AIモデル群「Claude」を開発するAnthropicは10月29日、アジア太平洋地域で初となる東京オフィスを開設したことを発表した。合わせて、AnthropicのCEOであるダリオ・アモデイ(Dario Amodei)氏が高市早苗総理大臣と会談し、AI評価手法について協力するため、AIセーフティ・インスティテュート(AISI:AI Safety Institute) との覚書に署名したことも発表された。
研究開発では安全性を最優先
同日に開かれた記者会見で、Anthropic Japan 代表執行役社長 東條英俊氏が国内における事業戦略を説明した。同氏の就任は今年8月に発表された。
東條氏はアジアで最初に日本に進出した理由について、次のように語った。
「日本ではすでに多くの企業がClaudeを使っており、技術的なサポート、ユースケースの発掘などが必要とされている。また、日本は安全安心を重視しており、当社がミッションとしている安全性のあるAIの研究と親和性が高い」
東條氏は、同社が考える言語モデルの安全性について、「言語モデルの研究において解釈可能性を重視している。言語モデルの中はブラックボックスであり、開発サイドでもわからないことがある。だからこそ、AIがどう考えているのか、なぜそういう回答を出したのかを解釈することが大事」と説明した。
加えて、収益の追求以上に、安心安全性を担保することを重視していることから、同社が公益法人として設立されていることが紹介された。
3つの観点から日本のニーズに応える - データの安全性を確保
また、日本に対しては、「ローカライゼーション」「日本のニーズを理解」「企業での活用拡大」という3つの観点から、投資を進める。
東條氏は、「流暢な日本語のクオリティを実現できており、日本の文化、商習慣も学習させている。日本の人が重視する敬語も表現できる」と、Claudeが日本語のローカライゼーションに優れていることをアピールした。
日本のニーズとしては、「データレジデンシ―」「コンプライアンス」「ガバナンス」の理解に注力するという。「データが海外で保存されるのではないかと不安視する日本企業も多い。Claude 4.5はAmazon Bedrockから使う場合、データは国内に閉じており、海外に出ることはない」と、東條氏は述べた。
企業での活用拡大に向けては、ユースケースの発掘に取り組む。「現在、LLMの適用領域はコスト削減や社内の生産性向上が多く、収益向上や社外向けの利用は少ない」と、東條氏は新たな用途の活用の提案に取り組むことに意欲を見せた。
日本におけるGo-to-Market戦略
日本におけるGo-to-Market戦略は「エンタープライズ営業チーム」「パートナーエコシステム」「デベロッパーコミュニティ」「中長期的なリサーチ」という4つの柱を軸に進められる。
企業に対するサービス提供を増やすため、企業向けの営業チームを拡大する。現在、日本オフィスには3名いるとのことだが、東條氏は、ソリューションアーキテクトやプロダクトエンジニアといった技術の専門家が営業とともにユースケースの発掘することを目指していると述べた。
パートナーエコシステムについては、AWSのリセラープログラムおよびその他のパートナーシップを通じて、日本市場での販売代理店との関係を正式に開始したことを発表。日本企業はシステムインテグレーターと信頼関係を築いており、Anthropicも同様の関係構築を進めているという。
加えて、コーディングエンジニアの生産性を上げるため、情報交換できるよう、デベロッパーコミュニティを立ち上げる。10月28日には早速、東京・白金台で開発者向けイベント「Builder Summit」を開催した。
そして、東條氏は「これからも日本語の精度を上げたい」と述べ、LLMの向上に向け、日本にもリサーチ機能を立ち上げる意向を示した。
AIの安全性とガバナンスの促進に向け、AISIと協力
今回、同社がMOCを締結したAISIは、安全・安心で信頼できるAIの実現に向けて、AIの安全性に関する評価手法や基準の検討・推進を行うための機関。広島AIプロセスでの議論やAIセーフティサミットを経て2024年2月に設立された。
AISIは内閣府の「統合イノベーション戦略2024」において、日本におけるAIの安全性の中心機関と定義されており、AI安全性の中心的機関としてIPAに設置されている。
アモデイ氏は、AIセーフティ・インスティテュートとのMOC締結について、次のようにコメントしている。
「日本のAISIとの協力は、AIの研究と評価に関する国際的な合意形成に向けた重要な一歩です。AIシステムがより強力になるにつれて、その能力とリスクを理解し測定するための共通の枠組みが必要になります。東京オフィスの開設を誇りに思うとともに、人間の可能性を拡張するAIというビジョンを共有する日本の企業、スタートアップ、文化機関と連携できることを大変嬉しく思います」
AISIとの覚書はAI評価手法に関する協力に焦点を当てている。両者は「AI評価の科学の進歩」と「AIの動向と発展のモニタリング」で協力する。
前者については、AIモデルの能力、限界、潜在的リスクを企業がどのように評価するかについて、情報交換とベストプラクティスを共有する。Anthropicは、国際的に採用可能な共通の事前基準の確立を支援することを目標に据えている。
競合であるOpenAIは今年10月に日本政府デジタル庁との戦略的協力に向けた取り組みを発表、両者は公共分野における生成AIの活用モデルを共同で検討し、行政を含めた社会全体における革新的なユースケースの創出を目指す。
今やAIはビジネスを生む源泉であり、国を挙げてAIを活用する段階に来ており、グローバルで熾烈な競争が繰り広げられている。今回、Anthropicが日本にオフィスを開設したことで、国内のAI市場で活動するプレイヤーが増えたことになる。これまで以上に国内のAI市場から目が離せない。


