富士通は9月9日、2025年度を最終年度とする中期事業計画の進捗状況と、その先の持続的な成長に向けた事業戦略について紹介する「IR Day 2025」をオンラインで開催した。本稿では、執行役員副社長 COO(サービスデリバリー担当)の島津めぐみ氏が語ったモダナイゼーションの取り組み事例についてレポートする。→主力事業「Fujitsu Uvance」の成長戦略を紹介した IR Day 2025の記事はこちら。

  • 富士通 執行役員副社長 COO(サービスデリバリー担当)島津めぐみ氏

    富士通 執行役員副社長 COO(サービスデリバリー担当)島津めぐみ氏

生成AI利用に伴いモダナイゼーション市場も拡大中

富士通はモダナイゼーションについて、「レガシー資産からの脱却」と定義している。例えばアプリケーション資産はCOBOLやPL/IからJavaや.Netへ、インフラ資産はオープンプラットフォームやレガシープラットフォームからクラウドまたは最新のオンプレ環境へと移行することを指す。

モダナイゼーションは市場そのものが拡大しており、2024年度には前年比で27%の伸長となる1.3兆円規模だという。多くの企業が生成AIの活用に積極的になる中、レガシー資産がAI活用やデータ活用の障壁になっているため、各社でモダナイゼーションの取り組みが加速していると考えられる。

  • 富士通のモダナイゼーション事業

    富士通のモダナイゼーション事業

富士通のモダナイゼーション事業を見ると、2024年度の売上収益は前年比86%増となる2969億円だ。グロスマージン率は38%で、計画目標を達成した。これは、国内のレガシーモダナイゼーション市場のシェア26%に相当するという。さらに、メインフレーム・UNIXなど同社が提供してきたレガシープラットフォームの終息に向けても確実に進捗している。

  • モダナイゼーション事業の2024年度振り返り

    モダナイゼーション事業の2024年度振り返り

同社は2025年度の計画として、さらなる売上成長とグロスマージン率の拡大を見込んでいる。売上収益は3300億円、グロスマージン率は40%の計画だ。レガシーモダナイゼーション市場シェアの目標は29%と、さらなる拡大につなげる。

「パイプラインの積み上げは目標を超えて順調に進捗しており、計画達成の確度は高い」(島津氏)

  • 2025年度の計画目標

    2025年度の計画目標

提供価値向上のための3つの施策

同社は2024年度のIR Dayにおいて、競争力の源泉は「サービス」「エンジニア」「ナレッジ」の3つと説明していた。サービスはコンサルティングやFujitsu Uvanceと連動するソリューション群、エンジニアはレガシーシステムから最新の技術に対応できる技術者、ナレッジはノウハウや経験に基づく品質と収益性を、それぞれ示している。

2025年度はこれら3つの競争源泉を活用しながら、価値向上と市場拡大を図る方針だ。価値向上では、コンサルティングとの連動、エンジニアの最適化、生成AIの活用を重点施策として強化する。

自社のレガシー資産からの脱却で培ったノウハウをもとに、他社のモダナイゼーションやオープンな市場へと展開し、市場拡大を狙うとのことだ。

コンサルティングとの連動

モダナイゼーションの推進に際して、企業のIT部門では経営層向けの説得や、モダナイゼーションへの投資に対する価値の明確化、データとAI活用を前提とした最適なモダナイゼーション計画の立案が難しい場合がある。

こうした課題に対し富士通では、「モダナイゼーションアクションプランニング」を策定した。これは、IT部門の課題認識を阻害要因として類型化し、各パターンへのグランドデザインを定めたものだ。これにより、経営向けの提案や意思決定を促す。

「お客様のITを熟知する当社の営業およびSEにコンサルティング担当が加わり、IT課題をビジネス課題にエンハンスし、経営視点でのグランドデザインの提案を実施している」(島津氏)

  • コンサルティングとの連動における取り組み

    コンサルティングとの連動における取り組み

エンジニアの最適化

エンジニアの最適化に関する取り組みでは、モダナイゼーション案件に必要な要員が不足することによる商談の辞退や品質の低下を防ぐため、短期および中・長期的に案件に必要となるエンジニアの数を月別に予測し、不足分を埋める取り組みを強化する。

必要なエンジニアは社内だけでなくパートナー企業も含めて流動的に調整するほか、生成AIなどを活用して少ない人数でも作業効率を高める工夫を凝らす。

  • エンジニア最適化の例

    エンジニア最適化の例

生成AIの活用

富士通はFujitsu Uvanceやコンサルティング、モダナイゼーションなど全ての事業に生成AIを活用している。モダナイゼーション事業においては、ブラックボックス化やAI活用への障壁といったレガシーシステムの課題に対し、「Fujitsu Kozuchi」をはじめ独自のAI技術を適用し、案件の高度化や品質向上など、新たな顧客価値を創出する。

その一例が、プログラムから人が理解しやすい設計書を自動生成する技術だ。一般的な設計書の自動生成では固定長形式の入力ファイルを読み込むような、人が理解しにくい設計となる場合が多いが、Fujitsu Kozuchiを利用すると処理内容が日本語で表示されるなど、人が理解しやすい形式で出力される。

この技術により、設計ドキュメントがない案件においてもモダナイゼーションを実行できるようになる。そのため、業務内容が不明な他社のモダナイゼーションにも着手できるのが強みだという。

  • 生成AIを用いた設計書自動生成

    生成AIを用いた設計書自動生成

2つ目の例は、レガシーアプリケーションのモダナイゼーションにおける生成AIの適用。従来のモダナイゼーションではツールを使いCOBOLからJavaなどへコードを変換した後に、冗長性や複雑性の排除、最新技術の適用を人がレビューしながら対応していた。

この作業に生成AIを活用することで、COBOLプログラムから作成した設計書の中から生成AIが課題を抽出できるようになる。冗長性や複雑性を排除し、最新技術を前提としたソースコードをAIが生成するため、短期間でのモダナイゼーションが見込める。

  • 生成AIの利用を前提としたモダナイゼーション

    生成AIの利用を前提としたモダナイゼーション

デリバリーにも生成AIを活用し業務効率化

富士通ではモダナイゼーション領域だけでなく、デリバリー全体で生成AIの活用を進めている。分析調査や要件定義、設計、開発など、各プロジェクトで生成AIを活用し、プロジェクトごとに2割~3割の効率化を目指しているそうだ。

中長期的には、従来のウォーターフォール型の開発手法から、生成AIの活用を前提としたデリバリーモデルへと変革を進める。

  • デリバリーにも生成AIを活用する

    デリバリーにも生成AIを活用する

目標はモダナイゼーション市場シェア30%

富士通は今後、モダナイゼーション市場におけるシェア拡大と収益性の強化を両輪で進める。市場シェア拡大においては、顧客価値の向上と他社レガシーシステムまたはオープンプラットフォームへの進出により、2025年度の22%(レガシーおよびオープンモダナイゼーション市場全体のシェア)から8%増となる30%のシェアを目指す。

一方の収益性の強化においては、生成AIの活用と実践ナレッジの展開によって、中長期的にグロスマージン率50%を目指す。これは、2025年と比較して10%増となる。

「2022年の自社レガシー(メインフレーム/UNIX)保守終息宣言から本格化した当社のモダナイゼーション事業は、次のビジネスの駆動力となって成長を続ける。モダナイゼーションがイノベーションの出発点ととらえ、絶えず変革しお客様と共に未来を創造していきたい」(島津氏)

  • モダナイゼーション事業における中長期的な目標

    モダナイゼーション事業における中長期的な目標