明治4年創業の老舗・ちん里う本店(以下、ちん里う)は梅干を中心に幅広く日本食品の販売を手掛けている。梅干しの販売から始まった同社だが、今では北海道から沖縄まで300社8000商品を100カ国以上に販売するまで成長した。

日本オラクルが今年7月に開催した、Oracle NetSuiteの年次イベント「SuiteConnect Tokyo 2025」の基調講演に、ちん里う本店 常務取締役 ゾェルゲル・ニコラ氏が登壇して同社のデジタル化について語った。講演後には、個別に話を聞く機会をいただいた。

創業150年の老舗はどのようにデジタル化を進め、事業拡大に成功したのだろうか。

  • ちん里う本店 常務取締役 ゾェルゲル・ニコラ氏

商品数が2000を超えたことで、新たなシステム導入を決意

ニコラ氏がちん里うの経営に参画することになったきっかけは、奥様が5代目を継いだことだ。「当時、経営状況があまりよくなかったので、手伝うことにしました」と同氏は話す。

入社当時、システムの導入が進んでおらず、営業実績も1年に2回しか出なかったという。「口座にある資金も把握できておらず、ブラックボックスの状態。ビジネスを振り返ることは難しかったです」と二コラ氏は当時を振り返る。

そこで、二コラ氏はデジタル化に乗り出した。手始めとして、情報を集めるためにMicrosoft SharePointとOffice 365(現在のMicrosoft 365)を導入した。また、販売システムは卸し用と一般用の2種類が利用されていたが、システム間で品名と品番が異なっていた。これを解消するため、国内の販売管理パッケージを導入し、国内卸しと通信販売の管理ができるようになった。

このころから海外事業も始まり、商品の数および海外の顧客が増えた。ここで、いくつか問題が発生した。まず、販売する商品が2000まで増えたことで、在庫管理ができなくなった。「2000商品までは覚えていられたのですが、2000商品を超えた時点で在庫切れや発注忘れといったミスが発生するようになりました」とニコラ氏。

加えて、それまでは海外の住所をパッケージのルールに従って入力していたが、限界が来た。顧客管理を適切に行うには、海外の住所を正しく入力してデータとして活用する必要がある。

日本の市場に力を入れていたNetSuiteを選択

これは何とかしなくてはいけないということで、新たなシステムを導入することにした。だが、日本の中小企業向けの製品は海外に対応していなかったため、MicrosoftのDynamics 365とNetSuiteの2択となった。そして、「日本の市場に力を入れていたので、NetSuiteに決めました」とニコラ氏は話す。

二コラ氏は、NetSuiteを導入した際の苦労として、データの整理に時間がかかったことを挙げた。英語版と日本語版の品名を用意したほか、海外の顧客の住所を入力し直した。また、商品マスタも裏ラベル用やPOSデータ用など複数存在していたので、NetSuiteのデータを商品マスタとして、他のシステムはこれを参照する仕組みにした。これにより、NetSuiteのデータを更新すれば、すべてのシステムに反映されるようになった。

加えて、物流用のデータとして重量、個数、ケースのサイズを入れられるようにしたことで、海外から見積もり依頼が来たら、自動で見積書が出せるようになった。それまでは、実際に商品をケースに詰めていたそうだ。

さらに、発注先は従業員のPCやスマートフォンに保存されていたので、それらもすべてNetSuiteで管理することにした。海外事業で必要な商品企画書に必要なデータも入力した。海外に輸出するとなると、材料や製造工程などを伝える必要があるという。

人件費はそのままで、売上が2倍以上に

そして、昨年はNetSuiteの製造管理のシステムを導入した。これまで、原価計算は1年に1回だけExcelで行われていたが、「1年に1回では足りない」とニコラ氏。人件費を正確に把握できておらず、資材の原価管理もできていなかったので、棚卸まで在庫が増えていくという現象が起きていたという。

現在は、在庫や原価に加えて、作業にまつわる時間も管理できるようになった。「長時間かかる作業があれば、そこに機械を入れる。それを決定できるデータがそろいました」(二コラ氏)

在庫を正確に管理できるようになったことで、商品のロスも見えてきた。加えて、従業員も作業時間が明確になるなど透明化が進んだ。これにより、「従業員も緊張感をもって働いているようです」とニコラ氏。合理化が進んだことで、従業員もムダのない働きが求められているのだろう。終始笑顔だったニコラ氏だったが、経営層としての敏腕さが垣間見えた一瞬だった。

ニコラ氏は、デジタル化によりメリットとして、手入力がなくなり自動化が減ったことで、生産性が挙がったことを挙げた。人件費はそのままながら、売上が2倍以上に伸びたという。

また、多くの商品が売れるようになり、輸出が伸びた。在庫の状況と消費期限を正確に管理できるようになったことで、海外への販売が可能になった。

同社は高品質の希少な食品を扱っていることから、高級飲食店からの引き合いが多い。その結果、海外から「あの店で使っている〇〇が欲しい」という指名買いがあるとのこと。こうした購入が広がり、今では22社と契約しているとのことだ。

夢の実現に向け、老舗向けプラットフォームを構築

今後、NetSuiteのシステムとして財務管理を導入する予定だ。「これで、別なベンダーの会計システムがやめられ、会社のデータが一つの入れ物に入ることになります。現在、会計のデータは月締めで1カ月に1回しか見られませんが、NetSuiteを導入することによりリアルタイムで見られるようになります。再入力の仕事も減ります」とニコラ氏は語る。

財務管理の導入が完了することで、ニコラ氏は「プラットフォームの構築が終わります」と話した。同氏は、単一のプラットフォームで社内のすべてのデータを管理し、そこをベースに業務を展開することを目指している。

このプラットフォームは、後継者が不在の老舗、海外にポテンシャルがある企業に外販することも視野に入っている。だからこそ、自社で完全に活用できている状態にまで高めようとしている。

この背景には、老舗は世界で最も多いが、後継者が不足していることがある。実際、ニコラ氏の取引先の老舗企業も毎年数社なくなるそうだ。同氏は、そんな老舗を守りたいと考えている。それを実現するカギがNetSuiteを基盤としたプラットフォームだ。

廃業しそうな老舗企業を早い段階で買収し、プラットフォームを導入してデジタル化を図ろうというわけだ。海外に拠点を作ることも計画しており、このプラットフォームがあれば対応できる。

老舗企業の救済に海外進出というニコラ氏の夢の実現をサポートするテクノロジーがNetSuiteとなる。ちなみに、現在扱っている商品は8000個に達しており、食品であることから消費期限や季節性があり、「AIが在庫管理、自動発注までやってくれたらうれしい」と同氏は語っていた。

小田原発の小さな老舗のちん里うがテクノロジーの力で消えつつある国内の老舗企業を救い、日本の伝統食品をこれまで以上に世界に知ってもらう世界をつくることを楽しみにしたい。