【日本のエンタテインメント産業のゆくえ】第2回・セガサミーホールディングス社長グループCEO・里見治紀

「IPを使ったライセンスビジネスは日本の強みになっていますし、世界的に非常にニーズは高いです」と語るセガサミーホールディングス社長グループCEOの里見氏。海外での日本のアニメ・ゲーム機の人気は白熱。日本のIPを海外でも展開する同社は、今後の世界における日本のエンタテインメントコンテンツの可能性に期待を込める。

  良いモノづくり

 ─ ゲームキャラクター『ソニック』などのライセンスビジネスを強化していますが、今後IPを使ったライセンスビジネスは日本の強みになり得ると思いますか。

 里見 はい。既になっていますし、世界的に非常にニーズは高いです。先日アメリカでエンタテインメント企業などが集まるライセンスの展示会「Licensing Expo」が開催されました。

 そこでは様々なIPやキャラクターに関する展示が行われたほか、大手映画会社などが、今後数年間のアニメ公開時期などのスケジュールを示し、マーチャンダイジングの企画・開発などについて呼びかける機会もありました。

 その翌日、セガも同様のイベントを開いて、ソニック以外にも当グループには多くのIPやキャラクターがあることをアピールさせていただきました。

『ソニック』も、『アングリーバード』も映画の開発が進んでいますし、そのほかにも、さまざまなIPの具体的な展開スケジュールをお見せして、世界中の皆さんにマーチャンダイジング展開を呼びかけました。

 まだまだ大手映画会社には及びませんが、日本企業の中では先進的な取り組みです。

 ─ 『ソニック』自体が大きなブランドになってきたということですね。

 里見 ええ。また一方で他社IPを活用したビジネスも行っています。国内のゲームセンターなどでは『UFOキャッチャー』などのクレーンゲーム機が流行しています。当グループはクレーンゲーム機と、その中に置くプライズと呼ばれる景品も手掛けています。

 このプライズはライセンシーとして他社IPの許諾を受けて展開しています。この分野においても、これまで日本でやってきたことをグローバルで展開していきます。

 クレーンゲーム機で獲得できるプライズは、法律の解釈運用基準により、かけられる原価に上限があります。プライズは一品千円のものまでしか認めないというルールがあるのです。クレーンゲームにギャンブル性をもたせないためです。

 この厳しい縛りがあったからこそ、日本のプライズ業界には、コストを抑えていいモノを作るノウハウが溜まっています。ルールによってわれわれのスキルが磨かれたということです。

 当グループでは、このようなプライズを中国・東南アジアで製造して、世界中に届けられるようになっています。北米でもクレーンゲームは非常に人気が高いので、今後も強化すべく他社との共同事業を検討しています。

 社長就任から8年が経ち・・・

 ─ 2017年、当時38歳で社長に就任されて8年経ちました。今どんな感想をお持ちですか。

 里見 8年も経っている気がしないのが本音のところです。コロナで2~3年、時間感覚が曖昧になってしまいました。

 コロナの初期、当グループは業績改善に向けた大きな構造改革をやらざるを得ない状況でした。わたしにとっては思うこともたくさんあり、非常に大きな出来事でした。当時と比較すると着実に前進しておりますが、まだ自分が思い描く理想の姿には到達できていません。

 ─ まだまだこれからやるべきことがあると。

 里見 はい。短期的には時価総額を7千億円から1兆円にするのが目標です。過去最高の時価総額は1・4兆円くらいでしたから、そこにまずは到達し、その先も2兆円、3兆円と成長を目指していかなければなりません。

 その過程で売上高も1兆円を目指します。過去最高売上は約5500億円ですが、今期の計画が4750億円ですから、あと1割強くらいで到達します。

 まずは短期でしっかり過去最高売上を達成します。将来の目標と現状を照らし合わせてマイルストーンを置き、着実に進んでいきます。

 ─ 改めてセガサミーの強さというのは何ですか。

 里見 やはり人です。わたしが社長になってから一番力を入れているのは、人財育成です。会社を0からつくってきた創業者・里見治の経営理念や哲学を次世代のリーダーに引き継ぐために、里見塾と称した幹部育成の取り組みを実施しています。グループの役員クラスが対象です。

 里見治とともに、社内で実際にこれまで起こってきた事象に関するケーススタディを行い、自分だったらどうするかという点を議論してもらいます。考えにギャップがあるほど学びは大きく、そのギャップに経営哲学がでてきます。

 経済合理性に則って考えたらこちらの選択が正しかったかもしれないけれど、現実では創業者は違う判断をして、結果いまはこうなっている。果たしてどちらの選択がよかったのかという点をみんなで真剣に議論しています。

 ─ 月に何回開催しているんですか。

 里見 現任役員の選抜研修として始まり、現在は新任役員たちに、1年単位で実施しています。その次に治紀塾というのを立ち上げました。

 これはわたしが中心になって、次世代のグループ役員候補15人~20人の人財を集めて行っています。そこから既に、グループ会社の社長や役員に就く者も出てきています。

 それから未来塾といって、2030年の事業リーダーになりうる若手の教育も実施しています。こうした選抜型の研修も含め、グループ会社を横断して多用な研修や講座を受けられるセガサミーカレッジという企業内大学も、2018年に立ち上げました。

 これは手挙げ式で参加でき、いろいろな講座が用意されています。例えばマーケティング、アカウンティング、ロジカルシンキング、デザインシンキングなど普遍的なビジネススキルに加え、語学やデジタル、更にはマインド開発など、事業戦略に対応するためのカリキュラムまで、様々な講座を用意しています。

 リアルとオンラインどちらでも受講でき、これまでにのべ6万人以上が受講しています。

 ─ 社長から見て、伸びている人財はどんな人ですか。

 里見 覚悟を決めている人です。やらされ仕事ではなく、自分で覚悟を決めて責任を引き受けながら取り組んでいる人というのはどんどん伸びています。

 グローバル化する中、 会社のビジョン共有が重要

 ─ 社長として、日頃社員にはどのような言葉を投げかけていますか。

 里見 ミッションピラミッドという形で言語化し、グループ会社の部門単位の目標にまで落とし込み、指針としています。

 Group Mission/Purposeは「感動体験を創造し続ける~社会をもっと元気に、カラフルに。~」とし、これは今もできていて、これからも実現し続けたいことです。

 Group Visionは「Be a Game Changer ~革新者たれ~」で、世の中をよりよく変革する人になれと言っています。これはありたい姿を表すので、これから体現することです。

 前回の中期計画のスローガンは「Beyond the Status Quo」で現状打破を目指すものでした。当グループの歴史を振り返ると、5千億円あった売上が4千億円に落ち、4千億円を切ってから、その後十数年間4千億円を超えられなかったことがあります。

 そういった時期を乗り越え、コロナ禍が開けてから、一気に成長軌道に戻すとの想いがありました。

 そして現在4750億円を目指すところまで持ってきました。現中期計画では「WELCOME TO THE NEXT LEVEL!」という言葉をスローガンに掲げています。われわれ自体が次のレベルに行くぞというメッセージです。

 現中期計画でエンタテインメント事業を担うセガのMission/Purposeは「Empower the Gamers」。Gamersとは、ゲームをプレイしている人だけではなく、それを見ている人、配信者、開発しているわれわれも含んでいて、今や世界で30億人~40億人とも言われています。

 このようにゲームに関わる全ての人たちをEmpowerする企業になるんだという強い使命を表しています。Empowerというのは、勇気づけるとか力づけるという意味です。

 セガのロゴを見たり聞いたり、商品に触れたりすることで、誰もが勇気づけられるような企業を目指すということです。

 ─ 今グループには海外人財はどのくらいいるんですか。

 里見 当社グループの従業員数は約1万500人、そのうち海外在籍者が2千200人ほどいます。今期、海外企業を買収したことにより、さらに海外人財は約千人増えました。日本の本社でも外国籍の方が非常に増えており、海外人財比率は約5%となっています。

 コロナ禍でオンライン会議が浸透し、世界中で同時多発的にバイリンガルなミーティングが増えたこともグローバル化を推し進めました。

 ─ 世界中の方が参加するとなると、会議は英語ですか。

 里見 基本は英語です。今まではウェブ会議ができる設備が限られていた都合上、英語を話せない人は出席できないこともありました。しかし、今は英語が完璧に分からない現場社員も会議に直接出られるようになりましたので、社員の意識も徐々に変わってきています。

 例えばこれまでSNS上のお客様からのフィードバックは日本語のものを中心に見ていました。

 しかし、今は翻訳ソフトもありますから、世界中の人たちのフィードバックを自分たちが直接見られるんです。そこから得る知見や発想は大きい。やはりそういったところから、グローバルな意識が非常に高まっていますね。

 ─ 社内でさまざまな言語が飛び交っているわけですね。

 里見 はい。アジア系、ヨーロッパ系などさまざまな方がいます。

 ─ 非常に多国籍ですね。これまで社長をやってこられて一番嬉しかったことは何ですか。

 里見 やはり仲間と一緒に物事を達成したときに、みんなで喜びを分かち合うときです。

 例えば『ソニック』が世界中で大ヒットしたとか、ゲームが売れたとか、映画が好評だったとか、もちろんそれ自体も大変嬉しいです。しかし一番はグループ全体で業績を達成し、社員全員で盛り上がったときです。経営者冥利に尽きますね。

 ─ 創業者であるお父さんの背中を見てきたと思いますが、どういったことを感じますか。

 里見 父を見ていて一番すごいことは、人を信じる勇気です。ベンチャーからここまで会社を大きくする中で、人に騙されたことは何度もありますし、実際それで会社がつぶれたこともあります。

 それでもなお人を信じる。社員を信じる、取引先を信じる、顧客を信じる、それができるから人から信頼されているのです。そうやって自分が信じることから始めているということ。そこは尊敬している点です。