T2は6月9日より、酒類・飲料の物流子会社であるアサヒロジ、キリングループロジスティクス、サッポログループ物流、サントリーロジスティクスの4社とともに、T2が開発した自動運転トラックを用いて、関東から関西までの高速道路の往復路で4社の製品をそれぞれ幹線輸送する実証を開始し、輸送の有効性と具体的なオペレーションを検証することを発表した。

実証の開始に先立ち、T2および4社は「自動運転トラックを用いた酒類・飲料輸送の実証について」の記者発表会を開催。

T2 代表取締役CEOの森本成城氏のほか、アサヒロジ 代表取締役社長の児玉徹夫氏、キリングループロジスティクス 代表取締役社長の小林信弥氏、サッポログループ物流 代表取締役社長の服部祐樹氏、サントリーロジスティクス 代表取締役社長の髙橋範州氏が出席した。

  • T2のレベル2 自動運転トラックをバックに(写真左から)アサヒロジ 代表取締役社長の児玉徹夫氏、キリングループロジスティクス 代表取締役社長の小林信弥氏、T2 代表取締役CEOの森本成城氏、サッポログループ物流 代表取締役社長の服部祐樹氏、サントリーロジスティクス 代表取締役社長の髙橋範州氏

物流業界が直面する社会課題

T2 代表取締役CEOの森本成城氏は、「2024年問題」を背景にトラックドライバー不足が深刻化する中、2030年には輸送能力の34.1%が不足し、「それによって大きな経済損失が起きる可能性」を指摘した。

同社は、「レベル4 自動運転技術の活用により世界最高水準である日本の物流をともに支える」ことをビジョンとして掲げているが、特に「共に支える」ということにこだわっている。「自動運転などの新しい技術によって何かを壊すわけではなく、これまで日本の物流を支えてこられた関係者の仲間に入れてください、一緒に支えさせてくださいという思いを強く持っております」(森本氏)

  • T2 代表取締役CEOの森本成城氏

T2では、自動運転の開発だけではなく、運送事業までを手掛け、顧客(運送会社・荷主)の集約拠点間の運送事業を展開。自動運転区間は高速道路や専用道を想定し、高速道路の出入口付近に切替拠点を設け、有人から無人、無人から有人への切り替え、あるいは荷物の切り替えも一部実施し、集約拠点までは有人輸送が行われる。

なお、切替拠点については、同社の株主でもある三菱地所が、京都・神奈川・宮城で構築してる高速道路直結の次世代物流センターを利用するほか、自社独自でも神戸や名古屋なでに拠点を構築していく予定になっているという。

7月からレベル2 自動運転トラックを用いた輸送事業開始

T2では、2025年7月からレベル2 自動運転トラックを用いた輸送事業を開始し、2027年10月からレベル4へと徐々に移行。この間の2年は、運送会社としての足腰を鍛えるとともに、通常とは異なる自動運転の輸送オペレーションを改善していくという。「完全無人で、レベル4の10tトラックが走るということに安心感が必要」という森本氏は、「この2年間でしっかりとデータを世の中に開示し、社会の受容性を高め、レベル4にスムーズにつなげていきたい」との展望を明かした。

なお、レベル4が輸送にどのような影響を与えるかについては、現在、東京・大阪間を一往復するのに2日強の時間を要するが、自動運転になると、1日最大15時間と定められているドライバーの拘束時間と無関係に運行が可能となるため、1日で東京・大阪間の往復が可能。輸送能力を現状の約2倍に高めることが可能になるという。

そして、レベル4に移行後は、「距離が長ければ長いほど、自動運転のニーズが高まる」ことから、事業エリアを中四国、九州まで延伸。2032年には2,000台規模での輸送が計画されている。

T2は、すでに運送業界だけではなく、さまざまな業種との共同実証を進めているが、「酒類・飲料業界をリードする代表的な4社と共同実証をご一緒させていただくことは、弊社にとっても非常に大きなオポチュニティ」と語った森本氏。

酒類・飲料業界は、他業界に比べて輸送量およびトラックの運行数が多く、需要が高まる季節はドライバーの確保が困難になる事態も予想されることから、輸送能力の低下は消費者への製品供給が遅れるというリスクをはらんでおり、「持続可能な輸送体制の構築が喫緊の課題」であることが、今回の実証における背景となっている。

  • 実証のイメージ

半年の検証機関で8往復の運行予定

今回の実証の具体的な内容としては、2025年6月~11月の期間に、関東・関西間で、計16回(8往復)の運行を予定。

具体的には、6月9日(往路)に、キリンビール横浜工場からキリンビール神戸工場まで「キリン一番搾り生ビール」、6月10日(復路)に、アサヒビール吹田工場からアサヒビール茨城工場まで「アサヒスーパードライ」を輸送。

さらに、6月12日(往路)には、サッポロビール千葉工場からサッポロビール大阪物流センターまで「サッポロ生ビール黒ラベル」、6月13日(復路)には、サントリープロダクツ宇治川工場からサントリー海老名配送センターまで「サントリー クラフトボス ラテ」の輸送が予定されており、「容器や重量を変えて検証し、自動運転による有効性や最低限のオペレーションを4社と確認していきたい」とした。

酒類・飲料物流子会社4社の見解

これまでアサヒグループとして、モーダルシフトや中継輸送、トラックの積載効率を上げるなどの対策を行ってきたが、「それだけの対策では十分と言えず、根本的な改革や、さらなる施策の強化が求められている」という現状を示した、アサヒロジ 代表取締役社長の児玉徹夫氏。

ドライバー不足や社会全体の輸送能力の確保といった、社会的物流課題の解決に向けて、自動運転に大きな期待を寄せ、今回の実証においては、「我々がこれまで培ったビールや飲料に関する知見を活用し、業界全体で協力して、自動運転の本格稼働に向けた取り組みを推進していきたい」との意気込みを明かした。

  • アサヒロジ 代表取締役社長の児玉徹夫氏

「将来にわたって、お客さまに安心安全な状態で商品をお届けすることを最優先とするため、輸送手段についても、複線化、いろいろなオプションを用意してきた」と述べたのは、キリングループロジスティクス 代表取締役社長の小林信弥氏だ。

ドライバー不足を日本の社会課題と捉え、「しっかりと輸送力を確保しながら、継続して対応していきたい」との思いから、今回の実証に参画した意図を明かし、「各社それぞれの知見やナレッジをひとつのテーブルに出し、それをしっかりと膝詰めで話をしながら課題を洗い出していくことが肝要」と、4社で実施することの意味を説明した。

  • キリングループロジスティクス 代表取締役社長の小林信弥氏

物流業界が抱える課題に対して、社内オペレーションの改善、輸送手段・輸送経路の多様化などの取り組みを行う、サッポログループ物流 代表取締役社長の服部祐樹氏は、「自動運転は、課題解決に対して、大きな役割を担う取り組みである」と同時に、「物を運ぶということ自体は、どれだけ技術が発達しても決して無くならないもの」であることから、「社会インフラを支える事業として、われわれは大変大きな責務を担っている」との認識を明かした。

そして、服部氏は「今回の実証は完全な自動化に向けた一つのステップ。このスピード感がさらに高まるように、4社が一緒になって取り組むことでその後押しができれば」との考えを示した。

  • サッポログループ物流 代表取締役社長の服部祐樹氏

「物流問題に関する課題はそれぞれ相関関係が強く、ひとつを解決したからすべてが解決するといったものではない」ことから、「商習慣そのものを再構築していく必要性」について言及したサントリーロジスティクス 代表取締役社長の髙橋範州氏。

商習慣を変えるためには相当な時間が必要であり、それが消費者の理解を得るところまで考えると、さらなる時間が必要となる。だが、自動運転に関しては「各業界、非常にコンパクトな形でスピード感を持って進められているところが非常に有用性が高く、経済効果も早期に見込めるところが重要なポイント」と、髙橋氏は評価した。

そして、4社が取り扱う商品が、ビン・缶・ペットボトルなどの重量物であり、液体が中心であることから、「実証実験におけるデータ集積が有用かつ、次につなげられるものになる」との見解を明かした。

  • サントリーロジスティクス 代表取締役社長の髙橋範州氏