米Broadcom傘下のVMware部門が「Private AI」の普及に注力している。8月25日(米国時間)から4日間にわたって米ラスベガスで開催中の年次カンファレンス「VMware Explore 2025」で、同社はモダンプライベートクラウド向けプラットフォーム「VMware Cloud Foundation 9.0(VCF 9.0)」に「VMware Private AI Services」を標準搭載すると発表した。

この発表には従来は有償だった機能を標準化することで、追加コストや導入負担に対する企業の不安を解消し、AIをプライベートクラウドの基本機能として利用できる環境を実現する狙いがある。

8月26日の基調講演に登壇したBroadcom CEO(最高経営責任者)のHock Tan(ホック・タン)氏は「プライベートクラウドの未来はすでに到来しています。VCF 9.0はパブリッククラウドを上回る性能とセキュリティを提供するプラットフォームだと確信しています」と述べ、AI時代におけるモダンプライベートクラウドの重要性を強調した。

  • Broadcom CEO(最高経営責任者)のHock Tan(ホック・タン)氏

    Broadcom CEO(最高経営責任者)のHock Tan(ホック・タン)氏

VCF 9.0がもたらすプライベートクラウドの進化

VCF 9.0は「vSphere(コンピュート)」「vSAN(ストレージ)」「NSX(ネットワーク)」を統合したプライベートクラウド基盤である。1年前の「VMware Explore 2024」で発表され、すでに2025年6月17日より一般提供が開始されている。。

VCF 9.0の特徴は、自動化による運用管理の負担を軽減することだ。「SDDC Manager」によるライフサイクル管理を標準搭載し、導入から運用、アップデートまでを一元化する。オンプレミス、VMware Cloud on AWSなどのパブリッククラウド、ソブリンクラウド(Sovereign Cloud)」、エッジ環境まで対応し、複数環境を横断した統合運用を実現できる。

  • VCF 9.0の概要図。コンピュート・ネットワーク・ストレージを統合し、自動化とオーケストレーションを実現する統合基盤と位置づけられている

    VCF 9.0の概要図。コンピュート・ネットワーク・ストレージを統合し、自動化とオーケストレーションを実現する統合基盤と位置づけられている

タン氏は導入現場の課題として「開発者がインフラを意識せずに開発できる環境」「部門間のサイロ化からの脱却」「スピードとセキュリティの両立」「レガシー資産からの脱却」の4点を挙げた。VCF 9.0はこれらを解決するため、コンテナとVMを単一基盤で統合的に実行し、組み込み型セキュリティにより追加ツールに依存せず運用できると強調した。

金融から小売まで、実証済みの導入効果

続いて登壇したのはBroadcomのバイスプレジデントで、VMware Cloud Foundation部門 製品担当を務めるPaul Turner(ポール・ターナー)氏だ。同氏は、VCF 9.0を「AIを含むすべてのアプリケーションを安全に支える次世代データセンター基盤」と位置付け、「かつてvSphereがIT運用の標準化をもたらした次の章がプライベートクラウドです。ネットワーク、ストレージ、バックアップ、DR(Disaster Recovery)、セキュリティポリシーを一体化することで信頼できる運用境界を定義できます」とそのメリットを訴求した。

  • Broadcomのバイスプレジデントで、VMware Cloud Foundation部門 製品担当を務めるPaul Turner(ポール・ターナー)氏

    Broadcomのバイスプレジデントで、VMware Cloud Foundation部門 製品担当を務めるPaul Turner(ポール・ターナー)氏

ターナー氏によると、VCF 9.0は金融、ヘルスケア、公共、防衛、製造など幅広い産業ですでに採用が進んでおり、世界最大規模の小売業である米Walmartも戦略的にVCFを選択したという。基調講演では、大手金融機関の英Barclaysと地方保険会社の米Grinnell Mutualという対照的な顧客事例が紹介された。

BarclaysのCTO(最高技術責任者)はプライベートクラウドを「全社の技術の生命線」と表現した。「生成AI時代に備え、AIワークロードをオンプレミスでも処理できる統合基盤としてVCFを採用しました。拡張性と弾力性はパブリッククラウドと同等のレベルに達しています」(同CTO)

同行ではオンデマンド環境の提供により開発者の生産性を最大化し、エンジニアのマルチスキル化を推進。組み込み型のセキュリティとコンプライアンス機能により、従来を上回るスピードと安定性を実現しているという。

一方、17人から構成されるITチームを持つGrinnell Mutualはレガシーなストレージのリプレースと比較し、最大100万ドルのコスト削減が見込めることがVCF 9.0導入の決め手となったという。導入後は分断されていたネットワーク、システム、DevOps、DBAチームが統合され、少人数でもセキュリティと開発支援を両立できるようになったとのことだ。

  • Fortune 500企業の9割がVCFを採用。金融・製造・公共など主要産業で90%前後の導入実績があるという

    Fortune 500企業の9割がVCFを採用。金融・製造・公共など主要産業で90%前後の導入実績があるという

オープンエコシステムで実現するAI民主化

続いて登壇したVMware Cloud Foundation部門 AI・先進サービス担当グローバル責任者であるChris Wolf(クリス・ウルフ)氏は「Private AI Services」の詳細を説明した。同サービスは2026年度第1四半期からVCF 9.0のサブスクリプションに標準搭載され、追加コストなしで利用可能となる。

  • VMware Cloud Foundation部門 AI・先進サービス担当グローバル責任者であるChris Wolf(クリス・ウルフ)氏

    VMware Cloud Foundation部門 AI・先進サービス担当グローバル責任者であるChris Wolf(クリス・ウルフ)氏

Private AI Servicesには、GPUの監視、AIモデルの保管場所(Model Store)、実行環境(Model Runtime)、エージェント開発ツール(Agent Builder)、検索用のベクターデータベース、データの取り込み・検索機能などが含まれる。これにより企業は、AIモデルの「調達→展開→管理」までを一貫して安全かつ効率的に行える。

ウルフ氏は、BroadcomのAI戦略として「オープンエコシステム」を重視していると説明した。BroadcomのEthernet事業は世界の大手クラウド事業者の基盤を支えており、その実績を背景にVCFではハードウェアやAIモデルの選択肢を幅広く提供できる。基調講演では、GPUを使った大規模言語モデルの処理を通常の仮想マシンと同じように「vMotion」で移動できるデモも披露された。

また、ハードウェア面では、NVIDIAの最新GPU「Blackwell V200」や「RTX Pro 6000」、高速ネットワークを実現する「ConnectX-7」「BlueField-3 DPU」をサポートすることも発表された。さらに、AMDの「ROCm Enterprise AIソフトウェア」や「MI350 GPU」との連携により、大規模言語モデルの学習やRAGアプリの展開、推論処理を効率的に実行できる。

  • NVIDIAとの協業で「Blackwell V200」(GPU)や「BlueField-3」(DPU)をサポート。AIワークロードに最適化した環境を提供する

    NVIDIAとの協業で「Blackwell V200」(GPU)や「BlueField-3」(DPU)をサポート。AIワークロードに最適化した環境を提供する

  • AMDとの連携も発表された。「MI350 GPU」や「ROCm Enterprise AIソフトウェア」を活用可能にし、大規模言語モデルの学習や推論処理を効率化する

    AMDとの連携も発表された。「MI350 GPU」や「ROCm Enterprise AIソフトウェア」を活用可能にし、大規模言語モデルの学習や推論処理を効率化する

今後のロードマップとして、ウルフ氏はAIサポートアシスタント「Intelligent Assist」、外部ツールと標準的に連携できるModel Context Protocol(MCP)、複数GPUを活用したマルチアクセラレータ環境、そして1つのAIモデルを複数部門で安全に共有できるマルチテナント機能の提供を予定していると説明した。

開発者向けには、オブジェクトストレージ「vSAN S3」へのネイティブ対応や、GitOps、Argo CD、Istioを活用したアプリ配信の自動化、さらには複数クラスタの一元管理といった機能強化が加わる。加えてCanonicalとの提携拡大により、Ubuntu Proや軽量コンテナを組み合わせたセキュアで効率的なAI基盤も整備される見通しだ。

さらにウルフ氏は、今後のAI強化策として「Secure ID ChainとRBACによる安全なデータ取り込み」「単一モデルを複数のGPUやCPUで動かせるマルチアクセラレータ・ランタイム」「モデルを複数部門や顧客で共有できるマルチテナント機能」の三つを挙げ、これらがVCF 9.0に組み込まれることで企業のAI導入を大幅に容易にすると強調した。

  • AIワークロードと開発者向けの新機能。左側はインフラ強化(GPU vMotion、ベアメタル性能など)、右側は開発者向けAIサービス(MCP対応、マルチテナント機能など)を紹介

    AIワークロードと開発者向けの新機能。左側はインフラ強化(GPU vMotion、ベアメタル性能など)、右側は開発者向けAIサービス(MCP対応、マルチテナント機能など)を紹介

最後に、ウルフ氏は「3年前にPrivate AIを発表した時は先進的でしたが、今や世界中の企業やクラウド事業者も同じ方向に進んでいます」と振り返り、そのうえで「Broadcom/VMwareの強みは、専用機器に依存せず、共通基盤で複数のAIモデルやハードウェアを柔軟に扱えることにあります」と自社の優位性を訴えた。

仮想化からモダンクラウドへの転換点

講演の終盤では、セキュリティ強化にも触れられ、新機能「vDefend」や「VCF Advanced Cyber Compliance」が紹介された。詳細については、後日報じる予定だ。

最後に、ターナー氏は25年前のサーバ仮想化を振り返り、「当時は『なぜサーバを共有するのか』と疑念を持たれましたが、仮想化は世界のデータセンターを根本から変革しました」と述懐。その進化がネットワークやストレージの仮想化を経てソフトウェア定義データセンターを生み出し、今や新たな転換点としてモダンプライベートクラウドが登場していると指摘した。

  • 会場となった「The Venetian Convention and Expo Center」のゲートの作りは昨年と(ほぼ)同じだった

    会場となった「The Venetian Convention and Expo Center」のゲートの作りは昨年と(ほぼ)同じだった