人材不足や急速なデジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーション)需要の高まりに対応するため、サイボウズは地域金融機関と連携した「DX経営スペシャルセミナー 2025」を全国24カ所で開催中だ。

本稿では、地元では「しちしち」の愛称で知られる七十七グループの一員で、仙台市を中心に宮城県内企業のデジタル化を支援する七十七デジタルソリューションズが伴走支援した、業務アプリ作成ツール「kintone」の導入事例について紹介する。

「紙の資料をkintoneに置き換えて業務効率化できただけでなく、スタッフ全員で顧客愛を実現できるようになった」と話すのは、宮城県加美町でメモリーホールを運営する倖心の早坂博幸氏。

同社はわずか3人の担当者でkintoneの導入を進め、人材を増やさずに残業時間をゼロにするどころか、現在は新たな葬儀会館の新規オープンに向けた検討を開始しているという。七十七デジタルソリューションズの伴走によるkintone活用のストーリーに迫ってみよう。

  • 倖心 代表取締役 早坂博幸氏

    倖心 代表取締役 早坂博幸氏

サイボウズと地域金融機関がセミナーを開催

人材不足が加速する地方の中小企業において、人材活用とデジタル技術による業務効率化は急務となっている。しかし、実態としてはその第一歩を踏み出せない企業も多い。その理由として、デジタルへの抵抗感、専門人材の不足、物価上昇などに伴う投資対効果のハードルなど、さまざまな理由が考えられる。

こうした課題に対応するため、サイボウズは地方金融機関と共に「DX経営スペシャルセミナー」を開催。セミナーでは、金融機関と共に独自のDX戦略を展開し、顕著な成果を上げた地域企業の事例が披露される。

宮城県のセミナー会場となったのは、仙台駅から徒歩10分ほどのサイボウズ 仙台オフィス。余談となるが、BtoBサービスを提供する企業のオフィスには珍しく、大通りに面した1階がオフィスの入口だ。

  • サイボウズ仙台オフィス

    サイボウズ仙台オフィス、キリンが目印

以前の案件管理は紙とファイルの山、山、山……

セミナーで事例を紹介したのは、宮城県加美町で「メモリーホール倖心」「そう送館 倖心別邸」を運営する倖心。従業員数は7人(役員を含め9人)。加美郡全域と大崎市の一部で約3万人の商圏を抱える。葬祭業の他に、葬儀事前相談、仏壇仏具、ペット供養品販売、生花販売、葬儀保険代理店、回忌法要、相続の相談などを手掛けている。

kintone導入以前の業務の流れは以下の通り。まず、電話やWebサイトから来店予約があると、ディレクターが一次対応。その後、来店時に社長の早坂氏または常務の青沼氏が葬儀の予定やお寺の宗派、返礼品など詳細をヒアリングし、事前相談の内容を整理する。

ここで聞き取った内容はメモ用紙に手書きで記録しており、壁に貼り付けることで情報共有していたそうだ。その後、会員情報をExcelに入力すると同時に、業務用の携帯電話と早坂氏の携帯電話の計5台に顧客の電話番号を登録し、以降の連絡に対応できるにようにしていた。

  • kintone導入前の業務の流れ

    kintone導入前の業務の流れ

壁にメモ用紙を張り付けて情報共有すると、テープの粘着力が低下して紙が落ちてしまい紛失するなど、管理の煩雑さと不備が課題となっていた。また、過去の顧客データは紙とExcelファイルでそれぞれ管理していたため、リピーターの対応時など過去の情報が必要な際の検索性も低かった。

下の写真の付箋紙の数を見るだけでも、その大変な作業が想像できるはずだ。この写真に写っているのは、全体の4分の1から5分の1ほどだという。

「社長の私は過去のお客様の葬儀を覚えているが、従業員全員がそうだというわけではない。誰が当社に電話をかけても過去の記録をもとにした対応ができる顧客愛を実現できればと、長年思っていた」と早坂氏。

  • 社内に蓄積された資料(一部)

    社内に蓄積された資料(一部)

加えて、式場設営に必要なマニュアルも紙で保管していたため、誰かが持ち出してしまうと他のスタッフはマニュアルを確認できず困っていた。また、受付表のコピーを各スタッフが持って作業しており、どれが最新版なのかを判別できない状態だった。

  • kintone導入前の課題

    kintone導入前の課題

kintoneによる情報共有で顧客愛を実現

そこで倖心は、kintoneを導入。ここから、七十七デジタルソリューションズによる伴走支援が始まった。早坂氏は同業の友人が会社で利用していたことから、kintoneの存在は以前から知っていたものの、価格や効果に不安があったことからそれまで導入には踏み切れなかったという。

そうした中、七十七デジタルソリューションズが提案した支援内容とコストの納得感が決定打となり、kintone導入を決めた。

早坂氏は「数年前は人型ロボットのPepper(ペッパーくん)を導入しようかと思うほど人材不足に困っていた」と話していた。しかし同社の事業は人と人の対応が大事であり、スタッフの態度や表情で顧客に評価されてしまう。そのため同社は、人間による接客にこだわった。

  • kintone導入後の業務フロー

    kintone導入後の業務フロー

kintoneを導入し顧客管理アプリを作成したことで、事前相談や打ち合わせの内容は常に最新の状態で全社員が閲覧できるように。受付担当スタッフも受注時には顧客情報を頭に入れられるようになり、「〇月〇日に相談をいただき、お打ち合わせをしましたね。その際には、準備物は〇〇と聞いております」と誰もが来客対応できるまでになった。

「お客様からは『社長に打ち合わせの際に伝えた話が、葬儀当日には受付のスタッフにまで伝わっていて嬉しい』と、信用・信頼の言葉をいただけるようになった。これが今では当社の強みで、地域での評価にもつながっている」(早坂氏)

倖心は導入当初の狙い通り、着実に顧客愛を実現しつつある。

  • 「事前相談情報アプリ」の画面例

    「事前相談情報アプリ」の画面例

また、kintoneのデータはスマートフォンアプリからも閲覧可能なため、式場設営時に必要な看板や生花、供物、返礼品なども現場で迅速に確認できる。無駄なコピーが減り、現場担当者の業務負荷の低減にもつながった。

kintone導入前の同社では、毎日20時~21時ごろまで残業が常態化していたそうだ。しかしなんと導入から2カ月目には、残業時間ゼロを実現した。

社内からは「これまで発生していた残業代がもらえない」との声もあった。そこで早坂氏は、これまでの残業代と同程度の賃上げを実施。固定給が上がったことで、定時に退社しながら社員の手取りは変わらない、という状態を作り上げた。これにより、社員のエンゲージメントが向上し、さらなる生産性の向上に向けた活動も進んでいる。

3会館目の新規オープンに向けてkintoneで準備

早坂氏は今後の目標について、「これからkintoneアプリをどんどん増やし、営業活動強化と顧客獲得につなげたい。中でも特に必要なアプリは、葬儀1件当たりの純利益を可視化するもの。売上だけでなく利益も見ながら、社員と正直に対話できるようにしたい」と話していた。

また、現在は1会館3会場を運営しているため、どの会場が何時から何時まで使われているのかをすぐに把握できる。しかし今後は3会館目の新規オープンを視野に入れ、各会場の使用状況を可視化するアプリ構築などにも着手する予定だ。

早坂氏は「当社は開業して数年の小さな会社で、現場の従業員はわずか7人。年間120件ほどの葬儀を運営するために、以前は20時~21時までの残業が当たり前で、役員は0時を過ぎることもあった。kintoneを導入したことで、そうした状況は大きく変わった。kintoneだけでなくLINEなども併用しながら、社内の状況を可視化し全員が把握できるようにしたことが功を奏した」とし、講演内容を結んだ。

会場でセミナー参加者(印刷業 経営者)に講演の感想を聞くと、「当社はExcelを用いた営業部門の顧客管理に課題を感じている。例えばリカバリー営業の際にも、過去の話が分かっている社員が訪問するのと何も知らない社員が訪問するのでは相手の印象が全く違う。それは企業の信用につながり、まさに倖心が実現した顧客愛の話だと思う。今日は当社でもkintone導入を検討する大事な機会になった」と話していた。

  • セミナー会場の様子

後編では倖心と七十七デジタルソリューションズの担当者による座談会から、地域の金融機関と中小企業が一緒にDXを進める意義と、倖心のkintone活用を成功に導いた現場の声を紹介する。