今回のコメ問題を考える 【私の雑記帳】

当座の打つ手とは別に…

 新しい『国のカタチ』を創る時に、どういう姿勢で臨むべきか。また、世論形成の上で、リーダーはどう振る舞うべきか─。

 当座の苦しみを和らげるために打つ手はあるとして、それは中長期視点から見て、正当なものか、今風の言葉でいえば、サステナビリティ(持続性)のあるものなのかどうか。その視点から、リーダーは決断を下さなければならない。

 中長期視点で新しい国家像を創り上げるには、国民(消費者)に痛み、苦しみを伴うことがある。その痛みや苦しみを全国民が共有できるかどうかも問われる。

『令和の米騒動』はなぜ、起きたのか?

 消費者の立場からすれば、今、5キログラムで1年前に比べて約2倍の4000円台に高騰していることへの〝怒り〟である。諸物価が上がり、需要が供給を上回るインフレ状況が様々な領域で起きている。

 その中で、米(コメ)の価格は突出してハネ上がっており、消費者の怒りのターゲットになっている。

 政府は、備蓄米の放出に踏み切ったが、なかなか救いの手にはならず、米に関して不適切な発言をした江藤拓・農相を更迭して、小泉進次郎氏を新農相に据えた。

「5キロ当たり、2000円台にする」と小泉新農相は打ち出し、〝随意契約〟なる手法で、政府が直接、小売り会社やネット通販会社に米を売り渡し、事態の沈静化を図ろうとしている。

米騒動の歴史

 歴史を見ると、過去にも米騒動は起きている。1918年(大正7年)富山県魚津で起きた騒動はたちまち全国に広がり、暴動が起きた。神戸では大手商社の鈴木商店本社が焼き討ちに遭っている。

 第一次世界大戦後の好景気で米需要が急増する反面、生産量は伸び悩んでいた。時の〝シベリア出兵〟を見こして米が買い占められ、大阪・堂島の米相場は急騰した。

 近年では、1993年(平成5年)、フィリピンのピナツボ火山噴火が原因と見られる記録的な冷夏で米不足が起き、「平成の米騒動」と呼ばれた。

 米騒動は歴史的にも、世界の動揺、戦乱を背景に起きている。

備蓄米の放出にも限度

 今回の〝令和の米騒動〟は、日本の農業のあり方を探る好機とも言えよう。

 消費者にとって、米価が下がることは当然、歓迎すべきことだが、一方で生産者(農家)の生産コストをまかなえる米価はどれ位なのかという視点も不可欠だ。

「米の流通機構は複雑」─。米は、JA(集荷)、卸売会社を通じて、スーパーや米店などの小売業者に渡り、消費者の手に届く。

 現在、生産段階では5キロ当たり1500円で受け渡しされているが、それが小売段階で4500円にハネ上がっているのはなぜか─というところに、今回の米騒動の原因がある。

 江藤前農相時に、備蓄米(21トン)を放出しても、小売段階に7%しか届かなかったこともあって、米の流通の複雑さが問題視された。

 そこで、手っ取り早く、〝随意契約〟で政府所有の備蓄米を直接、スーパーやネット通販会社に売り渡すというのが小泉農相の考え。これで、消費者の反発を和らげる効果が一定程度あると思われる。

 しかし、これは長続きする案ではない。通常、備蓄米は年100万トン程しかなく、「無制限に放出」といっても、限度がある。年間約700万トンの米の需要にどう対応するかという点では、あくまでも当座の対応でしかないということ。

 となると、農政の基本策をどう構築していくかということになる。

農業の基本政策は?

 米は日本の主食であるが、人口減、少子化・高齢化もあり、毎年10万トンずつ需要は減少。これには、食の多様化により、パスタやうどんなどの麺類の需要が増えているという背景もある。

 その点では小麦と米の〝連携〟をどう図るかという視点も必要だ。

 さらには、1970年(昭和45年)以来の〝減反政策〟をどうするかという視点も重要。半世紀前に米の生産過剰を抑制しようと始まった減反政策は、2018年(平成30年)に廃止されたが、転作などの補助政策もあり、減反は実質続いているという見方もある。

 今こそ、わが国農業の基本政策、食料戦略を定める時である。

「要は、バランスをどう取っていくかが大事」と自由民主党幹事長の森山裕さんは語る。

「世界的な人口増加や気候変動などによって、農林水産業を取り巻く環境は大きく変化しています。持続可能な農業と食料の安定供給を実現していきたい」と食料安全保障の確保が大事と森山さんは説く。

 生産農家の数は約57万世帯(経営体)。10ヘクタール(10町歩)以上を生産する農家は2万3000経営体しかない(全体の4%)。できるだけ「広い所で生産していく体制づくり」を目指すという考え。

 一方で、中山間地の棚田の米作りをどうするか。「棚田は小さなダムの役割を担い、国土保全の役割もある。それと比較的いい水で米を生産するので、美味しい米ができます。でもコストがかかる」と森山さん。

 米作りも二極化が進む中で、バランスをどう取っていくか。生産農家の平均年齢は69歳で、10年後には米の作り手がいなくなるともいわれる。

 生産農家、流通、消費者が共存でき、さらには先進国の中で最低といわれる日本の食料自給率(38%)をどう高めていくか。まさに日本の正念場である。

内野経一郎さんの著作

 硯学の弁護士・内野経一郎さん(1936年=昭和11年生まれ)が〝草の根の体験的日本文明論〟とされる『町辯の祖國讃歌』を刊行された。

 内野さんは鹿児島県生まれで、宮崎市で小・中・高を過ごし、中央大学法学部に入学。1962年(昭和37年)に司法試験に合格、司法修習を経て、1965年に弁護士登録。以来60年間、『町辯』(町の弁護士)を自称され、依頼人に寄り添う弁護士活動をされてきた。  世界の動き、政治、経済のあり方、ありとあらゆる社会現象に関心を寄せられ、社会活動もしてこられている。

 今回の著書『祖國讃歌』は青春期からの思索を含め、人類の起源から文明・文化、宗教論まで、実に幅広い領域にまたがり思考されている。日本文明を中国文明の亜型とするトインビー説に対し、サミュエル・ハンチントンも認めたように、中華文明、イスラム文明、西欧文明などと並んで『世界八大文明』の一つが日本文明という認識を示しておられる。もっと言えば、〝一国一文化一文明〟と呼ぶべきものとしての論の展開である。

 ともかく、内野さんの学識、見識は広い。古事記、日本書紀、からごころ、やまとごころといった記述もふんだんに登場し、神道、仏教、儒教を包摂してきた日本文明の本質に触れることができる。  ぜひ、ご一読をお勧めしたい。