【東大発ベンチャー第1号】モルフォ社長兼CEO&CTO・平賀督基「高度な画像処理技術が当社の一番の強みです!」

社名の由来は 「モルフォ蝶」

 ─ 2004年の創業ですが、東京大学発のベンチャー第1号だそうですね。

 平賀 ええ。私が創業した04年当時は国立大学が独立行政法人化されたタイミングで、東大は「東京大学エッジキャピタル(現東京大学エッジキャピタルパートナーズ)」というベンチャーキャピタル(VC)を立ち上げました。その際、起業後間もない段階にあるシード期で最初に当社が出資を受けました。

 ─ なぜこのモルフォという社名にしたのですか。

 平賀 「モルフォ蝶」という蝶々から取りました。このモルフォ蝶は米国から中南米にかけて生息している世界で一番美しい蝶と言われており、その色の付き方が独特なのです。通常、色素によって色が付いて見えるのですが、モルフォ蝶は色素ではなく「構造色」という仕組みで色が付いて見えるのです。

 青色に輝くモルフォ蝶が有名なのですが、モルフォ蝶の羽の表面の鱗粉には非常に微細な凹凸があり、そこに光が当たって反射するときに青の波長が強調されて色が付いて見えるのです。

 CDの記録面を斜めから見たりすると、虹色に見えたりする現象がありますね。それと同じ原理です。そういった独特な色の付き方をしている上に世界で一番美しく、ユニークな輝き方をしている。我々もそういった製品やサービスを世に出したいと考え、この社名にしました。

 ─ 画像処理の技術に特化してきた思いとは何ですか。

 平賀 私は大学院時代にカメラなどで撮影した画像や映像から世界をどう認識するかといったコンピュータービジョンと呼ばれる分野の研究をしていました。さらに遡って映像に興味を持ったのは1990年に大阪で開催された「国際花と緑の博覧会」です。そこで富士通が提供したCGを使ったサイエンス映像作品を見ました。その映像が非常に素晴らしかったのです。

 ─ なぜ富士通のパビリオンに行ったのですか。

 平賀 もともとコンピュータに興味がありました。私が小学5年生のときは任天堂のゲーム機が一世を風靡しており、私も親に頼みました。後日、親が買ってきてくれたのですが、それはゲーム機ではなく、マイコンと呼ばれるコンピュータでした(笑)。それで仕方なく、それを使って遊ぶようになりました。

 当時、『マイコンBASICマガジン』という読者が開発した自作ゲームのソースコードが載っている雑誌があり、その雑誌を買って投稿作品のソースコードを打ち込んだのが、コンピュータに触れた初めての経験になります。それがきっかけでコンピュータに興味を持ちました。

時代の変化で 赤字の時期も

 ─ 幼少期の経験が起業につながったと。その後、東大に進学することになりましたね。

 平賀 ええ。大学は理科1類に進学したのですが、やはりコンピュータのことをもっと研究したかったからです。その専門学科が理学部の情報科学科にしかなかったんです。実はそこで運命的な出会いをしました。

 それが私の恩師となる國井利泰先生(故人)です。先生は東大の情報科学科を設立された方で、1993年には会津大学の学長を務められました。同大学は日本で最初のコンピューターサイエンスの単科大学です。

 ─ しかも県立ですよね。

 平賀 はい。そういった縁もあって、國井先生には当社の技術顧問になってもらいました。

 ─ その頃から大学発ベンチャーが盛んになってきた?

 平賀 そうですね。東大でいえば、先ほどの東京大学エッジキャピタルができ、その後、「東京大学アントレプレナー道場」というベンチャー企業を創業する人材を育成する事業が始まりました。さらに「東京大学TLO」という東大の知的財産を活用していく会社も立ち上がりました。そのあたりから徐々にスタートアップが増えましたね。

 ─ その中でモルフォの強みはテクノロジーですか。

 平賀 そうですね。私自身が経営者であり、バックグラウンドがエンジニアでもあります。今でもCTO(最高技術責任者)を兼ねていますので、画像処理に関する技術は当社の一番の強みだと思っています。

 ─ 創業当初から事業は軌道に乗っていたのですか。

 平賀 最初の3~4年は赤字でした。その後、2011年にIPO(株式公開)をしたのですが、そのタイミングでは黒字でした。ただ、翌年の12年に再び赤字になっています。

 ─ 投資負担が増えた?

 平賀 いいえ、市場環境の変化が一番大きかったですね。当時、我々はガラケーと呼ばれる携帯電話に装備されているカメラの手ブレを補正するソフトウェアを作っていました。メインのお客様が日本の携帯電話メーカーさんだったのです。

 それが12年頃から「アイフォーン」やアンドロイドOSを搭載したスマートフォンが主流となり、米アップルや韓国のサムスンなどの海外のメーカーが日本国内でもシェアを広げていくようになりました。その結果、当社のお客様の携帯電話が売れなくなり、それに伴って我々の売上高も落ち込んだのです。

 ─ モルフォの技術的な問題ではなかったのですね。

 平賀 そうですね。携帯電話やスマホに組み込む高度な画像処理や画像認識に関しては、当社が世界に先駆けて実用化しました。最初の製品も静止画の手ブレを補正するソフトウェアでしたが、それが世に出たのは06年。当時は手ブレ補正ソフトウェアが小さな携帯電話の中で有効に機能するとは誰も思っていなかったので、大きな衝撃を持って迎えられましたね。

 ですから、日本の携帯電話メーカーさんからは高い評価をいただいて、NECさんやパナソニックさん、京セラさん、日立さん、シャープさん、富士通さんなど、ほとんどの日本のメーカーさんには採用いただきました。

自動車関連が 今後の成長分野

 ─ しかしながら、ガラケーからスマホに時代の流れが変わったと。どう対処しましたか。

 平賀 何とかしなければならないと必死でした。黙っていても仕方がありませんからね。そこで我々は日本の携帯電話メーカーさん相手に売って来たソフトウェアをアンドロイドOSでも動くようにして海外のメーカーさんにも売り込みました。それで復活することができました。

 ─ 現在、画像処理技術でライバル企業はいるのですか。

 平賀 もちろんいます。ただ、我々のコンペティターは海外で、日本国内にはほとんどいません。

 ─ 中国ですか。

 平賀 そうです。技術の歴史を見てみると、日本も他国のモノマネをしてキャッチアップしてきたという歴史があります。それと同じことを中国もやっていると言えるでしょう。しかしながら中国は侮れません。AIの技術で言うと、中国の方が遥かに進んでいるからです。我々もAI技術の開発をしていますので、中国の会社に負けないように頑張らなければなりません。

 ─ 世界の動きをにらみながらの開発・展開になりますね。

 平賀 そうですね。おそらく日本国内だけを見ていても生き残ることは難しいでしょう。市場もそこまで大きくないですし、これからシュリンクしていってしまう可能性も高いからです。特にこういった変化や進歩の激しい技術の分野は日本国内だけを見ていてもいけません。

 ─ 24年10月期の売上高は33億円で営業利益は2.5億円ですが、売上高の約6割が海外になっていますね。

 平賀 はい。ただ、そうは言っても国内も成長させていくことは間違いありません。先ほど申し上げたように、IPOの翌年に赤字になり、そこから海外の携帯電話メーカーさんを開拓して業績を回復させたわけですが、20年に再び赤字になりました。そのときの最大の理由が中国の華為(ファーウェイ)さんが米国の制裁を受けたからです。

 当社の技術はファーウェイさんに採用いただいていたので、同社がスマホを作れなくなった影響を受けて当社の売上高も下がってしまったのです。ただそのときに国内で立ち上がったのが、自動車関連ニーズです。

 車載カメラでは前を走る車が急ブレーキなどで接近することをカメラが認識する技術や道路標識を認識する技術を開発しています。こういった自動車関連のニーズが非常に大きくなっています。それこそ米国や中国に比べて自動運転の取り組みが遅れていると言われています。

 その後れを何とか取り戻して自動運転を実現させるためにも我々もお手伝いしていきたいと。特に自動運転には莫大な投資を求められます。そこに我々も関与していくことで日本での売上高も増えているところです。

カメラがあれば搭載される技術

 ─ 自動車メーカーが顧客になるわけですか。

 平賀 そういうケースもありますし、「ティア1」と呼ばれる部品メーカーさんも当てはまります。日本の自動車は日本の産業の根幹でもあります。ここで中国の電気自動車などが世界を席巻するようになってしまえば、日本の産業が立ち行かなくなってしまう。そこを我々が技術面で少しでもお役に立てることができたらと考えています。

 ─ その技術を支えている社員の人数はどのくらいですか。

 平賀 海外の子会社などを含めたグループ全体の社員数は約160人です。このうち約3分の2は技術者になります。

 ─ 海外の拠点は?

 平賀 中国の深圳と台湾の台北、韓国のソウルです。深圳の社員は50人近くおり、そのうちの約3分の2がエンジニアです。

 ─ まさに技術集団ということになります。さて、今後のビジョンを聞かせてください。

 平賀 我々はもともとBtoBの企業でした。当社のお客様はメーカーさんなので一般の方々にはほとんど知られていない。ただ、昨今のスマホでも写真が綺麗に撮れたり、自動車でも自動ブレーキを実装するために我々の技術が使われています。

 他にもパソコンのソフトウェアを開発したりもしています。そういったスマホや自動車などのビジネスをしっかりと成長させていくことで認知度が上がっていくと期待しています。

 また、最先端領域でもドローンやセキュリティなどでカメラの出番がどんどん増えていますからね。そういったカメラの中には、すべからく我々の技術が入っています。ですから、画像処理技術の会社としての当社を認知してもらえるようになりたいなと思っています。

 ─ いわゆる縁の下の力持ちの存在なわけですね。

 平賀 そうですね。例えば、パソコンでも「Intel Inside」というシールが貼られていますね。「モルフォインサイド」のようなシールが貼られていると非常に綺麗な写真が撮れるといったイメージを皆さんに持っていただきたいと。

 ただ、昨年にDOOGEEという中国のスマホメーカーの端末に当社のロゴマークを貼り付けていただきました。ですから、第一歩が踏み出せたかなと。店頭でその端末を見かけたときは嬉しくなりますよね。

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