
消費行動のパラダイムシフト〝目的型〟から〝発見型〟消費へ
中国発・動画共有SNSのTiktok(中国企業 Bytedance)にEC機能が組み込まれた「TikTokShop」が、25年6月から日本国内でスタートした。既に米国、英国、インドネシアなど15の国と地域で展開されており、世界での市場は5兆円規模になっている。
現在日本におけるSNS利用者数をみると、上位からLINE(9700万人)、YouTube(7120万人)、X(旧Twitter、6700万人)、Instagram(6600万人)、に次ぎ、TikTok(3300万人)は5番目。総務省調べでは、TikTokのユーザー層は35歳以下がボリュームゾーン。特に10代に至っては70%の利用率となっており、Instagram(利用率72.9%)に肉薄する立ち位置。
TikTokの特徴は、短い動画投稿で投稿のハードルが低いことと、独自アルゴリズムで拡散力に長けている点。
これまで商業的に利用する場合は、配信者が商品販売元のECへ誘導といった形で使われていた。しかし、今回開始した「TikTokShop」は、動画の中で紹介される商品が即座に購入できる機能を持ち、アプリ内で買い物が完結する。これにより、商品と出会ってから購入に至るまでのスピードが格段に上がる。
ユーザーにとってもストレスフリーな買い物をもたらす。例えば、インターネットで商品・サービスを検索し、いざ購入しようとするときに表示される「ログイン」や「新規会員登録」のページにうんざりしたことはないだろうか。このひと手間が購買意欲を削ぐことも多い。
おまけに久々購入する時にはパスワードがわからなくなり再設定手続きからやり直しということは、ネットショッピングには付物。「TikTokShop」ではそういったことから解放され、ユーザーの購買熱が高い状態で購入完了まで進む。
また、これまでは消費者がネットショッピングを行う際、「商品を検索→比較→購入」という流れを踏んでいたのが、この「TikTokShop」内では、自然と流れてくる動画から発見した商品を購入するというディスカバリー型の消費行動が生まれる。意図せずに出会った商品を買うということが生まれやすい。 つまり、ここでは価格競争ではなく、配信者への共感や、自分の潜在的な需要への刺激、思いがけないモノとの出会いなど、買い物の持つ楽しさにフォーカスされる。
さらに配信者が動画生配信中に、ユーザーはその場で質問をして双方向の会話が可能。店頭で店員と話しているような状況がつくり出される。購入にあたり不安要素や懸念点を解消し、安心して購入に進むことができる。
ライブコマース配信の様子。いつもグループは既に支援ノウハウを持つ
EC支援を行ういつも社のソーシャルコマース事業本部本部長の藤瀬公耀氏は、「動画は人の本能に訴えやすい。そのため、コスメやアパレル、食品などとの相性が特に良い」と話す。
例えば、化粧品は人によって発色の仕方や、肌に合うか、使用後にどんな変化があるのかが動画ではその場で明確に伝わる。自分と近しい肌質や悩みを持つ配信者がおすすめしている商品は、自然と親近感が湧き、消費行動に結びつけやすいのだという。
現在、ECショップの開設から商品登録、動画制作、販売、運搬まで一気通貫で支援を行う同社には、「TikTokShop」の問い合わせが急増中。新たな商品の販売チャネルとして産業界から注目が高まっている。
人軸での購入フックも
「ライブコマース(ライブ配信での販売)は、人軸でモノを購入するという消費行動も生じやすい。せっかくならこの配信者から買おうという気持ちが乗る消費は、購入単価も高く、リピート率も高い」と藤瀬氏。ライブ配信では特に、人間らしいやりとりが介在した買い物がされるようだ。
まだ始まったばかりのため課題が出てくるのはこれからだが、消費者側は本能的にモノの売買がされる中で、行き過ぎる消費には注意すべきということはあるだろう。非常に即時的な新たな消費行動のもつ弊害も考えられる。
また、不特定多数の人が使用するSNSでの買い物の安全性はどうだろうか。その点において、「TikTokShop」は販売登録者には厳格な審査基準を設けている。購入者の誤解を生む表現をしないように、ガイドラインも設けている。いつも社が行う支援では、配信者が薬機法などに触れる売り方をしないように管理や助言も行う。米国政府は利用者情報保護の観点からTikTokを禁止する動きもあり、利用には賛否両論あるのも事実。
「TikTokShop」到来により、ある種の孤独感があった目的型のネットショッピングが、「楽しみ」「体験価値」をより感じられる新たな発見型消費にアップデートされることは間違いない。
「これまで売れなかった商品が、ライブコマースでは1時間で売り切れることも多々ある」(同)というように、商品の販売経路が変えるだけで、新たな層に認知され売れるという事象も発生している。
世の中には良い商品がたくさん溢れている。大事なのは、その商品を求めている人、欲しいと思う人と出会わせマッチングできるかどうか。目的型から発見型の消費喚起で、日本経済の成長を加速させる新たな市場に期待したい。