サイボウズは7月15日、ノーコードで業務アプリを構築できる「kintone」のユーザーイベント「kintone hive 2025 tokyo」をZepp DiverCity(東京都 江東区)で開催した。本稿では、ゲームセンターをはじめエンターテインメント領域で急成長しているGENDA(ジェンダ)の事例を紹介する。同社は伴走型の市民開発を実践し、8000時間の業務効率化を果たした。成功に導いた3つの工夫を紹介しよう。
会議でkintoneを勧めたら場が凍った……
東京都港区に本社を置くGENDAは、ゲームセンター「GiGO(ギーゴ)」やカラオケチェーン店「カラオケBanBan」、フォトスタジオ「スタジオキャラット」などを国内外で展開する。30台以下のゲーム機を設置するゲームコーナー「ミニロケ」は約1万4000カ所ほど運営している。
また、SNS映えするお酒として話題となった「クライナー」を通じてアルコールの楽しさを伝えるシトラムも、GENDAグループへ参画した。M&Aは2025年7月時点で48件と、既存事業の成長に加えてM&Aによる成長戦略も同社の特徴だ。
kintone hiveのステージに登場したGENDA IT戦略部の寺井裕介氏も、M&Aによって他企業から参画した一人。
寺井氏は前職で一人情シスとして活動する中で、kintoneに出会ったという。Excelによる管理が限界を迎えつつある中、簡単に業務アプリが作れて業務改善が図れるkintoneに魅力を感じたのだが、業務が多岐にわたっていたことから、当時の上司に「一人では管理できないでしょ」と言われ、導入を見送った経緯がある。
そのころ、すでにGENDAはkintoneを導入していたそうだ。M&AでGENDAに参画した寺井氏は、ここでいよいよkintoneを使い始めることとなる。なお、GENDAは事業統合を円滑に進める目的で、同サービスを導入していたという。
しかし当時のGENDAでは、導入が1年が経過した後でも作られた業務アプリが数個、ほとんどのユーザーが登録と閲覧のみ、新たなアプリが開発される動きもなかった。つまり、ただサービスを導入しただけで、ほとんど使われていなかった。
「せっかくkintoneを導入しているのにもったいないと思い、業務改善のために会議の場で活用を勧めたこともある。しかしその場が凍ってしまい、完全に失敗に終わってしまった」と、寺井氏は当時を振り返った。しかしその後、転機が訪れる。
アプリ開発を通じて得られた教訓とは
ゲームセンターの運営においては、紙やExcelファイルを使った管理業務が多いという。例えば、落し物は毎月2000件ほど発生するのだが、その管理は紙を使って行われていた。従来のフローでは、落し物の情報をその場でメモ用紙に記入してから、また別の紙の台帳に内容を転記してファイルに綴じて管理していた。
二重入力の手間だけでなく、問い合わせ時には店舗フロアと台帳ファイルの保管場所の往復が発生するため、業務を圧迫していたという。そこで、紙での業務を撲滅するためのプロジェクトチームが結成され、kintoneの活用が検討された。プロジェクトチームに関わったのは、管理本部、店舗管理部、IT戦略部の3部署。
プロジェクトチームではまず簡単な基本操作をレクチャーした後、現場担当者が既存のテンプレートを活用しながら「拾得物管理アプリ」を作成した。これにより、実際の業務に適したアプリが完成。担当者からは「作成は意外に簡単」とのフィードバックも得られた。
この際、300以上の店舗すべてにアカウントを付与するだけの予算がまかなえなかったため、アカウントを持たないメンバーにもマイページを作成できる拡張機能「じぶんページ」を活用した。
拾得物管理アプリを使用した結果、店舗でメモ用紙に情報を記入する手間がなくなった上、スマートフォンから落し物情報にアクセスできるようになったため、落し主からの問い合わせ時にフロアを往復する手間もなくなった。これが奏功し、年1400時間の削減に成功。さらにはお客満足度の向上にもつながった。
「拾得物管理アプリは店舗スタッフが使う初めてのアプリだったので、ようやくkintoneが社内に広がってきたのだと嬉しかったことを思い出す」(寺井氏)
拾得物管理アプリの開発と改善を通じて、寺井氏はいくつかの教訓が得られたという。その一つが、「現場に押し付けるのではなく、一緒に開発すること」だ。
寺井氏は「一緒に課題を見つけて業務改善を進め、業務が改善されれば現場にkintoneが浸透する。現場主導での業務改善が可能になれば、M&Aを繰り返して事業を拡大しても対応できる」と解説した。
年8000時間の削減に成功した3つの工夫
拾得物管理アプリの開発をきっかけに、GENDAでは伴走型の市民開発が進んだ。まず、現場の本部スタッフとIT戦略部の担当者が定期的に打ち合わせを行い、そこで現場の課題を聞き取りながらサンプルアプリを作成。その場で解決しきれなかった課題は現場スタッフが持ち帰り、宿題としてアプリを作成する。
その際にIT戦略部が注意したのは、「最初から完璧は求めない」「ステップアップしながら完成を目指す」「通常業務と並行して無理をさせない」といった点だ。こうした工夫により、現場で使いやすいアプリの構築を実現した。
アプリの開発を現場スタッフが主導し、IT戦略部は拡張機能の導入や設定など伴走パートナーの役割に徹した結果、チーム全体で業務改善を図る文化が醸成された。
伴走型で開発されたアプリの例が、「クレーンゲーム商品の注文業務」アプリだ。従来の業務フローでは、共有フォルダにアクセスしてから、商品画像を見ながら入荷する商品を検討。その後、Excelファイルに注文数を入力していた。この業務は毎回30分ほどかかっていたという。
新たに作成した注文業務アプリは、商品マスタをkintoneで作成し、トヨクモのkintone連携ツール「kViewer(ケイビューワー)」および「FormBridge(フォームブリッジ)」を使って、まるでECサイトのように商品を注文できる仕組みを整えた。
その結果、注文作業が約半分の時間で済むようになり、全店舗で年間4800時間の業務削減につながった。現場からは「画面の見た目が変わって作業が楽しくなった」との声も寄せられた。
このような成功体験を積み重ねた結果、当初たった1人だった支援メンバーは8人まで増加。市民開発が可能な担当者は30人ほどに増え、開発したアプリは200個に達する。これらアプリによって削減できた業務の量は時間にすると実に年8000時間以上だ。
GENDAが直面した新たな課題と次なる挑戦
伴走型の市民開発を通じて多くのアプリ開発を実現してきたGENDA。しかしここで、新たな課題に直面する。それは、作りかけのアプリや、作ったものの使われていないアプリなど、いわゆる「野良アプリ」の増加だ。当時の同社では、アプリ開発にルールを設けていなかった。
寺井氏らIT戦略部では、管理が煩雑にならないようにグループ会社も同じサブドメインで管理すること、そして、さらなる業務改善を図るために拡張機能を現場担当者も設定できるようにすること、といった課題も抱えていた。
そこで同社は、適切なルール作りに動き出した。しかし、グループ会社、ユーザー、野良アプリ、拡張機能がどんどん増える中で、適切なルール作りに悩んだという。
これに対し、kintoneアプリ開発支援を行うコンサルティング・SI企業のジョイゾーと連携し、ルール策定やプラグイン選定、高度なカスタマイズについて相談できる体制を作った。また、ユーザー会のkintone Caféに参加し、コミュニティメンバーと情報交換を行った。
これらの取り組みを通じて、同社はkintone初心者向けのヘルプページを作成。基本情報を掲載するだけでなく、アプリ作成などのルールをまとめた。具体的なルールとしては、アプリ作成時に最低限守るべき項目として「レコードの削除権限を外す」「有効フラグを作成する」「重複禁止を適切に設定する」などを記載している。
また、アプリ作成後に申請するフローを設けることで、適切にルールが守られているかをIT戦略部のメンバーが確認できるようにした。
そしてGENDAのkintone活用は、ついに国境を越える。GiGO台湾への伴走支援を実施し、現地スタッフが現地の言語でアプリを開発できたことを皮切りに、現在はグローバルのGENDAグループ7社にまでkintoneが拡大したとのことだ。
寺井氏は今後の予定について、「kintoneは何万社という企業が導入しており、その数だけ先駆者がいる。1人で、1社で悩むのではなく、コミュニティへの参加を通じて仲間に出会い、みんなで使って、悩んで、解決できることがkintoneの良さだと思う」と会場にメッセージを送り、講演を締めた。








