《 値付けをどう考えるか?》コンビニの価格戦略から見るコメ問題解決の『落としどころ』

日々の生活の中での 『メリハリ消費』が定着

「昨今のコメ価格高騰を背景に、お客様がコメを手に取りにくい状況が続いている。コメ離れの不安の声も上がる中、こうした状況だからこそ、美味しいコメを日々の食事の中で手軽に味わっていただきたいという思いから(今回のセールを)実施した」

 こう語るのは、セブン‐イレブン・ジャパン取締役執行役員商品本部長の羽石奈緒氏。

自民党幹事長・森山 裕が語る―コメ価格と消費税問題―

 セブン‐イレブン・ジャパンが主力商品の「おにぎり」などを期間限定100円(税別)で提供。6月11日から14日までの4日間限定で、通常価格(いずれも税別)170円の商品が100円に、171~200円の商品は150円、201~300円の商品は200円に値下げして販売した。対象となるのは、おにぎりや寿司などの約40アイテム。100円セールは2020年以来5年ぶりの実施である。

 ただでさえ物価上昇が続く中での値下げセールの実施。足元の消費環境について、羽石氏は「物価高の影響で節約志向は続いているが、〝多少高くても美味しいものを食べたい〟等のニーズや、〝推し活〟といった好きなものには惜しみなくお金を使うこともあり、日々の生活の中での『メリハリ消費』が定着していると見ている」ようだ。

 親会社セブン&アイ・ホールディングスの前期(2025年2月期)業績を見ると、国内コンビニエンスストア事業の営業収益は9041億円(前年同期比1.9%減)、営業利益2335億円(同6.8%減)と減収減益だった。

 一方、ローソンの営業利益に相当する事業利益は1050億円(同11.7%増)、ファミリーマートは850億円(同1.5%増)で、いずれも増益を確保。まだまだ利益水準ではセブンの足元に及ばないとはいえ、業績に明暗が分かれた。

 要因は価格対応の遅れだ。

 セブンと言えば、高品質の商品づくりに定評がある。ただ、このところの物価上昇局面において、消費者の中で〝セブン=割高〟と感じる人が増加。消費者の節約志向に対応できず、昨夏には当時の永松文彦社長が「低価格対応が半年ほど遅れてしまった」と反省。9月以降から価格対応型商品『うれしい値!』の販売強化で、消費者の節約志向に対応してきた。

 同社では近年、社内で商品の価格帯を「松・竹・梅」で分類。昨年は下期以降、低価格商品「梅」の品揃えを強化。その象徴が『うれしい値!』の強化だった。

 同社の24年度下期の商品構成は、高価格帯が19.4%、中価格帯が41.7%、低価格帯が38.9%。しかし、25年度は「得意とする高付加価値商品を改めて強化し、売上と粗利を共に成長させていく」(永松氏)と方針転換。高価格帯と中価格帯の商品構成を増やし、高価格帯28.6%、中価格帯48.6%、低価格帯22.9%とする方針だ。

 こうしたことから現在、同社は「『竹』に該当する定番商品の磨き込みに改めて注力しており、価値と価格のバランスの良さを実感できる商品の開発を引き続き行う。お客様の利用シーンに合わせて、選べる品揃えを目指していく」(羽石氏)考えだ。

値付けは本当に難しい…

 コメの価格高騰が大きな問題となる中、コンビニ各社の値下げセールが相次いでいる。

 ファミリーマートは6月末までの3週間限定で、国産コシヒカリを使用したプライベートブランド(PB=自主企画)商品の銘柄米2品を300円引きで販売。この他、メジャーリーグの大谷翔平選手がホームランを打った試合に限り、X(旧ツイッター)の公式アカウントを登録したユーザー先着1万名に対し、おにぎり全品が50円引きとなるクーポンを配布している。

 また、この6月で創業50周年を迎えたローソンも、おにぎりや弁当など41品について、価格据え置きで具材や容量を約50%増量した『盛りすぎチャレンジ』を実施するなど、各社とも、あの手・この手で消費を喚起しようとしている。

 ローソン理事執行役員商品本部統括部長(デイリー担当)の友永伸宏氏は「物価高騰でどんよりしたムードの中、お客様に何かお得な、しかも、お得だけでなく、50%増量ということで、かなり迫力があり、一目見てワクワクするような商品を提供したいと考えた」と語る。

 現在はコメの価格が昨年の2倍近く高騰しており、消費者からは値下げを求める声が増加。コンビニ各社もそうした声に対応している形だが、一方で「コメ5キロで3000円台でないと、生産農家のコストが見合わない」という声があるのも事実。

 もちろん、一消費者としては値段が安いのは有難いが、農家の生計を考えると値下げだけでは、根本的に農業問題を解決するのは不十分。生産者と消費者が共存共栄できるような農業政策が求められている。

 今のコメ騒動を見ていると、改めて、〝値付けの難しさ〟を考えさせられる。

 マクロ的な観点では、物価上昇を価格転嫁し、賃上げにつなげ、消費を拡大する─という好循環を生み出し、デフレ脱却へつなげることが理想。しかし、物価高に賃上げが追い付かない現状では、消費者の財布の紐は堅いままだ。

 ある小売業幹部は「値付けは本当に難しい。安いだけでは会社の利益は出ないし、社員の給料も上げられない。お客様が安いと感じていただける最も高い値段を考えることが究極の値付け」と、値付けの難しさを語る。

 生産者、小売り、消費者の三者が共存共栄できる価格とはいかにあるべきか。そして、流通各社はどのような値付けをし、消費を喚起していくのか。利害が絡む中での解決策づくりだけに、各社の模索は今後も続く。

財布の紐が固い中での最高益、 ローソンが手掛けるマーケティング戦略