米Amazonは7月14日(現地時間)、AIエージェントを活用した新たな統合開発環境(IDE)「Kiro」を発表、プレビュー提供を開始した。「spec-driven development(仕様主導開発)」というアプローチを導入。この手法により、要件定義から設計、実装、テストに至るソフトウェア開発の全工程を構造化し、AIとのより高度な協業を実現することを目指している。
AIコーディングツールの登場により、簡単な指示(プロンプト)だけでアプリケーションのプロトタイプを作り出す「バイブコーディング」が可能になった。しかし、コードを実際に製品としてリリースし、長期的にメンテナンスしていくには、仕様や設計の根拠となるドキュメントが不可欠である。たとえば、新たなメンバーがプロジェクトに参加する際、仕様書が存在しなければシステムの全体像を把握するのに時間がかかる。また、リリース後にバグが発見された場合でも、設計意図が文書化されていなければ、修正方針の判断が困難になる。Kiroは、このギャップを埋め、「プロトタイプから本番運用」への一連の流れに構造的な整合性をもたせることを目的としている。
Kiroの主な特徴は、「Specs」と「Hooks」という二つの機能である。
Specsは、開発者が入力した要望やプロンプトをもとに、AIが要件定義、設計図、タスク一覧などを自動生成する仕組みである。たとえば「商品のレビュー機能を追加したい」というプロンプトを入力すると、それに基づいて具体的な機能要件やユーザーストーリーが生成される。次に、その要件と既存のプログラム全体をAIが解析し、データフロー図、データベース構造、API設計などを含む技術設計書を作成する。さらに、タスクとサブタスクを生成し、依存関係に基づいて適切な順序で並べ、それぞれを要件と紐付ける。開発者はこれらのタスクを一つずつ実行し、進捗を確認しながら開発を進めることができる。こうした仕様はコードと同期しており、コードの更新に応じて自動的に仕様も更新されるため、ドキュメントと実装が乖離しにくい構造となっている。
Hooksは、開発作業中の定型業務を自動化する仕組みである。たとえば「Reactコンポーネントを保存した際にテストファイルを自動更新する」「APIエンドポイントを変更した際にREADMEを更新する」といった処理を自動で実行できる。Hooksはチーム全体で共有できるため、コードの品質や基準を組織的に統一する手段としても活用できる。
KiroはVisual Studio Codeのオープンソース基盤「Code OSS」上に構築されており、VS Codeの豊富な拡張機能や設定との互換性を持つ。 対応OSは、macOS、Windows、Linuxなど。
現在、無料プレビュー版として提供されている。プレビュー終了後は、無料プラン(エージェント機能:50インタラクション/月)に加え、月額19ドルのProプラン(同1,000インタラクション/月)、月額39ドルのPro+プラン(同3,000インタラクション/月)が提供される予定である。