豊田通商社長・今井斗志光の『異能商社』論 「地球最後のフロンティア・アフリカで強みを!」

「異能の総合商社」――。大手総合商社、豊田通商の新社長・今井斗志光氏(1965年=昭和40年生まれ)は「ユニークな、得意分野がはっきりした総合商社を目指していく」と語る。トヨタ系の商社として出発したが、2006年にはトーメンとの合併などを経て、大手総合商社7社の一角を占めるほどに成長。同社が異能商社として注目されるのは、『21世紀最大のフロンティア』とされるアフリカに強いこと。世界が混沌とし、先進国経済が成熟化。地球規模でこれから成長が期待できるのはアフリカと見られる中での同社の存在感。アフリカの人口も現在は約15億人だが、2050年には約25億人に達するとされ、市場としての価値も高まる。このアフリカ事業に加えて、「再生可能エネルギー、資源循環(リサイクル)などでも『異能』を発揮していきたい」と今井氏。経営ビジョンに「Be the Right One(正しいことをやろう)」を掲げる今井氏の経営のカジ取りとは─。

他の総合商社と同じ事をやっていては…

『異能の総合商社』─。今年4月、豊田通商社長に就任した今井斗志光氏(1965年=昭和40年9月生まれ)。59歳での社長就任で、この9月20日に満60歳を迎えた。今井氏は豊田通商の経営のカジ取りを担うに当たり、「異能の総合商社」として生きたいと抱負を語る。

「豊通には、『異能の総合商社』という言葉がありまして、要はユニークな強さを伸ばしていこうと考えています。(総合商社といわれる7社の中で)皆さん、資源に強いなどの特色があって、われわれもアフリカに強いという特徴があります。

 加えて、当社は地球を掘って天然ガスや石油などの資源を採掘するのではなく、地表にある鉄をリサイクル(資源循環)したり、自然に吹く風や太陽の力をエネルギーに代えたりするなど、得意分野のはっきりしたユニークな道を進もうと思っています」

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 今井氏は〝リサイクル〟や〝自然エネルギー〟という言葉を使い、自分たちの経営を追求していきたいと強調し、次のように語る。

「日本の古い歌に、『人の行く裏に道あり花の山』とありますね。それと似たような感じで、異能の商社、ユニークでかつ得意分野がはっきりした総合商社というのを目指しています」

『サーキュラーエコノミー(circular economy)』─。『循環経済』は、EU(欧州連合)が2015年末に政策パッケージを公表して以来、世界的に広まった。

 世界的な人口増加や経済成長を背景に、日本でも、経済産業省・中小企業庁が大量生産・大量消費、大量廃棄型の経済(リニアエコノミー=直線型経済)からサーキュラーエコノミー(循環経済)への移行を産業界に求めている。

 また、環境省も『循環型社会形成推進基本計画』をつくり、〝循環〟をキーワードにした新しい社会像を打ち出している。

 ただ、物事は一直線には進まず、米トランプ政権は地球温暖化防止の動きを否定し、自国の化石資源を有効に活用する政策を掲げるなど、循環型社会への道は紆余曲折をたどっている。

 しかし、本質的に持続性のある社会を追い求めるという世界の基調は変わらない。今井氏が言うように、地球を掘るのではなく、すでに地球にある資源のリユース(再生)を含めた〝循環〟で経済・社会活動を行うのが中長期的に見て、道理にかなっている。

 世界秩序が混沌とし、価値観が多様化する中でも、自分たちの進むべき道をしっかりと定めようという豊田通商のユニークな生き方。『異能の商社』という発想はどこから出てきたのか?

自らの強さに磨きを

 豊田通商が設立されたのは1948年(昭和23年)のこと。戦前生まれの三菱商事、三井物産とは違い、戦後生まれの商社だ。トヨタ自動車が筆頭株主(全体の21・69%を所有)である。

 トヨタ系総合商社として、トヨタ製自動車を世界で販売、例えば、カンボジアで車両組み立て生産を開始したりしてきた。一方で、2006年にトーメンと合併し、自動車分野以外へも徐々に事業領域を拡大。総合商社としての機能も高めてきた豊田通商。

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 20世紀末から21世紀入りする頃にかけて各商社は、それまでのモノの売り買い、貿易的な機能から、投資会社・事業会社としての要素を高めてきた。

 一般に総合商社といえば、三菱商事、伊藤忠商事、三井物産、住友商事、丸紅、双日、そして豊田通商が挙げられるが、今は一口に商社といっても、手がける分野は多岐にわたる。

 それぞれの商社が独自の生き方を追求し、自らの得意技、強みに磨きをかけており、豊田通商は、それが『異能の総合商社』という言葉に集約されている。

 近年の同社トップの言葉にも、『異能』を目指してきた姿勢が見て取ることができる。

 今井氏の2代前の社長・加留部淳氏(1953年生まれ)は豊田通商の立ち位置について、「本籍地・トヨタグループ、現住所・商社」という言い方をしてきた。

 加留部氏は2011年(平成23年)から2018年(同30年)まで社長を務めた。この間、アフリカに幅広いネットワークを築き、アフリカビジネスに強いフランス系商社『CFAO(セーファーオー)』を約2350億円で買収することを決めた。

 加留部氏の後を受けた貸谷伊知郎氏(1959年生まれ、社長在任は2018年から2025年3月まで)は、トヨタグループの商社として、トヨタ自動車との連携で、自動車のEV(電気自動車)化に欠かせないリチウムイオン電池領域で事業を展開。

 また、ELV(End of Life Vehicle=使用済み自動車)の廃車リサイクル事業を推進するなど、自動車のバリューチェーンの中で自分たちが果たすべき役割を追求した。

 同氏は、トヨタ系商社の役割を果たしながら、トヨタグループの外でも通用する商社づくりも進め、「トヨタグループの中だけでなく、他流試合をたくさんしていこう」と社内に呼びかけてきた。

 言ってみれば、自立・自助の考えで、今一度、自分たちの生き方を見直そうというもの。トヨタグループに依存するだけで、甘えてばかりいては生き残れないという危機感があり、「他流試合をすることで、トヨタグループにも恩返ししよう」という貸谷氏の考えがあった。

 そうした両氏のあとを受けての、今年4月の今井斗志光氏の社長就任。今井氏はこれからの豊田通商の生き方として、「これは前任の貸谷と議論していて、『異能の総合商社で行きましょう』と提案したんです」と語る。

豊田通商②

今年4月、豊田通商は今井斗志光副社長(右)が新社長に、貸谷伊知郎社長が副会長に就任した(写真は今年1月の記者会見)

「日本人って、周りと同じものを求めるし、それが好きじゃないですか(笑)。そこに、異文化とか『異』という単語を使うのはどうか、ネガティブにとられないかという話もあったんですが、これからの時代は人と違っているほうがポジティブだということになるだろうから、あえて異能と言おうと。それで、『異能の総合商社、豊田通商』を目指すことにしたんです」

 今井氏は社長就任にあたって『異能』を取り上げた経緯をこう振り返り、「他社とは異なる分野で、独自のユニークな強みを伸ばしていきたい」と語る。

 三菱商事や三井物産などの旧財閥系の総合商社と違い、同社は後発組。他と同じ事をやっていては後れを取り、後発が生き残っていくには『異能』が不可欠という同社の判断である。

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