
「メンバーから『仕事が面白い』とか『この会社で働けてよかった』という言葉をもらったことが一番嬉しかった」─インターグ社長の那須氏はこう話す。
2024年11月に上場を果たしたインターグは、生命保険や住宅ローンなど、様々なサービスを「比較」するサイトを運営している。競争の激しい領域だが、「一人の幸せから、世界を変える。」をコーポレートミッションに顧客の視点に立った事業を意識している。同社の経営を探ると。
キックボクシングへのチャレンジを経て
─ インターグは保険の比較サイト運営などデジタルマーケティング事業を手掛けていますね。2024年に上場を果たしたわけですが、那須さんが起業した動機を聞かせて下さい。
那須 私は新卒であずさ監査法人に入所しましたが、仕事は面白かったですね。公認会計士として上場企業や外資系企業の監査を担当していたのですが、若手ながらも社長さんなどと対話をする機会があり、学ぶことが多くやりがいを感じていました。
─ その過程で自分で起業したいという気持ちが募ったわけですか。
那須 まずはキックボクシングに打ち込みたかったというところが大きかったです。学生時代にはやっておらず、監査法人に入ってから始めました。同期の人間がジムに通っており、私も興味を持って通い始めたのですが、やっていくうちにどんどんのめり込んでいきました。
─ キックボクシングの魅力は?
那須 ダイレクトに結果が返ってくることです。練習すればするほど強くなりますし、勝ち負けもはっきり出るところが面白かったですね。
元々、スポーツは好きで学生時代にバスケットボールなどにも取り組んだんですが、どれも辞めてしまっていました。社会人になってからも、どこかで何かやりたいと思っていたんです。
そうしてキックボクシングを始めたところ、自分に合っているのではないかと感じました。プロの選手が多く在籍しているジムで、始めた当初から一緒に練習させていただく機会も多かったのですが、意外と自分もできるのではないかと思う場面もありました。
ただ、監査法人に勤めていると、年次が上がるごとに責任も増え、忙しさも増してきますから会計士とキックボクシングの両立が難しくなってきました。その中で、若いうちに本格的にキックボクシングをやりたいと考え、悩んだのですが監査法人を退職しました。
ユーザーに求められるコンテンツづくりを
─ そこからインターグの起業につながるわけですか。
那須 キックボクシングに打ち込むために、独立して働きたいという思いがあり、そこで何をやろうかと考えた時に、候補になった中の1つがデジタルマーケティングでした。ですから監査法人を辞めた後、今のインターグの原型になるような事業を自分で始めたんです。
たまたま、私の知人がデジタルマーケティングの業界にいたこともあり、その人に話を聞いたところ、自分でもできるのではないかと考えて始めました。
キックボクシングと共通する部分もあり、自分がいいものをつくれば直接売り上げとして返ってくるんです。最初は自信はありませんでしたが、自分のキックボクシング中心のライフスタイルを実現できるということでチャレンジしました。
そうしてプロのキックボクサ―としてデビューしました。ただ、プロ1戦目は勝利したのですが2戦目で敗戦し、その時に負った怪我がきっかけで試合をすることができなくなり、残念ながら引退しました。
─ 今は生命保険などの比較サイトの運営をしていますね。
那須 ええ。生命保険の他、住宅ローンやカードローン、証券、人材エージェントや脱毛クリニックなど、様々な分野を扱っています。
ユーザーさんが、どのサービスがいいのだろうかと比較検討されている際に、その購買意思決定を手助けするようなコンテンツを提供しています。
ユーザーさんが何を求めているか、どうすれば助けになるかという部分が広告の運用や、コンテンツの制作の基本になると考えています。
─ この分野には競合も多いと思いますが、インターグの強みは?
那須 目先の利益を目当てに聞こえや見栄えの良さを優先するようなことはせず、本当にユーザーさんに求められる、良いコンテンツ、広告をつくることが、競争優位につながると考えています。
その考えで成果を確実に出し続けていることで、広告を掲載している企業さんからの信頼を得られていることも強みだと思います。
さらに、長期的に、広告面だけでなくサイトの改善や、営業面など付随した仕事が出てきます。それらの要素が向上していくと、新規の競合企業さんは、すぐには弊社のポジションに追いつくのは難しい。その長期的な信用、信頼がストックになっていると考えています。
メンバーの個性を統合し新たな価値を生み出す
─ 「一人の幸せから、世界を変える。」をコーポレートミッションにした思いを聞かせて下さい。
那須 この「一人」には2つの意味があります。1つは働く社員、1人ひとりの幸せです。もう1つが実際にサービスを使っていただくエンドユーザーさんの幸せです。
デジタルマーケティングはどうしても相手が見えませんが、我々がコンテンツを提供する先にユーザーさんがいらっしゃることを想像し、その心から考えていくという思いがあります。
例えば、広告を出すにあたっても、その広告をクリックして、実際に弊社のウェブサイトを使われるユーザーさんが1人ひとりおられるわけです。そのことをきちんと想像して、ユーザーさんが何を求めているか、そのインサイトは何なのかを考えて仕事をしていこうということを意識しています。
─ 改めて、上場から半年近くが経ちますが、どういった思いを持っていますか。
那須 例えば、こうして取材をしていただくことも、上場があったからなのではないかと感じる部分があります。外部の方々からご注目いただく機会は増えたのではないかと考えています。
改めて、先程申し上げた社員1人ひとりを幸せにするような、働きがいのある会社にしていきたいという思いを強く持っています。
当社では、「仕事のポストに人を充てるのではなく、その人が強みを最大化できる仕事やポジションをつくる」という考え方で組織体制を組んでいます。
さらに、人事評価にあたっては、数値での評価や組織内での相対的なランク付け(レイティング)をしない「ノーレイティング」を導入しています。
─ 社名をインターグとした理由は?
那須 インターグ(Interg)という社名は、「多分野にまたがる」という意味の「Interdisciplinary」と、「統合する」という意味の「Integrate」を掛け合わせた造語です。
「多分野にまたがる力を統合して、新たな価値を創造する」という思いを込めています。さらにもう1つ、「誠実」(Integrity)という意味も込められています。
社員1人ひとりの強み、個性を存分に生かせるような会社にしたいという思いがあり、各メンバーの強みを統合することで、新たな、大きな価値を生み出していきたいと考えています。このことは社員全員に伝えていることです。
また、人材の採用に関連して、当社に興味を持ってくださる方々を対象に24年7月から「カジュアル面談」、「オフィスツアー」を開始しました。
このカジュアル面談は採用選考とは一切関係ありませんが、面談を通じて当社への理解、関心を深めていただき、もし採用選考への応募の意思を持っていただけた場合には、正式な選考プロセスに進んでいただくことが可能です。こうした取り組みも含め、人事制度のさらなる充実を図っています。
「可能性の追求」を「根本関心」として
─ 起業してから現在までの中で、嬉しかったことは何ですか。
那須 メンバーから「仕事が面白い」とか「この会社で働けてよかった」という言葉をもらったことが一番嬉しかったですね。
─ 本社を東京・六本木に置いている理由は?
那須 監査法人時代に六本木に勤務していたことと、グーグルさん、ヤフーさんの広告を利用することが多いのですが、我々が創業した当時、両社ともに六本木にあり、非常にアクセスがよかったことが理由です。それ以降、そのまま六本木に本社を置き続けているという経緯です。
─ 今、何か健康に気をつけていることはありますか。
那須 今はキックボクシングの代わりにジムでトレーニングを続けていることと、トライアスロンに挑戦しています。昨年、初めてレースに出場し、2つのレースで完走することができました。
─ 好きな言葉は何ですか。
那須 人は苦労や困難を乗り越えることによって、成長し大成するものだという意味の「艱難汝を玉にす」という言葉を胸に留めています。
また、社内では「根本関心」という言葉を言っています。根本関心とは、その人が心の底から関心のあることです。メンバー1人ひとりが、自分の根本に何かを持っていると思いますが、私で言いますと「可能性の追求」を根本関心にしています。
キックボクシングへの挑戦もそうですし、この会社を起業したことも、自分の可能性を追求するという関心から来ているのではないかと考えているんです。
私自身もそうですし、メンバーにも、自分の根本関心に沿った仕事をしていこうということを、常々伝えています。
また、読書も好きです。1人でじっくり本を読んで考えるのは貴重な時間です。仕事に関係するマーケティング領域の本を読むことが多いですね。
一橋大学ビジネススクール特任教授の楠木建さんや、刀のCEO(最高経営責任者)である森岡毅さんの著書などはよく読みます。
─ 慶應義塾大学の総合政策学部の出身ですが、大学時代に学んだことは生きていますか。
那須 学部のコンセプトが、様々な領域をまたがって、1つひとつの課題を解決していこうというものでしたから、様々な領域の勉強をすることができましたが、その中の1つが今の仕事につながるマーケティング関連でした。
それ以外にもファイナンスなど、既存の学部であったら学ぶことができない分野も勉強できました。
─ 社員の方々を見ていて、伸びている社員はどういう人だと感じていますか。
那須 素直と言いますか、我々がよく使う言葉で「コーチャブル」(Coachable)というものがあります。
何か他の人から提案を受けたら、一旦、自分の固定観念を捨てて、まずは試してみる。そういった姿勢の人が伸びているなという実感があります。
もう1つは逃げない人です。社内でも「他責にするのではなく、自責で考えよう」ということを常に伝えています。