ニッセイ基礎研究所・チーフエコノミスト矢嶋康次が直言「重要なコメをどう守るのか」

 コメの値段が高い。世の中の物価は上がっているとはいえ、コメ価格高騰は異常である。1年で倍になっている。

 この問題で不思議なのは、論じる人によってコメは「足りていない」という人と、「足りている」という人がいること。足りている人は流通がネックになっているとしている。政策はエビデンスに基づいて行われるべきだが、事実はどちらなのか。

 またコメ高騰に苦しんでいる国民が不思議に感じるのは、流通で根詰まりが起こっているのなら、小売業者に直接政府備蓄米を放出すれば消費者の購入価格は下がるはずである。

 なぜ業者を通してしか放出ができないのか。コメの価格が高いままでいい人がたくさんいるとしか思えない。政府はコメの価格が高いと本当に思っているのかと疑いたくなる。

 コメ高騰の問題は長年わかっていた構造を放置していた結果の面もある。2000年には約950万トン近くあった玄米ベースの収穫量は、現在では約700万トン前後にまで落ち込んでいる。2000年代前半から民間在庫(玄米ベース)は200万トン前後を維持してきたが、直近では、200万トンを大きく下回る水準になっている。23年と24年は20―40万トン程度減少しているようだ1。需要がちょっと盛り上がり、天候不順などで不作となると、すぐコメ不足が発生してしまう構造になっている。

 これだけコメ価格が高騰すると、他作物への転作助成金の交付により稲作をあきらめてきた農家が何割かは戻るかもしれない。

 しかし、農業従事者は111万人程度、ただ毎年5万以上のペースで減少している。農家の平均年齢は69.2歳である。そう遠くない未来に農業従事者は極端に少なくなる。

 零細兼業農家は担い手不足で農業を続けられない。大規模農業に転じた事業体は、人手不足できめ細かな農業ができなくなってきている。供給力回復は難しい。

 どうしたらいいのか。市場性を相当強め生産者に魅力的な価格形成をしないとだめだろう。政府主導による生産調整は、市場原理による価格形成や生産者の自律的な経営判断を妨げる要因となってきた。政府の「適正生産量」提示を廃止し、より市場に委ねた柔軟な需給バランスの形成にしないといけない。加えて、他作物への転作助成金を含むインセンティブ制度も見直しが求められる。

 農業の持続的発展には、次世代の担い手確保と、就労者に魅力的な市場形成が重要な課題である。

 ただ、これらの課題は相当昔から指摘されている。経済安全保障や国土保全面からもコメの重要性が急速に高まっている。課題放置から解決にもっていかないと、間に合わない状況になっている。コメ高騰を課題解決のチャンスにしなければいけない。