7月16日、17日に「日本DX大賞2025サミット&アワード」が開催された。DX実践者の交流の場として、現場の担当者が学びを共有するイベントで、優れた取り組みに授与する「日本DX大賞2025」 と 「第3回日本ノーコード大賞」の表彰式も同時開催された。
本稿では、17日のオープニングセッションの様子と、同日に開催された日本DX大賞2025表彰式からSX部門・事業変革部門・業務変革部門の受賞企業・団体を紹介する。
AIやDXは手段、重要なのは人間の意志
オープニングセッションにはBIOTOPEの佐宗邦威氏が登壇。「AI時代の企業変革 - 人にしかできない『問い』と『ビジョン』の力」と題し、AIが急速に進化・普及するなかで人間中心の社会をどうやってつくっていくのか、モデレーターを務める日本デジタルトランスフォーメーション推進協会の森戸裕一氏の問いに答えるかたちで話した。
佐宗氏はまず、昨今のAIブーム、その前から始まっていたDXなどの現在のトレンドについて、「AIもDXも、結局は手段としての技術に過ぎない。それをどういう目的で使っていくのか、もしくはどういう意志を持って使っていくのかという人側の意志が重要になる」と話した。
佐宗氏が率いるBIOTOPEは戦略デザインファームだ。その代表として同氏は、現場に存在する人々の意思をいかに引き出し、それを具体的なアクションやかたちに落とし込んでいくかを重視しているという。
「AIが進化する時代だからこそ、そこに込める人間の意志、英語でいう“インテント”やビジョンをどう引き出すのかを重視しています」(佐宗氏)
このところ、人でいうところの“意志”が、企業では“パーパス”などの言葉で表現されることが多い。パーパスは2020年ごろから日本語として根付きつつあるが、これについて佐宗氏は2つの背景があると分析する。
1つ目はESG投資の拡大だ。企業は単に利益を追求するだけでなく、環境・社会・ガバナンスの観点から評価される時代になった。投資家や株主は、企業をどのようなビジネスをしているのかを重視するようになっている。
2つ目は、とくに若い世代を中心に見られる意識の変化である。「自分たちが働く会社はなぜこの事業をやっており、最終的にはどういう目的のために、どういうインパクトを社会に生み出すことにつながっているのかを実感しながら働きたいという価値観を持つ人が増えている」と佐宗氏は述べた。
このような環境変化により、企業は従来の「収益を上げていればいい」という姿勢からの転換を求められている。「自分達はこういうことのためにこの事業をやることで、結果的に収益が出ている」という説明責任を果たす必要があるのだ。
パーパス、ビジョン、ミッション、バリュー - それぞれの定義と関係性
パーパスは新しい言葉だが、似たような言葉として、ビジョン、ミッション、バリューなどがある。
根底にある時代の特徴として、佐宗氏は「全員が同じ方向を向くのではなく、個人個人にとっての最適な環境を実現しながら、群れとしては同じ方向に向かっていく時代」だとしたうえで、「多元性のマネジメントのようなものが大事になっている」と続ける。そこでは1つの戦略を定め、そこに向かって全員が同じことをやるのではなく、ある程度遠くの方向性を決め、各人の自由を担保しながら向かっていく。そのマネジメントの手法としてパーパス、ビジョン、ミッション、バリューが出てきているのだ。
では、パーパス、ビジョン、ミッション、バリューの違いは何か。佐宗氏は、渡り鳥の群れに例えて説明する。パーパスは「北極星のようなもの」で、遠い目標地点を示す不変の存在である。群れ全体が向かうべき方向を示すコンパスの役割を果たす。
一方、ビジョンはより動的な概念として捉えられる。「未来に在りたい姿、社会とどう結びつきたいのか、環境とどうつながりたいのかなど、未来の自分たちの理想の姿が、動画のようにスクリーンのように再生されているもの」だと佐宗氏は表現する。ビジョンは常に動画のようなイメージで表現され、環境の変化に応じて更新されていくという。
バリューは「自分たちと自分たちではないものを分けるもの」で、組織のアイデンティティを形成する要素となる。
最後のミッションについては、「自分たちがどのような役割を果たすのか、自分たちから出る矢印」と整理した。さらに、パーパスとミッションの違いについては、パーパスが動機に焦点を当てた理想主義的な意思を表すのに対し、ミッションは人の役割に焦点を当てる現実主義的な意思と説明した。
この違いは、組織の性質によってどちらを重視すべきかを決定する要素となる。変革志向の強いテクノロジー企業や新しい価値創造を目指すスタートアップなどは、パーパス的なアプローチが適している。これらの企業では、社会をどう変えていくかという動機が重要な駆動力となるからだ。これに対し、インフラ系企業や自治体などは「社会のインフラに近い役割」を担うため、ミッション的なアプローチがより相性が良いそうだ。
魅力的なビジョンのつくり方
変化の激しい時代にあって経営も変化が求められる。佐宗氏は、「中期計画のような事業計画を立てることが難しくなっている」と言う森戸氏の言葉に同意しながら、「中期計画をなくして長期ビジョンをつくる。目の前の目標よりも長めのものを見る。遠くを見ながら目の前の環境の変化に応じて対応する」ことを推奨する。
「環境の変化が激しく先が読めない時代だからこそ、本当にやりたい、進みたい方向は何かだけを見て、あとはその都度反応するような動き方が良い時代になってきています」(佐宗氏)
雇用の流動性が高くなり、Z世代のなかには報酬よりもやりがいを求める人も多い。さらに、人口減少も始まっている。企業にとって従業員の離職は大きな課題だからこそ、「会社がなぜ存在するのかなどを伝えていくことが、人的資本の視点で企業を持続可能にするために重要」だと佐宗氏は話した。
「人材を惹きつけるための魅力的なビジョンはどうやって生み出せるのか」。この問いに対し、佐宗氏は「前提として、会社でも自治体でも人々のなかにある潜在的なワクワクを引き出し、心からその未来にワクワクできる、それを熱っぽく語れるものが魅力的なビジョンではないか」と持論を展開した。
「ビジョンをつくったとしても、そこにいる社員や自治体職員が、それに自分の思いを乗せて語れないものは魅力的なビジョンと言えないのではないでしょうか」(佐宗氏)
とくに既存組織においては、トップダウンでビジョンを押し付けるアプローチには限界がある。スタートアップのような新しい組織であれば、創業者のビジョンに共感する人材を集めることで組織を形成できるが、長年続いている組織では異なるアプローチが必要だ。
「会社のなかにある、マグマのような内面的に在りたい姿のようなものを、トップの経営層がうまく引き出してそれを代弁できたときに組織が動くのです」(佐宗氏)
魅力的なビジョンに絡めて、DXとIT化の本質的な違いについても話が及んだ。「DXは魅力的なビジョンを立て、バックキャストで現在や中間のマイルストーンを作成し、進捗の確認をし、社員・職員がワクワクしながらビジョンに向かって進む」と森戸氏が話すと、佐宗氏はそれに対し、「IT化は今あるシステムをいかに改善していくかという現状の課題解決に焦点を当てたフォーキャスト型のアプローチで現在の延長線上で効率化や生産性向上を図る取り組み」だと述べた。DXは根本的にアプローチが異なり、「デジタルの技術を使って、今、自分たちが持つリソースを組み替えた時に何ができるのかを考えていくバックキャスト型のアプローチであり、ゼロベースで新しいシステムや価値創造を目指す営み」(佐宗氏)なのだ。
DXには明確なビジョンが必要である。自分たちがどう在りたいかっていうビジョンがないと何でもありになってしまう。バックキャストの思考を用いて、10年後の理想状態を定義し、そこから5年後、3年後、1年後の状態を物語として描き、「やりながら語りながらやりながら動いていく動的なプロセスがDXでは求められる」と佐宗氏はまとめた。
中小企業のDXではアンラーニングが成否を左右する
森戸氏は中小企業におけるDXについて、アンラーニング(学習棄却)の重要性を指摘する。
「中小企業の経営層の方々には長年にわたって蓄積された成功体験や業務慣習があり、それが新しい技術環境においては時として足かせとなります。過去の成功パターンを否定するのではなく、一旦横に置いて、現在の環境に適した新しいアプローチを模索する必要があるのです」(森戸氏)
佐宗氏も「ある種の慣習のようなものを一旦捨てて、アップデートしていくプロセスになる」と同意する。
「アンラーンするプロセスこそが最大のチャレンジです。新しいやり方に対する抵抗や、無意識に古いやり方に流れてしまうところとどう戦っていくかですね」(佐宗氏)
生成AIなどの技術は新規事業のつくり方やワークフローを変えつつある。そこでは、「自分たちの意思ややりたいことが、放っておくと生成AIなどのデジタル技術で退化したり、わからなくなったりすることが起こりやすい」と佐宗氏は警告する。
そして、「こんな時代だからこそ、逆に自分が何をしたいのか、どのような未来を実現したくて、技術を使えばいいのかに意識を向けることが重要」だと助言した。
SX部門表彰式
大賞:トクヤマ
プロジェクト名:CO2削減と収益性のバランス最適化を図るソリューションの開発と運用
評価ポイント:デジタルツインと経営シミュレータを融合させ、CO2削減と収益性という二律背反の課題を両立。日本の製造業が進むべきSXの道筋を具体的に示した点が高く評価された。
優秀賞:ミライロ
プロジェクト名:デジタル障害者手帳「ミライロID」
評価ポイント:障害者手帳のデジタル化という社会的意義の大きい課題解決と、4,000以上の事業者で利用可能な経済性を両立。そのスケーラビリティを実現した点が評価された。
優秀賞:NTTテクノクロス
プロジェクト名:牛の起立困難予防声かけAIサービス〜BUJIDAS(ブジダス)〜
評価ポイント:AI技術を用いて畜産業における家畜の死亡事故という具体的な損失を予防する、ユニークかつ実用的なソリューションを開発した着眼点が評価された。
奨励賞:ミスミグループ本社
プロジェクト名:間接材トータルコストダウンサービスMISUMI floow(フロー)による日本製造業のサステナビリティへの貢献
評価ポイント:製造業の間接材調達(MRO)領域において、オンラインと物理的な自販機を組み合わせたモデルを構築。業務効率化、労働負荷の軽減、CO2削減に貢献する取り組みとして評価された。
事業変革部門表彰式
大賞: Shippio ・協和海運
プロジェクト名:創業60年・老舗通関のベテラン職人達が本気でテクノロジーと向き合い、 取扱量6倍・工数約1/5を実現
評価ポイント:伝統産業の知見とスタートアップの技術力をM&Aを通じて融合させ、ベテラン人材の能力をデジタルで増幅。劇的な生産性向上を実現した事業承継とDXの新しいモデルケースとして高く評価された。
優秀賞:ミスミグループ本社
プロジェクト名:ミスミが変える製造業の調達モデル革新
評価ポイント:製造業の非効率な調達モデルに対し、サプライヤー在庫の一元管理とECでの即時可視化という仕組みで業界全体の変革を促した功績が評価された。
奨励賞:大成建設
プロジェクト名:建設承認メタバース
評価ポイント:建設業界の在り方を大きく変革する可能性を秘めたプロジェクトとして、普及に不可欠なUI/UX向上のためにゲームメーカーと連携。その秀逸な判断と今後の展開が期待される点が評価された。
奨励賞:アート引越センター
プロジェクト名:『あったらいいな』新時代PROJECT2★
評価ポイント:引越見積もり業務において、画期的なデジタルイノベーションを実現。しっかりとしたプロジェクト推進体制や、災害復旧へ応用できる可能性も秘めており、今後のさらなる発展が期待される点が評価された。
業務変革部門表彰式
大賞:大阪大学
プロジェクト名:OUDX、全学DXで新しい日本の大学へ
評価ポイント:大学という巨大組織において、教育・研究・経営を横断する全学的なDXを断行した実行力を高く評価。自学の成功に留まらず、開発システムを他大学へも展開し、日本の高等教育全体の底上げを目指す高い志が大賞に選ばれた。
優秀賞:旭化成
プロジェクト名:旭化成のデジタル人財育成 - デジタル時代に適応した人と組織の変革
評価ポイント:具体的な目標を掲げ、社員の自律的な学習を促す育成プログラムを構築・実行。組織全体のデジタル対応力を高めるための本気度が評価された。
優秀賞:ヒューマングループ
プロジェクト名:ヒューマニティー経営 - 管理なし、仕組みで動き、人が輝く One―Chat DXモデル
評価ポイント:ノーコードツールを活用し、低投資で基幹システムを再構築。大幅な効率化と離職率低下という具体的な成果を創出した点が評価された。
奨励賞:悠悠ホールディングス
プロジェクト名:営業・マーケティングDXプロジェクト
評価ポイント:カスタマージャーニーに基づいたDX戦略を構築し、マーケティングから営業までの一貫体制で高い成約率を達成。営業DXの好事例として、業績向上に留まらないさまざまな成果を生み出している点が評価された。
スポンサー賞・審査員特別賞表彰式
サイボウズ賞:あんしん村グループ
評価ポイント:介護現場でテクノロジーを「職員の心の余裕を生み出す」ために活用した点を高く評価。現場主導の改善で残業ゼロ等を達成したことは、「チームワークあふれる社会を創る」理念と合致する素晴らしい事例とされた。
勘定奉行賞:テクノア
評価ポイント:中小製造業の複雑な業務プロセスに対し、会計システムとのAPI連携で生産管理から会計までをデジタルで一気通貫させた点を評価。バックオフィスDXが企業の競争力向上にいかに貢献するかを証明した。
審査員特別賞:旭化成エンジニアリング
評価ポイント:AIを活用したボルト締結管理という専門領域でのDXを推進した点を特別に評価。グループ内の技術を社会ニーズの高い市場へ展開する事業化の視点も素晴らしく、今後のインフラ業界の標準となりうるポテンシャルを持つとされた。
ポスターセッション表彰式
最優秀賞:大阪ガス
プロジェクト名:Daigas X(トランスフォーメーション)
評価ポイント:伝統的な大企業がいかにして変革文化を醸成するかという困難なテーマに挑み、トップダウンとボトムアップの両輪で4,000人を巻き込んだ実行力が高く評価された。
優秀賞:日本新薬
プロジェクト名:全社員がDXに取り組む組織へ生まれ変わる!
評価ポイント:スキルをオープンバッジで可視化し、社員の自律的な学びを促す仕組みを構築。全社員の約40%をDX推進人財として認定した具体的成果が評価された。

















