
「サ高住」で業界トップ
「介護はグローバルに展開していくべき魅力ある分野。国内基盤を盤石にするためにも、信頼できるパートナーと組んで展開していきたい」─。このように意気込みを語るのは学研HD社長の宮原博昭氏。同社は日本生命と資本業務提携を結んだ。
学研HDと言えば学習参考書や児童書の出版をはじめ、「学研教室」に代表される塾や学習教室の運営といった教育分野のイメージが強いが、実は現在の同社の売上高1855億円(2024年9月期時点)のうちの約47%を医療福祉分野が占める。
医療福祉分野とは、高齢者住宅や認知症グループホームの運営といった高齢者向けサービスに加え、保育園や学童を運営する子育て支援も含まれる。営業利益では42億円と教育事業(41億円)を上回る。その高齢者向けサービスの主力が「サービス付き高齢者住宅(サ高住)」だ。
サ高住は高齢者が安心して暮らせるためのサービスやバリアフリーなどを基準とした賃貸住宅で06年に同社が先駆けて完成させた。現在は597拠点を超え、フジ住宅グループやSOMPOケアを上回っている。
そんな中での日本生命との資本業務提携にどんな意味があるのか。日本生命は学研HDの株式約90万株を約9.1億円で取得、出資比率は約2%だ。その結果、日本生命は学研HDにおいて第10位の大株主となる。
その日本生命は24年に介護事業大手のニチイHDを買収。同社は傘下に介護や保育サービスを手がけるニチイ学館や介護付き老人ホームを展開するニチイケアパレスを抱えており、拠点数も全国約1900に上る。学研HDの施設数と単純合算すれば2500拠点に迫る。しかし今回の提携は拠点数を増やすことだけが狙いではない。
「介護や保育は地域インフラ。持続可能な形をつくらなければ、いずれ生活そのものが成り立たなくなる」─。学研HD取締役常務執行役員の小早川仁氏はこのように危惧する。超高齢社会を迎え、介護の重要性は増している。しなしながらその一方で社員10人未満の零細事業者の廃業が深刻化しているのだ。
実際、24年度の介護事業者の倒産は179件と前年度比で4割近く増えており、過去最多を記録。介護事業者は20万社(法人)と言われるが、約8割は零細事業者だ。中には中山間地域や離島など大手事業者が進出しておらず、担い手が零細事業者に限られている地域もある。
しかし折からの物価高の影響を受け、「メーカーはもちろん、流通の領域も含めて介護業界はコストプッシュの状況で、介護収支差率(介護事業所の売上高に対する利益率)はマイナス0.4%だ」(同社取締役上席執行役員の山本教雄氏)。つまり、オムツやお尻拭き、ゴミ袋、紙、ペンなど決して大きな金額ではない物品や備品などの値上げが蓄積されて介護事業者の経営が圧迫されているのだ。
共同調達のプラットフォ―ム
そこで両社は介護施設が必要とする備品、消耗品、福祉用具、修繕・保守サービスなどを一括で共同調達するプラットフォームを立ち上げる。介護事業者の経営を支えることが大きな狙いで、全国展開を視野に入れて25年内の稼働を目指す考えだ。加えて、価格調査に基づいたコンサルティング支援も提供する。
物流業界でも大手物流会社が中心となってプラットフォームを構築し、そこに全国各地の中小零細の運送会社が参画してバイイングパワー(購買力)を高め、トラック車両や燃料、事務用品などを安く調達する動きがあるが、その介護版と言える。
こういった取り組みができるのは、学研HDが18年に買収した介護大手のメディカル・ケア・サービスの子会社に福祉用具・介護備品の調達支援やメンテナンス支援などを行っているプロパティ・ケア・パートナーズという会社があったからだ。
山本氏は「ニチイ学館と行ったシミュレーションでは、物品購入コストで5%以上の削減効果が確認されている」と話す。学研HDは日本生命が持つ全国のネットワークを活用していく考えだ。1500万人以上の顧客をはじめ、295の市区町村との包括協定、さらには地銀や信金との連携も見据える。
また、学研HDもニチイ学館も介護施設のみならず、保育施設も展開している。その保育業界も「民間企業のような〝経営〟という視点が欠けており、働く保育士の年収も約407万円と小学校の教諭との年収格差は約320万円もある」(民間保育園の経営者)など自立した経営とは程遠い。今回のプラットフォームは保育施設も対象になる。
そもそも学研HDのサ高住は宮原氏が支社勤務の事業部員だったときの気づきから始まった。「新小学1年生の年長児の家を訪問して回ると、両親は不在で祖父母がいる家庭がほとんど。その祖父母が自分たちの年金だけで生活できる住宅を求めていた」のだ。そこで宮原氏が新規事業として高齢者専用賃貸住宅を提案したという経緯。
今のシニア世代は学研HDの学習誌『学習』と『科学』に慣れ親しんだ世代だ。そのため、サ高住という新しい領域でも学研ブランドが生きている。
日本の社会保障給付費は約140兆円。そのうち子育てや介護といった「福祉その他」は約34兆円だ。財政健全化のためにも事業者の経営改善は避けて通れない。日本生命との連携で自社のブランドを活かしつつ、海外進出も視野に入れる学研HD。介護や保育業界を魅力的かつ継続可能なものにすることが求められる。
日本ストライカー社長・水澤 聡「医療機器業界のリーディングカンパニーとして、 日本の医療現場にイノベーションを届けたい!」