AIワークロードの急増とアクセラレーテッドコンピューティングの普及に伴い、データセンターのアーキテクチャは大きな転換期を迎えています。CPU・GPU・DPUなどの進化によってメモリやコンピュート性能への要求が高まる中、従来の「サーバー内完結型」構成から、ストレージをサーバーから切り離すディスアグリゲーテッド(分離型)インフラへの移行が進んでいます。
なかでもディスアグリゲーテッドストレージは、コンピュートとストレージを切り離すことでリソースの独立したスケーリングを可能にし、効率性を高め、TCO削減を実現しながら、次世代ワークロードの性能要件に応える現代のデータセンターの基盤となりつつあります。
しかし、その採用が広がる一方で、「複雑すぎる」「実績がない」といった誤解も残っています。本稿では、こうした誤解を整理しつつ、ディスアグリゲーテッドインフラがどのようにデータセンターを俊敏かつスケーラブル、またAI対応可能な環境へと進化させているのかを解説します。
ディスアグリゲーテッドストレージに関する3つの誤解
誤解1:ディスアグリゲーテッドストレージは新しく、実績がない
現実
ディスアグリゲーテッドストレージの基本原則は数十年前から存在しており、すでに大規模環境で実証済みです。
ディスアグリゲーテッドストレージの起源はメインフレーム時代にさかのぼります。その後、ハイパースケールデータセンターでの採用を通じて進化し、リソース利用率の向上やTCO削減に寄与してきました。コンピュート、ストレージ、ネットワークリソースを切り離すことで、必要に応じて個別に拡張できる柔軟なアーキテクチャが構築されたのです。
近年ではNVMe over Fabrics(NVMe-oF)の活用により、サーバーとストレージ間を高速かつ効率的に接続することが可能となりました。ディスアグリゲーテッドストレージは決して未検証の技術ではありません。広範な導入と継続的な技術革新を経て、世界最大級のデータセンターで実践的に使われてきた信用性の高い技術です。
誤解2:プロプライエタリ(独自仕様)ディスアグリゲーテッドストレージの方が簡単で使いやすい
現実
プロプライエタリ(独自仕様)システムは迅速な導入を可能にする一方で、長期的な柔軟性を損なう可能性があります。
プロプライエタリなディスアグリゲーテッドストレージは、ベンダーが提供する一体型システムで初期導入は容易ですが、多くの場合、クローズドなエコシステムに縛られやすく、相互運用性が制限され、成長やイノベーションを妨げる要因となります。
一方、オープンなディスアグリゲーテッドストレージは、柔軟性やエコシステムとの互換性、コスト効率を高めます。標準化された技術を活用すれば、ハイパースケーラーから中小規模の企業まで、幅広い組織が高度なインフラの恩恵を受けられます。ベンダーロックインの制約を回避し、進化する技術に適応しながら、競争的な市場でもイノベーションを促進できる点が大きなメリットです。
誤解3:オーケストレーション層は複雑すぎる
現実
オーケストレーション、あるいはコンポーザブルなディスアグリゲーテッド・インフラストラクチャは確かに複雑さが増しますが、真価を引き出すためには不可欠です。
オーケストレーション層は、コンピュート、ストレージ、ネットワークといった分離された要素の接続や相互作用を統合し、コンポーザブルインフラとして機能させる役割を担います。
静的なワークロード運用では最小限のオーケストレーションでも対応できますが、大規模かつ動的な環境では高度なオーケストレーションツールが大きな効果を発揮します。
オーケストレーションを障害ではなく鍵として捉えることで、運用効率やリソース活用度が向上し、変化するワークロードにも柔軟に対応することが可能となります。
ディスアグリゲーテッドインフラがもたらす主な価値
ディスアグリゲーテッドインフラは、現代のデータセンターアーキテクチャを大きく変革するアプローチです。リソースを切り離し、必要に応じて動的に組み合わせることで、次のような価値をもたらします。
- スケーラビリティ:ワークロードに応じてコンピュート、ストレージ、ネットワークリソースを独立して拡張可能
- コスト効率:過剰なプロビジョニングを削減し、TCOを最適化
- 柔軟性:需要の変化に合わせた構成変更やリソースプール化が可能
- 性能最適化:NVMe-oFなどの高速技術で効率的なデータフローを実現
- 将来性:サーバーからストレージを切り離し、CPU・GPU・DPUリソースを拡充し、AIワークロードの性能要求に対応
ディスアグリゲーテッドインフラの今後の展望
ディスアグリゲーテッドインフラは、もはやハイパースケーラーに限られた技術ではありません。あらゆる規模の企業でAIやアクセラレーテッドワークロードを支える手段として急速に広がっています。大企業ではコスト管理や性能向上、IT効率最大化の手段として、また中小規模の組織では高度なインフラ機能を利用するためのツールとして、導入が進んでいます。
データ需要の増加が続く中、ディスアグリゲーテッドストレージは、その卓越したスケーラビリティ、効率性、適応力によって、現代のデータセンターにおける基盤として不可欠な存在であり続けるでしょう。