
国の舵取りをどう進めるか─。前経済安全保障担当相の高市早苗が第29代自民党総裁に選出された。高市は前総務会長の鈴木俊一を幹事長に起用するなど新執行部を発足させ、「今の暮らしや未来への不安を希望と夢に変えていく」と強調した。だが、公明党が連立を離脱。「少数与党」「多党化」が加速する中で、いかに物価高対策や外交力強化を図るのか。高市の手腕が問われている。
四半世紀の関係に終止符
「私は今回、自民党の景色を少し変えることができるんじゃないか」─。10月4日午後の自民党本部。新総裁に選出された高市は記者会見で、そう語った。高市は「小泉進次郎・農林水産相が有利」との下馬評を覆しての総裁選勝利だった。
そして、高市は7日、副総裁・麻生太郎▽幹事長・鈴木俊一▽総務会長・有村治子▽政調会長・小林鷹之▽国対委員長・梶山弘志─らによる新執行部体制をスタートさせた。
だが、公明党代表の斉藤鉄夫は10日、高市と会談し、連立政権を離脱することを伝えた。1999年に連立を組んでから、野党時代を含めて26年を経た自公両党の協力関係は終わることになった。
これに先立ち、斉藤は4日に高市と会談した際、「政治とカネの問題」「歴史認識と靖国神社参拝」「外国人との共生」の3点について懸念を払拭するよう要求していた。連立拡大についても、日本維新の会が掲げる「副首都構想」についても大きな疑問があると伝えた。
いきなり公明党が注文をつけることは異例だが、その後の協議で、靖国神社参拝と外国人政策では一定の歩み寄りがみられた。しかし、政治とカネの問題については、なかなか折り合えなかった。
10日の会談では、斉藤が企業・団体献金を受け取れる「受け皿」を政党の本部と都道府県単位の組織に限定するなどした規制強化を示し、賛否を求めた。これに対し、高市は「この場で総裁と幹事長だけで判断することはできない」と語り、党内で速やかに協議する方針を伝えた。
このため、斉藤は自公連立について「いったん白紙にして、これまでの関係に区切りをつけたい」と、連立離脱を表明。臨時国会で首相・石破茂の後任を選ぶ首相指名選挙の対応についても、高市に投票せず、「斉藤鉄夫」と書く方針も伝えた。
高市は「私が総裁だから離脱するのか」と尋ねたものの、返ってきた答えは「誰が総裁でも同じだ。自民党は『検討する』というばかりだ」ということだった。
高市は会談後、党本部で「一方的に連立政権からの離脱を伝えられた。我が党としては一つひとつ真摯に対応をしてきた」と指摘。その上で「これまで26年にわたって、野党の時代も含めて協力をし合ってきた関係なので大変残念だ」と語った。
警戒に火に油注ぐ
自民党内では公明党の主張を「額面通り」に受け取る向きは少ない。公明党が「政治とカネ」の問題を巡って毅然とした態度を示したというよりも、そもそも「離脱ありき」の会談だったとの見方がもっぱらだ。
もちろん、公明党には自民党派閥パーティー収入の裏金事件で昨年10月の衆院選と今年7月の参院選で「逆風」にさらされ、大きく議席を失ったことへの不満が鬱積していたのは事実だ。高市が総裁に就任して早々、裏金事件に関与したとして政策秘書(当時)が略式起訴された元政調会長の萩生田光一を幹事長代行に起用したことも影響した。
だが、「政治とカネ」の問題は今回が初めてのことではない。決別するならば、もっと早くても良かったはずだ。今回、元首相・安倍晋三路線の継承を掲げる高市と距離が広がっていることが引き金になったと見る向きが多い。
自民党には高市が安倍路線の継承者として、失った保守支持層を引き戻せるとの期待がある。先の総裁選で地方の党員・党友票で圧勝したことは「保守回帰」へのうねりだったといえる。
これまで自民党は安倍以降、菅義偉、岸田文雄、石破茂らに総裁が交代する度に保守色は薄まり、特に石破は立憲民主党との大連立構想の動きが取沙汰されるなど、リベラル色が強まっていたことも、うねりにつながった。そうしたタイミングで高市が新総裁に就任したことは、党内の「疑似政権交代」にほかならない。
高市は自称「穏健保守」というが、憲法改正や男系皇統の維持、防衛力強化を唱えるなど「保守強硬派」とされる。このため「平和の党」「大衆福祉の党」を掲げる公明党サイドには警戒感が広がった。
高市が公明党と距離を置く麻生や有村のほか、選挙対策委員長に元国家公安委員長・古屋圭司らを起用したことも拍車をかけたようだ。かつて麻生と幹事長時代の茂木敏充らは自公両党と国民民主党の「自公国」連立を模索したことがあり、高市が公明党との連立協議中の5日に国民民主党代表の玉木雄一郎と会談したことも火に油を注いだ。
衆参両院とも過半数を割り込んでいる「少数与党」の自民党にとって、公明党の連立離脱でさらに厳しい情勢となった。自民党は連携相手を模索するが、立憲民主党は日本維新の会や国民民主党との共闘をもくろみ、一気に政情不安が加速した。
まずは物価高対策
そうした中で、多くの国民が不満を抱く物価高対策の実現が急務となる。
「もう時間がございません。総裁選の間、各党の皆様にもお待ちいただいた。できるだけ速やかに多くの国民の皆様が直面している課題に取り組んでいかなければならない。何としても物価高対策に力を注ぎたい」
高市は総裁として初めてとなる4日の記者会見で、真っ先に取り組む課題として物価高対策を挙げた。高市は総裁選で、自治体向けの重点支援交付金の拡充▽病院・介護施設への支援実施▽ガソリン・軽油の暫定税率廃止─などを訴えてきた。
ガソリン税に1リットルあたり約25円が上乗せされる暫定税率の廃止は、与野党で12月に廃止する方向で検討してきた。高市はガソリンに加えて、軽油引取税の暫定税率も引き下げることを主張している。
自民党は今夏の参院選の公約で、国民1人当たり2万円の給付金を配ることを掲げたものの、「選挙目当てのバラマキだ」としてなかなか受け入れられなかったことから、まずは、秋の臨時国会に暫定税率を廃止する法案を提出し、年内にはガソリン価格の引き下げを実現したい考えだ。
また、自治体向けの交付金拡充は各自治体が独自の物価高対策などに使える制度。高市は即効性のある物価高対策として掲げてきた。交付金の使途は自治体が決めるとはいえ、国が地方の中小・小規模事業者への賃上げ補助金や、コスト高に苦しむ農林水産業への支援などに活用させるよう後押しする構えだ。
物価変動の影響を除いた実質賃金は今年1月から7カ月連続で前年同月を下回っており、中小・小規模事業者まで賃上げの動きを拡大できるかが焦点となる。自民党政調会長に就いた小林は「まず目の前の物価高と関税から国民の暮らしと雇用を守り抜いていく」と強調。さらに「物価高対策とともに、来年度の税制改正や予算案編成にも取りかかる。政策の司令塔としてスピード感と発信力を意識したい」と訴えた。
政策を確実に実現させていくためには、野党と連携する必要があり、高市も「基本的な考え方の合う政党と、お互い納得できる形がつくれると嬉しい」と連立拡大に意欲を示してきた。ところが、公明党の離脱により、連携する相手探しは一からの出直しになった。
連携相手が焦点に
自民党の衆院勢力は196議席。公明党(24議席)の離脱により、過半数(233議席)を確保するためには37議席が必要となる。日本維新の会(35議席)や、国民民主党(27議席)などと単独で手を組んでも衆院過半数に届かない。日本維新の会と国民民主党と「自維国」連立になれば、過半数に届くものの3党で政策を一致させることは簡単ではない。
国民民主党はこれまで、所得税の非課税枠「年収の壁」の引き上げや外国人政策の厳格化、憲法改正など「自民党と基本政策の一致点はかなりある」としてきたものの、公明党の連立離脱を受けて、代表の玉木は「自民党とうちを足しても過半数にいかないので、これまでの連立の議論にほぼ意味はなくなった」として、慎重な姿勢に転換した。
一方、日本維新の会はもともと菅、前幹事長の森山裕らと「自公維」連立のシナリオを模索してきた。それだけに、代表の吉村洋文は自身のX(旧ツイッター)で「高市さんは、高市さんらしさを失うことなく、思いきり自分がやりたい方向性の政治をやったらいい」と投稿した。
高市が連携相手をどこにするかはあるにせよ、物価高対策はもちろん、外に目を向ければ日本を取り巻く国際情勢は揺れ動いている。高市が「日本の平和を守っていくためにも外交が大切だ。何としても力を入れていく」と語っているように、強いリーダーシップを発揮すべきときである。
安倍は、日米同盟の強化を目指して、集団的自衛権の行使を一部容認するための憲法解釈を変更した際、当時の副総裁・高村正彦が、慎重姿勢を崩さない公明党に対し、何度も丁寧に説得した。安倍も公明党元代表・太田昭宏らとのパイプを使って協議を重ねた。
今後、高市が国内外の課題を乗り越えていくためには、麻生、鈴木、有村ら新執行部のさまざまなパイプを生かしながら、自らが各党と真摯な協議を続けるという決意が必要になる。(敬称略)