【日本のエンタテインメント産業のゆくえ】第1回・セガサミーホールディングス社長グループCEO・里見治紀

「昔は海外でモノを売りたいといったら現地に営業拠点をつくらないといけなかったのが、今はデジタルディストリビューションが発展。アップル、グーグル、マイクロソフト、任天堂やソニー、PC向けも含めて、彼らのプラットフォームにアップロードしたら世界中に一斉に配信されます」─。エンタテインメント業界の雄、セガサミーホールディングス社長グループCEOの里見治紀氏はこう語る。同グループの海外売上比率は4割。海外で日本のゲーム、アニメ人気が白熱しており、同社もグローバル化を推進中。世界の構造や人々の価値観が変わる中で、里見氏の描く経営戦略は─。

トランプ関税の影響は

 ─ 米国トランプ高関税策で全産業が対応を迫られていますが、エンタテインメント産業はどんな影響がありますか。

 里見 直接的影響と間接的影響がありますが、直接的にはわれわれは中国、ベトナム、台湾などで製造している商品を米国向けに出荷しているものがあります。

 ぬいぐるみやおもちゃは多くを中国、ベトナムあたりで生産していますので、これがクリスマス商戦に向けて今ちょうど最終交渉中というところです。

 米国向けカジノスロットマシンも、台湾で製造し米国に輸出していますので、関税面の問題はありますが、グループ全体でみるとそこまでの影響はありません。アニメやゲームなどデジタル商品に関しては、今は関税がかかっていないので、そこの影響がどうなるかですね。

 間接的影響としては為替です。われわれの海外売上比率はかなり高まっていますので、円安になればなるほど利益が増えます。ここ3年がまさに円安局面で利益がかさ上げされてきて、今期からは円高局面に向かっていますので、利益が圧縮になるということはありえます。

 ─ 為替の動向が業績に影響してきますね。

 里見 ええ。それから地政学リスクへの備えも大事になってきます。10年前の経営者はそんなことはあまり心配しなかったと思いますが、グローバルに事業を展開していくとなると、そこをかなり意識しています。

 台湾有事がもしあった場合に影響を受けることになるので、中国依存を下げていくという形で実行している企業も出てきていますね。

 ─ 分断と対立の時代に入ったと言われますが、今のアメリカの現状をどう見ていますか。

 里見 二項対立がありすぎて麻痺しているところがあると思います。西海岸、東海岸はリベラルな場所で、特にわたしはサンフランシスコに住んでいましたので、周りの仲間も含めてリベラルな人が多かったです。

 2005年から12年まで住んでいる中で、それが一気に進んでいった感じがします。でも、実はこれは地政学的に見ると、アメリカだけの現象ではないのです。フランスの極右と言われる人たちが台頭していったという点では、ヨーロッパの方が先でした。

 ─ ドイツも極右政党がでていますしね。

 里見 ええ。ただ急にアメリカだけ極右政党がマジョリティになったと言われるのですが、どちらかというと、今起こっているのは単なる保護主義です。自国優先の保護主義というのは、実はヨーロッパが先に動いていて、それがアメリカで極端に急進しました。

 日本はある意味、政治も安定していてバランスも取れているということで、逆に世界的にも今見直されています。日本株がここ何年か上がってきたというのはそういう背景もあります。そういう大局的にものを見る癖というのはなるべくつけたいと思っています。

 ─ その中で、現在グループの海外売上比率も4割強ですが、今後もさらに高めていく考えですか。

 里見 はい。中長期的に見て、日本はどうしても人口が減っていくという中で、グローバルに商売を拡大しなければいけないと考えています。コロナ禍を受けて一気にその比率が高まってきました。

 今期、海外において認められているオンラインカジノなどを手掛ける2社の買収も完了しました。これらは100%海外の売上です。既存のビデオゲーム、アニメに加え、オンラインカジノの分野は、世界中でどんどん伸ばしていこうというのが今の戦略です。

 現時点でセガのコンシューマ分野の海外売上比率は65%となっていて、グループ全体で見ても今期、来期でさらなる上昇余地があると考えています。

デジタル化で販売がフィジカルからオンラインへシフト

 ─ デジタル化で事業構造が変化を余儀なくされていますが、ゲーム業界の経営のカジ取りをどう進めていきますか。

 里見 はい。十数年前くらいは、ヨーロッパでゲームを売ろうといった時にはスペインにはスペイン人の営業マン、ドイツにはドイツ人の営業マンといった形で各国に営業拠点を設けていたのです。本社的な機能と、開発スタジオもヨーロッパ各国にあちこちありました。

 しかし最近は、フィジカルでものをリテールショップに届けるというところの比率が非常に小さくなったんですね。われわれはデジタルディストリビューション(デジタル配信の流通)とマーケティングに力を入れています。

 昔は海外でモノを売りたいといったら現地に営業拠点をつくらないといけなかった。しかし、今はデジタルディストリビューションが発展しています。

 ゲームに関していえばアップル、グーグル、マイクロソフト、任天堂やソニー、PC向けも含めて、彼らのプラットフォ―ムにゲームをアップロードしたら世界中に一斉に配信することができます。

 過去に発売したゲームの人気作は、価格戦略をしっかり立てて変えていっています。ディスカウントを含めてプロモーションを実施し、需要を喚起することで、ものすごく伸びてきています。

 われわれは過去作がたくさんありますから、ここが収益の大きなドライバーになっています。しかもコストはかかりません。

 ─ 蓄積された知的財産があるということですか。

 里見 ええ。過去の商品はデジタル配信ですと、原価もなく開発費も償却は終わっています。ですから安く売っても粗利は高い。在庫切れの機会ロスもない。デジタル配信が今東南アジア、南米、中東、中国ですごく伸びています。

 今後はインド、アフリカという国々が伸びてくるだろうと期待しております。

 ─ 途上国の所得が上がってくると、ニーズもどんどん高まってくるということですね。

 里見 そうですね。約10年前までは、ゲームビジネスは先進国でしか儲からないと言われていたんです。何万円もかけて家庭用ゲーム機を買って、ゲームソフトを1個8千円くらいで買うビジネスは、途上国では成り立たなかったのが、今はみんなパソコンやスマホを所持しているんですね。

 特にゲーム市場のマーケットの50%は今モバイルです。Free to playといわれる、無料でダウンロードして遊べるものもあるので、こういうところは途上国で一気に広がっています。

 そこはまだまだわれわれとしてはグローバルで取り切れていない分野だったので、そこに強みを持つフィンランドのRovioという会社を2年前、約1千億円で買収しました。

 Rovioはグローバルモバイルにおいて非常に強く、もともと自国が小さくマーケットも小さいことから、世界中に届けるという前提でビジネスしています。

 ─ 事業構造自体が変わってきているのですね。

 里見 そうですね。当社もその分野では、グローバルへどんどん出していこうと考えています。アニメでも同じですが、プラットフォームとしてNetflixやAmazon Prime、Disney+といったところに、われわれのアニメを提供すれば、世界中で観てくれます。

 前は一国一国まわって、各国のテレビ局ごとに交渉していったんですが、今はそういう配信プラットフォーマーと組めばすぐに広がります。コロナ禍で世界中の皆さんがアニメに触れやすくなり、日本のアニメも急伸しました。

日本アニメと映画などのCGアニメーションは違うマーケット

 ─ 日本のアニメ産業は強いと言われますが、世界において優位性を維持できますか。

 里見 アニメと映画などのアニメーションは実は似て非なるもので、世界でいうアニメーションの分野では映画興行がメインです。ここは中国やアメリカの方が圧倒的に強い分野で、CGでつくったアニメーションのように、映画館だけで1千億円、2千億円の興行収入を稼ぐ日本アニメはないんです。

 一方で、アニメといわれる2Dの手描き風のものは、日本発が圧倒的に強いです。ここは明確にマーケットが分かれています。デジタルディストリビューションプラットフォ―ムを含めた分野では、圧倒的に日本が強いです。尺も違います。

 映画だと1時間半から2時間ですが、アニメだと1シーズンになります。特に漫画をベースにしているものは長いです。その辺りは全然違うマーケットですからね。

 ─ 商売のやり方も違うということですね。

 里見 はい。でもそのアニメのおかげで、ゲームも同様に、世界中でマーチャンダイジングビジネスというのがものすごく過熱しているんです。日本でいう〝推し活〟です。

 自分のお気に入りのグッズを身につけるというのが、世界中で広がっていて、中国では谷子(グーズ)というグッズと似た中国の漢字を当てて盛り上がっています。ですから、セガストアの世界第1号店はあえて上海につくりました。

 上海は何年か前までは正規品でない偽物も出回っていた状況でしたので、オフィシャル商品は値段が全然違うからといってなかなか売れなかったんです。ですが、今の現地の若い人たちは、偽物を買いたくないという文化なんです。

 ─ これはどういう変化があると見ていますか。

 里見 偽物を身につけるよりも、正真正銘、本物をきちんと身につけたいという本物志向に変化しています。

 本物を応援することによって、よりよくお金も回って、さらに磨かれていくというような概念に変わったと思うんですね。それで一気に中国のマーチャンダイジングが進みました。

 ─ 面白い指摘ですね。これは中国の所得が上がってきたということも関係しますか。

 里見 もちろんありますね。多少所得が上がって、エンタメに割く予算が出てきていると。それと、知的財産に対する考え方も変わってきたと思います。

 知的財産を大切にしようという欧米的な発想ではなく、きちんと本物を身に着けたいという精神的なものから来ているということですね。それで一気に本物が売れるようになってきた。

 ヨーロッパや北米でアニメの人気が加速していて、そのグッズがほしいといったニーズも非常に大きいです。われわれもこれに応え、マーチャンダイジングビジネスを強化していきます。

 ─ 具体的にどう強化していきますか。

 里見 自社IP(知的財産)、例えばゲームから発祥したソニックなどは、できるだけファンのタッチポイントを増やしましょうというトランスメディア戦略を推進しています。ゲームでつくったファンに、次はそのIPの映画に触れてもらう、あるいはアニメで触れてもらう。

 それからロケーションベースエンタテインメント(アーケード、テーマパーク、ゲームゾーンなど、特定の物理的な場所で体験できるインタラクティブで没入感のある体験)といった形でリアルな施設で遊んでもらう。

 さらに、マーチャンダイジングを展開するといったことです。

 これだけの事業領域の広がりがあるということで、今マーチャンダイジングが劇的に伸びています。まさにサンリオさんと同じビジネスモデルです。当社のキャラクターのデザインをTシャツメーカー、ぬいぐるみメーカー、マグカップなど雑貨をつくる企業にお渡しして作ってもらっています。

 ─ IPを持つということが強みになっていきますね。

 里見 はい。そこが利益率も非常に高いですし、急激に伸びています。去年のクリスマスはアメリカでは小売店のウォルマート内で、ディズニーコーナーの横に、ソニックコーナーという専用棚までつくって、最上級の扱いをしていただきました。

 それだけソニックの人気も高まってきたと。こういったライセンスビジネスに、さらに磨きをかけていきます。(次号に続く)