2万とされる公明票を前提に選挙区で戦ってきた自民候補は戦々恐々だろう。事情は公明も同じ。自力での選挙区当選が覚束なく、選挙区撤退論も出始めた。漁夫の利で立憲民主党などの野党が伸長し、政界地図を塗り替える地殻変動が起きるかもしれない。
合意書の中で注目されたのが衆院議員の定数削減だ。12月17日までの短い臨時国会での関連法案成立を「目指す」とした。比例代表(176)を念頭に1割削減を目標と、50議席前後の削減となる。結党以来、「身を切る改革」を掲げる維新の要望を自民が受け入れた。国民の代表者を減らすことは民主主義の根幹にかかわるだけに、丁寧に説明する必要があるだろう。
高市氏は「決断と前進の内閣」と強調する。自民役員・閣僚人事は衆院当選5~6回の「入閣待機組」も多く起用し、旧派閥のバランスもとった。顔ぶれの中で異彩を放っているのが財務相の片山さつき氏だ。
自民党関係者は「高市政権のイーロン・マスクだ」と指摘する。片山氏は金融担当相を兼務し、新設の租税特別措置・補助金見直し担当相も務める。合意書に「租税特別措置及び高額補助金について総点検を行い、政策効果の低いものは廃止する。事務を行う主体として政府効率化局(仮称)を設置する」とある。トランプ米政権でマスク氏が担った「政府効率化省(DOGE)」とどこか重なる。
また、租税特別措置や補助金制度の見直しで浮いた支出で、ガソリン税に上乗せされている暫定税率の廃止による税収減を補いたい考えだ。中でも補助金見直しを巡っては、高市氏は大規模太陽光発電所(メガソーラー)に関して「ゆがんだ補助金制度による結果だ」と訴えてきた。米政府内から反発を受けたマスク氏のように強引な手法で進めては、再生可能エネルギーを推進してきた経済産業省などとの摩擦が生じかねない。
片山・城内両氏の財政再建策
高市氏は「責任ある積極財政」に基づく戦略的な財政出動を掲げた。これまで経済成長を促すための赤字国債の増発を容認する姿勢を示している。高市内閣では積極財政派とされる片山氏をはじめ、城内実氏を経済財政担当相に起用。当面は総合経済対策のとりまとめに注力する。
城内氏は「財政規律も念頭に置きながら、経済あっての財政という考え方を基に、高市新首相のカラーを色濃く出せる経済対策ができたらいい」と強調。ただ、維新は「身を切る改革」を掲げ、財政規律を重視しているとされる。政権内で足並みをそろえられるかが注目される。
高市氏が「強い経済」の次に掲げた「外交・安保」政策では、元幹事長の茂木敏充氏を4年ぶりとなる外相に起用。前経済再生担当相の赤澤亮正氏を経産相に横滑りさせた。トランプ氏を強く意識したシフトといえる。
茂木氏は経済再生担当相時代に第1次トランプ政権との日米貿易交渉で大枠合意にこぎ着け、赤澤氏は石破茂政権で対米関税交渉を担ってきた。今後、日本が実施する約5500億ドル(約83兆円)の対米投資の合意実施に向けた調整が始まる。
何より高市氏が元首相・安倍晋三氏のようにトランプ氏と信頼関係を築けるかが焦点。ただ、「トランプ氏からは、安倍氏の薫陶を受けている政治家として見られている点はプラス」(上智大学教授の前嶋和弘氏)だ。高市氏は「戦後最も厳しい」とされる安保環境に対応するため、防衛力の強化に向けて「国家安保戦略」などの安保3文書を前倒して改定する方針だ。2026年末までの改定を目指す。
防衛費の国内総生産(GDP)比2%への増額も25年度中に前倒しして実施する計画。ただ、財源確保は国民負担につながりかねず、国会での論戦が激しくなりそうだ。国民の理解を得るため、防衛相に起用された小泉進次郎氏の発信力が注目される。
さらに、自維間では有事の際に議員任期延長などを可能にする「緊急事態条項」を創設する憲法改正を目指すことで合意。26年度中に条文案を国会に提出する目標を掲げる。改憲議論を加速させられるかが課題だ。
もともと両党は「国のカタチ」という点では考えが近い。この軸をぶらすことなく高市氏の信念を貫けるかどうか。国のカジ取りが問われている。