Amazon Adsはこのほど、日本国内初の年次イベント「Amazon Japan Upfront 2025」を開催。同イベントの話題の中心は日本で4月から開始された「Prime Video 広告(以下略、Prime Video 広告)」だ。同社は、この広告を軸に提供する複数の広告を組み合わせて相乗効果により更なる高い効果が期待できるフルファネル(Full funnel)戦略と新たに3つの広告フォーマットを日本で提供することを発表した。同社が狙うフルファネル戦略とはどのようなものか。
Amazon Adsの動画広告のビジョン、そして革新的なソリューション
「Amazon Upfront」は、Amazon Adsの広告ソリューションやビジネス戦略、インサイトを発表する年次イベント。アメリカでは5月に開催され、業界向けの映像コンテンツの試写会を行い、映像の買付などの商談が行われる。
今回、国内初開催となった「Amazon Japan Upfront 2025」では、広告代理店、パートナー企業、広告主向けにAmazon Ads の動画広告に関するビジネス戦略や最新のインサイト、サービス、Prime Videoの最新コンテンツの発表が行われた。
基調講演では、Prime Video 広告の総責任者であるVice President Global Prime Video Advertising Jeremy Helfand氏が、同社の今後の広告ビジョンや戦略ついてプレゼンテーションを行った。
Helfand氏は、「ストリーミングTV広告とAIの未来」と題して、「エンターテインメント・デスティネーション(Entertainment Destination:娯楽の目的地)」、「ユニークオーディエンス(Unique Audience Understanding)」、「AIによる革新(Al-Powered Innovation)」の3つを軸に、今後の展開について説明を行った。
エンターテインメント・デスティネーション
「エンターテインメント・デスティネーション」は、いうまでもなく同社が力を入れている動画のプレミアムコンテンツのことだ。今回のイベントでも『沈黙の艦隊』の実写映画第二弾、恋愛リアリティ番組『ラブ トランジット』シーズン2など、人気のオリジナルコンテンツに関する紹介が行われた。
Helfand氏はこれらのオリジナルコンテンツを背景に、誰でも楽しめる「ワンストップエンターテインメントサービス」を目指していくと強調。また、日本においてはライブ配信に高い関心があることに言及し、MLBやボクシング中継に加えて世界的なバスケットボールリーグNBAの放送を10月より配信していくことも発表した。
Helfand氏は、日本で人気のアニメにも言及。日本の多くのアニメをアニメストアやアニメタイムズへのサブスクリプションやそれ以外の多数のアニメコンテンツを継続して配信し、リピーター層を着実に取り込んでいくことを紹介した。
ユニークオーディエンス
「ユニークオーディエンス」に関しては、日本視聴者の独自性について言及。日本のPrime Video視聴者の平均93%が、月に1回以上Amazon.co.jpで買い物する(同社内部データ、2023年8月-2024年8月調べ)など高い購買力を有しており、広告を見て購買する確率が非視聴者と比べて33%高く、自動車、旅行といった商品で活発な購買行動が確認されていることが明かされた(※)。
※GWI, 4 Waves (Q1'24-Q4’24), Japan. Base: A18+. Japan. Base: A18+. Compared Japan Adult 18+ Prime Video Users to the average Japan Adult 18+.
これらのことから、Helfand氏は日本市場を高く評価。市場の重要性を認識し「お客様第一」の広告配信の姿勢を軸に取り組んでいくと語った。また同氏は「最良の広告とは、一貫性、多様性、関連性、統合性のある広告」であると述べ、視聴者の思いに対する理解こそが魅力的な広告体験の創出につながると自身の見解を語った。
「AIによる革新」
「AIによる革新」では、コンテンツの中に自然に溶け込むようなシームレスな広告の開発を進め、フルファネル戦略に対応する「ファーストインプレッションテイクオーバー(FITO)」「インタラクティブ動画広告」「インタラクティブポーズ広告」の3つの新たな広告フォーマットを発表。これらは米国で先行導入済みで、良好な結果を残しているという。
「FITO」は、視聴者が最初にPrime Videoで動画を再生する際に表示されるプリロール広告枠を独占的に配信できるもので、視聴者の視聴全体の印象を左右するファーストインパクトを最大限に活用できる。2025年内にβ版のリリースを予定している。
「インタラクティブ動画広告」は、動画の左側にバッジと呼ばれるポップアップを表示させ、表示したクリエイティブをリモコンで操作して選択できるなど、視聴者の直接アクションにつながる広告。2026年上半期からの提供開始を予定している。
「インタラクティブポーズ広告」は、視聴者がコンテンツを一時停止するタイミングで関連性の高いブランドメッセージを送る広告だ。同フォーマットは、番組の視聴者が番組を再生するまで、画面上に表示され続け、視聴主導の休憩時間においてブランドとの有利な接点を生み出すことができる。2026年上半期からの提供開始を予定している。
また、新しいインサイトとして、日本の視聴者が使うことを踏まえ、ライブストリーミングの領域においてオーディエンス・ベースド・クリエイティブ(Audience Based Creative)を来年導入予定であることも発表。これはAIによる先進的なアドテクノロジーを活用し、ターゲットオーディエンスの属性や行動に対応して広告の内容を動的に変化させる技術だ。
Helfand氏は、同技術をライブスポーツ配信に導入することで、大きな広告効果が期待できることを語り、「これらのサービスのすべてがPrime Video 広告の成果を基盤としており、広告主、パートナー企業、広告代理店と一体となって新しいイノベーションに取り組んでいたい」と締めくくった。
Amazon Adsのフルファネル戦略のポイント
フルファネル戦略の具体的な内容については、イベント直前に開催されたメディア説明会において、アマゾンジャパン Amazon Ads ジャパン カントリーマネージャー 石井哲氏が説明を行った。
フルファネル戦略とは、認知、検討、購買、リピーターへという客の購入までのプロセス全体をトータルで捉え、それぞれのプロセスで最適なアプローチを行うマーケティング戦略だ。
石井氏は「朝起きた時点からAmazon Alexaに話しかけデバイスを起動し、通勤通学中はスマートフォンでAmazon Musicを聴き、Prime Videoを見る。日中は動画コンテンツを見て買い物をして、家でTwitchのライブ配信を見て寝る、という風にあらゆる生活の中でAmazon のサービスが利用されている」と語った。こうした生活の中で、最適な場所、シチュエーションに広告を配置し、効率的にブランドと顧客を結び付けることができるか、同社は日々努力しているという。
フルファネルの逆三角形を使って、Amazonの戦略をわかりやすく説明すると以下のようになる。
幅広く多くの認知を集め新しいオーディエンスにリーチする逆三角形のアッパー層では、ディスプレイ広告、動画広告、Amazon Liveを展開、ブランド認知度の強化には、ライブ配信、スポンサーTV広告、スポンサーシップ、カスタム広告・屋外広告、Twitch広告などを展開する。検討を促し行動につなげるミドル層や、コンバージョンを促進しロイヤルティを育てるローワー層ではスポンサーブランド広告、スポンサープロダクト広告、スポンサーディスプレイ広告の提供を行う。
アッパー層では、ボクシングやLive Video中継を行った2023年のWBAのようなスポーツ配信で認知を高め検討につなげる。次に検討を流し、ディスプレイ広告が追いかけるようにリマーケティングする動画広告を打って行動につなげていき、最終的にコンバージョンにつなげる。この状態にPrime Video 広告がラインアップに加わることで、動画広告において効果的にフルファネル戦略を実行に移せる環境が整ったという。
フルファネル戦略を支える要はPrime Video 広告
上述したように、同社の広告ラインアップは多彩だが、その多くは動画広告となる。石井氏は「動画広告は音もあり、シズル感もあり、一般的なバナー広告やテキスト広告にない没入感や臨場感を出すことができる」と述べた。
そして、「時代の流れが動画を後押ししている」と語る石井氏。総務省情報通信政策研究所の「令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によれば、2019年、17.4%だった動画配信サービスの利用率が2022年には52.1%と大きく増加。広告市場もまた、右肩あがりでサイバーエージェント「2024年国内動画広告の市場調査」によれば、動画広告市場推計・予測はスマートフォンで2023年に5,048億円、2024年が5,750億円、2025年は6,566億円と順調に延びており、2026年には7,320億円になると推定されている。また、コネクティッドTVも順調に増加している。
Amazonは、こうした動画広告市場の拡大に対応できるラインアップを持つ。これは、「顧客に多くの商品を提案できる以上の大きな効果がある」と石井氏は。なぜなら、それぞれの広告を同時に活用して相乗効果を得られるからだ。
複数の動画広告で相乗効果を発揮
Amazonの内部データ(2025年4月-2025年5月)によると、Prime Video広告、Fire TV広告、オンライン動画広告、Twitch広告のうち2つ以上を使用した場合は1つのみ使用する場合と比べて、ブランドリフトが+182%となることがわかっている。検討率に関しても+56%、購入率でも+176%と高い数値を記録している。また、今マーケッターが注目している新規顧客獲得(ニュー・トゥ・ブランド)率も+230%になっている。
この数値からも、2つ以上のAmazon動画広告を使って広告を適切なタイミングで、コンテキストで提供することで、広告主側が求める指標が大きく改善され、最終的に無駄を省き、投資利益率(ROI:Return on Investment)を高めることができると石井氏は語る。
複数の広告を効果的に利用できる「Amazon Marketing Cloud」
複数の広告を活用することで高い相乗効果を得られることは分かったが、どの広告をどこでどのタイミングでどのくらい出すのが適切なのか。
石井氏は、AIが活用されている「Amazon Marketing Cloud(AMC)」で実現していると述べた。AMCは、Amazonが提供するデータクリーンルームソリューションで、広告主サイドがAmazon内外のユーザー行動を詳細に分析し、広告戦略を最適化することができる。これを活用することで、出稿した顧客はAmazonに使った広告宣伝費の実際の価値を可視化できる。
石井氏は、Amazon DSPとPrime Video広告、スポンサー広告の3つを活用している日本のAmazonのストアに出品しているメーカーの事例を紹介した。同社はスポンサー広告単体での購買率を基準値とした際に、Amazon DSP、Prime Video広告、スポンサー広告の3つを経由した時の購買率が、次のように、大きな差が出ている。
- Prime Video 広告→スポンサー広告→Amazon DSPで+933%
- スポンサー広告→Prime Video 広告→Amazon DSPで+600%
- Prime Video 広告→Amazon DSP→スポンサー広告で+500%
注:上記は個社事例の分析結果であり、全ての事例において同様の結果を保証するものではない。また、キャンペーン構造・セグメントなどにより結果は変動し、リリース初期につき今後結果が変動する可能性あり。
このようにAMCを活用し結果を分析することで、大きな成果を得ることが可能になる。これがAmazonの目指すフルファネル戦略なのだ。
そして、米国で好成績を挙げている新しい3つのプラットフォーム「ファーストインプレッションテイクオーバー」「インタラクティブ動画広告」「インタラクティブポーズ広告」が、日本のラインアップに加わる予定。
同社のAMCを活用したアドテクノロジーによるフルファネル戦略、特にEC広告における高い購買率は、広告業界全体の構造や戦略に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。現在、GoogleとMetaの2社の影響力が強いデジタル広告市場だが、同社がそれに並ぶ日も近いかもしれない。









