東芝は7月4日、製造業向けのスマートマニュファクチャリング事業の取り組みについて説明した。また、製造現場における生成AIおよびAIエージェントの活用に関する方向性についても触れた。
150年以上にわたるモノづくりの知見を活かす東芝の「Meisterシリーズ」
同社では、製造業向けソリューション「Meisterシリーズ」をラインアップ。IoTとAIでスマートファクトリー化をサポートする「Factoryソリューション」、設備のリモート監視・自動制御や、現場業務のデジタル化を支援する「O&M(Operation & Maintenance)ソリューション」、持続可能な調達戦略とサプライチェーン強靭化を実現する「SRM(Supplier Relationship Management)ソリューション」、製造現場をクラウドにつないで、制御およびデータ連携を支援する「計装クラウドサービス」の4つの領域から製品化している。
東芝デジタルソリューションズ スマートマニュファクチャリング事業部 技師長の岸原正樹氏は、現状について次のように説明した。
「東芝自らが、グループ横断で生産拠点のスマートファクトリー化を推進している。クロスファンクショナルチーム(CFT)が生産拠点のIoT化やデジタル化、業務プロセス・システムの変革に取り組み、シナリオ策定、現場の見える化、管理の見える化の3つの活動を通じて、さまざまな事業所に展開するフェーズに入ってきた。製造業における設計、調達、生産、運用・保守のバリューチェーン全体において、東芝がメーカーとして培った150年以上にわたるモノづくりの知見を活かして、つながるモノづくりを実現し、ITとOTを融合した課題解決を目指している。これらの実績をMeisterシリーズに取り込み、業種や企業ごとにあわせたソリューションを提供していくことになる」(岸原氏)
東芝のスマートマニュファクチャリング事業は、「現場がつながる」「企業がつながる」「未来へつなげる」という3つのキャッチフレーズを打ち出しており、それぞれの観点から取り組みについて説明した。
“東芝ならでは”のスマートファクトリー化支援
「現場がつながる」では、2025年5月に発表した製造実行システムである「Meister MES NEO」について解説。これは東芝グループの製造デジタル化プロジェクトが定義したモノづくり標準を実装したMESソリューションであり、現場の最新の状況を把握し、生産指示や実績管理を行うことができるという。
岸原氏は「東芝グループでは、個別受注生産と大量生産の両方を持っている。ここで培った知見を生かして、多様な生産形態に対応している。また、ローコードツールを使ったカスタマイズが可能であり、ものづくりデータ統合基盤との連携も図る」と、同製品の特徴を示した。
製造指示や工程管理、作業計画などのデータを、ものづくりデータ統合基盤に集約。基幹システムとの連動によって、環境変化や市場ニーズに対して迅速な経営判断を実現し、競争力強化につなげることができるという。
同氏は「従来はデータの種別ごとに仕組みが異なったり、データの定義や粒度が異なったりしていたことで、データ活用に課題があったが、ものづくり統合データ基盤では、各工程のデータを、ひとつのデータ基盤で統合管理でき、さまざまな情報を組み合わせた管理により、活用したいときにすぐ使える。モノづくり企業である東芝が持つ業務プロセス変革の手法と、デジタルソリューションを掛け合わせることで、スマートファクトリー化を支援できることが他のITベンダーとは異なる」と、東芝ならではの特徴を強調した。
さらに、計装コンポーネント仮想化プラットフォーム「Meister Controller Cloud PLCパッケージtype N1」では、モーターなどの装置を現場に設置する一方で、制御ロジックはクラウドに実装する提案を行っており、これによりクラウドへのデータ蓄積とデータ活用を促進でき、AIとの連携などでもメリットが生まれるという。現在、アラヤ、フツパー、ASTINAといったスタートアップ企業との連携により、事業化に向けた探索を進めている段階にある。
幅広いサプライチェーンネットワークを管理
「企業がつながる」では、分散・連成シミュレーションプラットフォーム「Venet DCP」のユースケースを紹介。自動車業界におけるMBD(モデルベース開発)において、部品モデルを秘匿化しながら結合することで、車両モデルを構築できる点が特徴で、多様なシミュレータと接続し、企業の枠を超えて共同デジタル試作を行える点をアピールした。
また、独エンジニアリング大手のIAVとの連携により、AD/ADAS(自動運転/先進運転支援システム)システムの型式認証のシミュレーション試験システムを共同開発。IAVの「Mela」を通じて、生成AIによってテストシナリオを生成し、これをVenet DCPと組み合わせて、自動運転システム仮想検証環境を実現し、今後はグローバルに展開していくという。
一方、戦略調達ソリューション「Meister SRM」は、バイヤーとサプライヤーのコミュニケーション基盤となるクラウドサービスで調達施策に応じて必要なコンポーネントを選択して導入が可能になる。ここでは、電子見積の内容をAIを使って分析し、価格の妥当性なども判断できることも示した。すでに、バイヤーでは30以上の企業グループが導入し、サプライヤーでは1万社以上が導入しているという。
また、サプライチェーンプラットフォームである「Meister SRM ポータル」は、一次サプライヤーや二次サプライヤーにまで遡ったコミュニケーションが可能になり、環境情報の収集や、BCP(事業継続計画)に関するリスク管理に生かすことができるという。
岸原氏は「幅広いサプライチェーンネットワークを管理できるようになると、災害による影響などを把握して、迅速な初動につなげたり、サプライチェーンのボトルネックの把握が可能になったりする」と話す。
カーボンニュートラルとIoT
「未来へつなげる」では、カーボンニュートラルの事例について説明。工場・プラント向けアセットIoTクラウドサービス「Meister Operate X」を東芝グループで活用し、成果をあげていることを強調した。
同社の府中事業所(東京都府中市)に「エネルギー・CO2見える化ダッシュボード」を導入し、エネルギーマネジメントに適用。製造棟の設備やエネルギーの利用状況をサイネージに表示し、社員にエネルギーの課題を気づかせて、省エネと生産性、快適性の実現を目指しているという。
また、横浜事業所(横浜市磯子区)では、コジェネレーションシステムによる動力設備の最適運転に活用。経験則に基づいて属人化していた運転計画の立案を、データをもとにした立案へと脱却することを目指している。
さらに、設備・機器メーカー向けアセットIoTクラウドサービス「Meister Remote X」により、製品ライフサイクルを通じた価値提供を実現。遠隔監視や故障予兆、リモートログインによる保守の効率化や、PLMとの連携、ソフトウェア配信による設備の高度化、アセット管理シェルに対応したデータ基盤により、設備の包括管理が可能になる。
同氏は「ソフトウェアデファインドの実現に向けた配信が可能になる」としている。東芝ではMeister Remote Xを活用して、エレベータ向けのクラウドサービス「ELCLOUD」を提供。制御盤をソフトウェアデファインド化することで、日々アップデートし続ける昇降機やビルを実現しているとのことだ。
製造業向けの生成AI、AIエージェントの活用策
一方で、製造バリューチェーンにおけるAIの活用についても触れた。岸原氏は「東芝は50年前に、世界初の郵便番号の自動読み取り区分機を開発し、文字認識の技術を活用。その後、さまざまなプロダクトにAI技術を取り込んできた。世界トップクラスのAI技術を持っており、特許も多数保有している。特に教師なし画像分類技術の『IDFD』(Instance Discrimination and Feature Decorrelation)や、顔・人物認識、電力需要および再エネ発電量予測では高い評価を得ている。これらの技術を、製造業向けのスマートマニュファクチャリング事業にも取り込んでいる」とした。
設計ではドキュメントの利活用、リバースエンジニアリングにAIを活用。調達では調達価格の推定、製造では知見やノウハウの継承、画像認識による品質確認などに活用している。
具体的なソリューションについても説明した。Meister Appsの1つとして提供している「現場作業見える化パッケージ」では、スマホ、ヘッドセット、リストバンド型センサー、ビーコンをセットにし、作業者から収集した作業データをもとにAIを活用して分析し、作業行動の変更や生産ラインの改善などに生かすことができる。
同氏は「作業者ごとに1日のレポートを出力し、終礼や翌日の朝礼で、振り返りが可能になる。作業員のレベルアップにもつながる」とした。
3D CADデータ活用ソリューション「Meister MR Link」では、設計データとタブレットを活用した目視検査の作業を支援。岸原氏は「3D CADデータから3Dモデルを作り、作ったモデルと実物を重ね合わせて、タブレット上に表示することができる。MRとAIの技術により、実寸治具を作ることなく、品質確認ができる」という。ここには、東芝の映像解析AIである「SATLYS」を活用し、自動判定支援を行っているという。
また、Meister Appsの「AI画像自動検査パッケージ」は、AIで自動生成した閾(しきい)値によって、過検出を低減しながら、外観検査を自動化できるもので、過検出した画像も、新たに設定した最適化した閾値によって再判定することで、過検出の削減につなげることが可能だ。
岸原氏は「良品画像の学習のみで判定パラメータを自動定義することで、過検出を抑制できる。一度検査したものに対して、再検査する際にも適用できる。軽量なPCで検査ができ、一般的なAI画像検査システムと比較して、柔軟な構成によって提供が可能になる」と説く。
生成AIを活用した開発中のソリューションとして、分析結果や設備マニュアル、過去レポートを対話AIの回答に利用する事例を紹介した。先にも触れた現場作業見える化パッケージの1つとして提供するもので、製造現場におけるベテランの知見やノウハウを共有、活用し、効率的に継承することができる。
同氏は「現場作業で利用できるようにするため、ハンズフリーで、音声での質問を認識し、音声で回答する仕組みとなっている。製造現場でのトラブルへの対応や、滅多に生産しない製品であるため、作業手順を覚えていない場合などに利用できる」という。
AIエージェントの活用では、Meister Appsで提供している「工程改善アシストパッケージ for SMTライン」を紹介。
基板製造ラインにおいて、装置ごとに異なるログデータを収集し、ダッシュボードに表示して、メーカーごとに異なる設備データを一元管理し、AIエージェントが工程の課題を抽出するとともに、分析し、原因を推定しながら改善を提案している。他のAIに指示をしながら、解決策を導き出すことができるという。これにより、メーカーや設備に依存しない工程改善の仕組みを構築できるとしている。
岸原氏は「東芝グループで培ってきた基板製造の知見を盛り込んだAIエージェントにより、改善提案やトラブル調査、対策提案を半自動化できる。精度をさらに高めて、お客様に提供していくことになる」と述べている。
また、同氏は「東芝では、これまで蓄積したAI技術の活用を加速するとともに、今後はフィジカルAIにも取り組む」とも話す。東芝が持つモノづくり現場でのノウハウと、AIを組み合わせた製造業向けスマートマニュファクチャリングの新たな提案が、現場課題の解決に貢献することになる。
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