
価格安定化を実現しなければならないのと同時に…
─ コメの価格高騰が大きな問題になっています。小泉進次郎・農林水産大臣が随意契約で備蓄米を売り渡すなどの対応を進めていますが、今回の一連のコメ問題をどのように受け止めていますか。
森山 コメの価格が急騰していることに関して、国民の皆様にご心配とご迷惑をおかけし、大変申し訳なく思っています。
コメは非常に大事な穀物であり、日本は瑞穂の国ですから、しっかりした政策が無ければならない。コメの一番大きな特徴は田んぼの広さによって生産コストが大きく変わってくるということです。
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例えば、令和4年のデータによると、60㌔の米をつくる生産コストは、2㌃(1㌃は100平方㍍)で1万3553円。これが1㌶(1万平方㍍)になると9436円になるんですね。つまり、水田の広さによって3割くらいコストが安くなるということで、われわれは政策として、できるだけ区画を広くしようと言っています。
─ 大規模化で生産コストを安くしていくと。
森山 ええ。日本の農家の全体像を見ますと、コメ農家は約57万世帯(経営体)あって、ここで10町歩以上生産している農家は2万3000経営体で全体の4%しかありません。1町歩未満のところは35万8000経営体で、全体の62%を占めています。ですから、できるだけ広いところで生産していただけるように移していくことが大事だと思っています。
ただ、ここで問題になるのは、中山間地の棚田ではもうコメをつくらないのか?ということになると、棚田というのは小さなダムの役割があるんですよ。国土保全の役割も大きいわけです。それと比較的いい水でコメを生産するので、美味しいお米ができるんですね。でも、一方でコストがかかると。
ですから、二極化と言いますか、広さとつくる場所で生産コストが変わってきますので、そこのバランスをどう取っていくか、ということなんですね。
─ そうなると、どのような手立てを打っていきますか。
森山 一つは、できるだけ広いところでつくってもらうために予算をしっかり投入していくと。あとは中山間地の集落の維持を考えても、コメをつくれるところはつくっていただかなければならないと思っています。
─ 日本は長く減反政策を続けてきたわけですが、そうなると、これを見直すということにもつながってきますね。
森山 一応、2018年に減反政策は廃止ということになっているんですが、一方で日本のコメの消費量は毎年10万㌧ずつ減ってきています。その辺を考えると、コメができすぎると値段が下がって再生産が危うくなりますので、バランスよく考えなければなりません。
石破茂総理はお米5㌔あたり3000円台にすると言っていますが、今の物価の基準で考えますと、農家の方々もいくらか利益が出る水準だと思います。
─ 今は足元のコメの値段の話ばかりの議論になっていますが、農家の所得をどうするか、再生産できるにはどうするかをもっと議論しなければならないということですね。
森山 はい。ですから、今はコメの価格の安定化を実現しなければならないと同時に、農家の皆さんに引き続きお米をつくっていこうと思っていただけるよう、再生産できる適正な価格で取引される仕組みづくりも進めていかなければならないと思っています。
当然ですが、われわれは生産者の方たちがいて初めてお米ができるんだということを忘れてはなりません。安ければいいというのではなく、生産者が安心してコメを再生産でき、消費者にいつでも安定的にお届けできる価格こそ、われわれが目指すべき方向性だと思っています。