Plug and Play Japanは10月21日と22日の2日間、世界のイノベーション最前線に触れるイベント「Japan Summit 2025」を東京・有楽町の「Tokyo Innovation Base」で開催した。

このイベントは、Plug and Playの60以上の海外拠点と20以上の業界専門チームが結集するグローバルネットワークに触れることで、イノベーション活動を加速させる「学び」「出会い」「体験」を提供するもの。

  • 「Japan Summit 2025」の様子

    「Japan Summit 2025」の様子

日本のユニコーン企業を10倍にする

2日目の22日のオープニングには、東京都知事の小池百合子氏が登壇した。

イベント会場の「Tokyo Innovation Base」(TIB)は、東京都がスタートアップ戦略「Global Innovation with STARTUPS」に基づき、国内外からスタートアップや関係するプレイヤーを集め、重点的に支援を行う拠点として2023年11月27日にオープンした。

同月東京都は、世界のさまざまな拠点とTIBのつながりにより、大きなイノベーションを生み出していくため、米Plug and Playと「グローバル・スタートアップ・エコシステム形成に関する連携協定」を締結。

両者は、起業家に対するグローバルな支援プログラムの展開や、国内外のスタートアップが交流するイベントの開催などにより、東京からグローバルなスタートアップ・エコシステムを形成していく計画だ。

小池氏は、「東京都はTIBを2年くらい前に設け、スタートアップの聖地にしようとしています。この2年間で約29万人の方にお越しいただいて、いろいろなプレゼンテーションを行い、インベスター(投資家)やアクセラレーター(支援者)と出会い、スタートアップ同士でひらめき合い、インスパイアし合う場所になっています。これからも、TIBをベースに新しい産業、これまで考えもしなかったような新しいサービスが生まれてくることを楽しみしています」と挨拶した。

  • 東京都知事 小池百合子氏

    東京都知事 小池百合子氏

続いて登壇したPlug and Playの共同創設者であるJojo Flores(ジョジョ・フローレス)氏は、日本のユニコーン企業を10倍に増やすと決意として、次のように語った。

「Plug and Playは2017年に日本でビジネスを開始しました。われわれにとって、日本は北米に次ぐスタートアップ市場で、大きなビジネス拠点となっています。ただ、私がさまざまな数字を見て驚いたのは、日本にはユニコーン企業が11社しかないことです。ユニコーン企業は世界中で1500社以上あるので、日本はその1%以下となります。今後10年間かけて、日本のユニコーンの割合を10倍に上げていく必要があります。日本にはそれを達成する力があり、トップを取る方法も知っています。グローバルリーダーになる方法をよく分かっている国です。日本のテクノロジーやイノベーション、スタートアップのジャーニーを考えると、やはりユニコーンをもっと生み出さなければいけないと思います。それが私のチャレンジであり、ジャーニーです」

  • Plug and Playの共同創設者であるJojo Flores(ジョジョ・フローレス)氏

    Plug and Playの共同創設者であるJojo Flores(ジョジョ・フローレス)氏

データ収集のカギは「スケールフリーネットワーク」

同日、「AIと量子によるビジネスの未来」と題して、東芝 代表取締役 社長執行役員 CEO 島田太郎氏が講演した。

  • 東芝 代表取締役 社長執行役員 CEO 島田太郎氏

    東芝 代表取締役 社長執行役員 CEO 島田太郎氏

島田氏は冒頭、日本でAIを活用していこうと考えたとき、自分たちの持っているデータを活用できる状態にすることが最大のカギになると指摘した。

「東芝ではDE/DX/QXというデジタル戦略を持っています。『データをソフトウェアで動かしたらDX』かというと、そうではありません。それは単なるオフィスオートメーションです。DEとはDigital Evolutionの略です。デジタル化を始めて、ソフトウェアでいろいろなものを扱えるようにすることと、本当にプラットフォーム化したDXを分けて考えていく。その先には量子技術によるQX(Quantum Transformation)あると考えています」(島田氏)

島田氏によれば、プラットフォーム化するためのデータを集める上で、重要なやり方が「スケールフリーネットワーク」を使うことだという。

スケールフリーネットワークは、ものすごくたくさんのコネクションを持ったほんのわずかな人と、ほとんどコネクションを持っていない大多数で構成されているネットワークだという。

「この仕組みを利用したプラットフォームがSNSで、ある程度の情報を入れると、情報が爆発的に広がっていく。これは人間の行動がスケールフリーになっている証拠です。SNSでは、頼みもしないのに、みんなが勝手にネットワークをつくっていく。そのことによって、ちょっと情報を出すだけで、あっという間に多くの人に伝わって、伝播していく。それによるネットワーク効果で、さまざまなビジネスが構成されています」(島田氏)

  • スケールフリーネットワークの例はSNS(出典:東芝)

    スケールフリーネットワークの例はSNS(出典:東芝)

島田氏は、コンテンツを登録したくなる仕組みを作ることが、スケールフリーネットワークにおいては重要だと語った。

デジタル化の第一歩「Digital Evolution」とは

今までのスケールフリーネットワークは、ほとんどスマートフォンやパソコンの世界でしか起こっていなかったが、今後はハードウェアの世界もスケールフリーネットワーク化すべきだと島田氏は指摘した。ただ、それがうまくいっていないという。その理由は、ハードウェアにソフトウェアをインストールして製品として提供しているためだ。

ハードウェアとソフトウェアを分離することが、スケールフリーネットワークには必要で、それによって、製品を提供した後に、さまざまなアプリを追加することができ、サービス化することができるという。

  • ハードウェアとソフトウェアを分離することが、スケールフリーネットワークには必要(出典:東芝)

    ハードウェアとソフトウェアを分離することが、スケールフリーネットワークには必要(出典:東芝)

これが東芝が定義しているデジタル化の第一歩であるDigital Evolutionで、同社ではそれは自分の製品のデジタルサービス化できるような形に製品を再定義するという活動を続けているという。

また島田氏は、ソフトウェアを標準化された形でいろんな人が接続できるようにオープン化していていくことも重要だとした。

「オープン化が実現されると、他の会社のハードウェアに接続することが可能になります。これができたとき、初めてプラットフォームというものが成立します」(島田氏)

現在存在しない量子マーケットを創造する

続いて島田氏は、量子コンピュータに話題を移した。

かつては、量子コンピュータが実用化されるのは2050年ごろといわれていたが、島田氏は、2030年ごろには実用化されるのではないかとの見方を示した。そして同氏は、量子コンピュータにおいては、静的な問題解決と動的な問題解決があると指摘した。

「静的な問題とは、一度、問題が解かれてしまったら答えが変わらないものです。例えば、新しい材料とか新しい薬などです。もし、誰かが量子コンピュータを手に入れ、考えられる薬を全部先に考えてしまったら、もう何も残らない。その人だけが総取りになってしまいます。一方の動的な問題会解決は、その瞬間、瞬間で常に変わるものです。例えば、金融の世界や交通の問題です。こういう問題は、常に多様なデータで最適なポイントがナノセカンド(という短い時間で)で変わっていくのです。巨大な空間をあっという間に最適化できる。問題によっては、先に答えを見つけたら絶対に勝てる可能性があるわけです」(島田氏)

  • 2030年ごろからの量子がもたらす未来(出典:東芝),A2030年頃からの量子がもたらす未来(出典:東芝)

    2030年ごろからの量子がもたらす未来(出典:東芝),A2030年頃からの量子がもたらす未来(出典:東芝)

島田氏によると、量子技術がもたらす経済効果は、2035年までに300兆円の規模に成長するという。これを踏まえ、同氏は産業化を目標とした「量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)」を作り、代表理事を務めている。

Q-STARには、30社以上の会員企業がおり、6割以上がユーザー企業だという。この協議会の目的は、量子マーケット創造に向け、ユースケースを作ることだという。

  • Q-STAR(出典:東芝)

    Q-STAR(出典:東芝)

「量子技術で何ができるのか、誰もが今ひとつわからない。だから、われわれはユーザー企業と『こんなことができたらすごい』ということに挑戦する。常に、多数のユースケースの候補を用意しています。これは世界的に見ても、日本が先頭を走っています。それをテストベッドで実際に使えるように、産総研(産業技術総合研究所)にG-QuAT(量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター)を作り、世界中の量子コンピュータを集めてそれをテストします」(島田氏)

そして島田氏は、量子コンピュータの標準化およびグローバルサプライチェーンの主導権確立に向けて一番大事なことは、ソフトウェアアーキテクチャだと強調した。

「ソフトウェアアーキテクチャを日本で整備して、提案しようとしています。結局、ソフトウェアのレイヤーはデジタル時代と同じです。量子コンピュータとはいえ、いつかはコモディティ化します。しかし、そのサービスレイヤーを握ったものが、次の時代の重要な役割の果たすことになるわけです」(島田氏)

  • Q-STARが掲げる3本の柱(出典:東芝)

    Q-STARが掲げる3本の柱(出典:東芝)

そして、同氏は最後に「量子コンピュータは難しそうだと思われるかもしれませんが、難しいのはコアの部分です。大部分はエンジニアリングです。ソフトウェアであり、アプリです。今のAIはかなりレッドオーシャンに来ていますが、(量子コンピュータの)ソフトウェアレイヤーで先行できれば、新たな道を選べると思っています」と述べ、講演を終えた。